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わずかに
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「おはようございます。」
学園に来て、まず一番にしたことは王子への挨拶だった。
ただ普通に、何の変哲もない挨拶をするだけ。
冷たくて怖いけれど、前に立ってまっすぐと見る。そして予想に漏れず冷たい眼差しが返ってきた。
だけどここはクラスで席に着いていて、動けないところで誰にでも見られる場所だ。周りの期待の篭った目や興味の目から逃れられないんだろう。
「……おはよう。」
長年見てきた自分から見ればぎこちないが、周囲から見れば完璧な微笑みで挨拶が返ってきた。アレンシカはそれだけに満足していつも通りの遠くの席に座った。
「アレンシカ様、大丈夫でした……?」
「大丈夫だよ、ありがとう。」
「でも……。」
「なんともなかったよ。挨拶だけだしね。」
ぎゅっとペンを持って珍しく緊張した面持ちのプリムに安心するように笑った。
今までがぎこちなかったのだ。いくら未来で酷く婚約破棄されるのだとしても、せめて穏便に円滑に破棄されるぐらいにはできるはずなのに。
いや、むしろそれを目指していた筈なのだ。
エイリークとは今、友達になって良い関係を築けている。たとえ未来で彼を選んだとしても悔恨を残すような未来にしないことだって出来るのに、今までウィンノルの目が冷たいからと避けることしかできていなかった。
チラリと目だけで見てみると、王子はもうこちらのことなんて気にしてすらおらず、教科書を手にしてるだけ。何も変わらない。
「今日も提出の課題あるけど…プリムはちゃんと用意してる?」
「してますー。」
「へえ、珍しい。いつも言われなきゃやらないくせに。」
遅れてやってきたエイリークが隣りに席に立った。プリムがエイリークに見せるように課題を出すと、パラパラとザッと目を通した。
「……まあ内容が合ってるかはともかく……アンタだって期限守って出せるのにねぇ。」
「人は出せるんですよー。人はー。」
「まあそうだよね。」
エイリークは課題をプリムに返すと、訳知り顔のプリムは課題を受け取った。
「さて、今日もボクは行くかな。」
「またです?まだなんです?今日で何日めですか?」
「もう十日も出してないからね。人と違って。」
荷物と授業の準備をしたエイリークはまっすぐと歩いて行った。向かった先は王子の元だ。今日も今日とて出されていない課題を催促する為だ。王子の前に立ったエイリークは険しい顔でウィンノルを叱り始めた。おそらく今日も課題は提出されないのだろう。
「よくやりますよねぇ。私だったらもうポイってしちゃいます。アレンシカ様はどうですか?」
「僕は……うーん?」
「やらないって言ってたけど、私だったらルジェ君に投げちゃいます。エイリーク君もルジェ君に任せちゃえばいいのに。」
「責任感がとっても強いからねエイリは。」
「責任感ですかー?あれはそんなもんですかねー?」
首をひねるプリムを横目に再び二人のほうを見た。
新しい学年になってから、婚約者である自分よりも遥かに対等な関係に見える二人に、いつもならくすぶる劣等感や引け目に落ち込む気持ちが今日はあまり感じなかった。
それは先程挨拶ができたからだろう。
もっともそれはただの挨拶だし、ウィンノルもただ笑みを返すだけで何も変わらなかったけれど、普段から冷たい目で見られるだけの自分には充分な進歩だった。
このまま、せめて普通に、ただ会話だけでもできるように関係になれれば。
アレンシカはただそう思った。
学園に来て、まず一番にしたことは王子への挨拶だった。
ただ普通に、何の変哲もない挨拶をするだけ。
冷たくて怖いけれど、前に立ってまっすぐと見る。そして予想に漏れず冷たい眼差しが返ってきた。
だけどここはクラスで席に着いていて、動けないところで誰にでも見られる場所だ。周りの期待の篭った目や興味の目から逃れられないんだろう。
「……おはよう。」
長年見てきた自分から見ればぎこちないが、周囲から見れば完璧な微笑みで挨拶が返ってきた。アレンシカはそれだけに満足していつも通りの遠くの席に座った。
「アレンシカ様、大丈夫でした……?」
「大丈夫だよ、ありがとう。」
「でも……。」
「なんともなかったよ。挨拶だけだしね。」
ぎゅっとペンを持って珍しく緊張した面持ちのプリムに安心するように笑った。
今までがぎこちなかったのだ。いくら未来で酷く婚約破棄されるのだとしても、せめて穏便に円滑に破棄されるぐらいにはできるはずなのに。
いや、むしろそれを目指していた筈なのだ。
エイリークとは今、友達になって良い関係を築けている。たとえ未来で彼を選んだとしても悔恨を残すような未来にしないことだって出来るのに、今までウィンノルの目が冷たいからと避けることしかできていなかった。
チラリと目だけで見てみると、王子はもうこちらのことなんて気にしてすらおらず、教科書を手にしてるだけ。何も変わらない。
「今日も提出の課題あるけど…プリムはちゃんと用意してる?」
「してますー。」
「へえ、珍しい。いつも言われなきゃやらないくせに。」
遅れてやってきたエイリークが隣りに席に立った。プリムがエイリークに見せるように課題を出すと、パラパラとザッと目を通した。
「……まあ内容が合ってるかはともかく……アンタだって期限守って出せるのにねぇ。」
「人は出せるんですよー。人はー。」
「まあそうだよね。」
エイリークは課題をプリムに返すと、訳知り顔のプリムは課題を受け取った。
「さて、今日もボクは行くかな。」
「またです?まだなんです?今日で何日めですか?」
「もう十日も出してないからね。人と違って。」
荷物と授業の準備をしたエイリークはまっすぐと歩いて行った。向かった先は王子の元だ。今日も今日とて出されていない課題を催促する為だ。王子の前に立ったエイリークは険しい顔でウィンノルを叱り始めた。おそらく今日も課題は提出されないのだろう。
「よくやりますよねぇ。私だったらもうポイってしちゃいます。アレンシカ様はどうですか?」
「僕は……うーん?」
「やらないって言ってたけど、私だったらルジェ君に投げちゃいます。エイリーク君もルジェ君に任せちゃえばいいのに。」
「責任感がとっても強いからねエイリは。」
「責任感ですかー?あれはそんなもんですかねー?」
首をひねるプリムを横目に再び二人のほうを見た。
新しい学年になってから、婚約者である自分よりも遥かに対等な関係に見える二人に、いつもならくすぶる劣等感や引け目に落ち込む気持ちが今日はあまり感じなかった。
それは先程挨拶ができたからだろう。
もっともそれはただの挨拶だし、ウィンノルもただ笑みを返すだけで何も変わらなかったけれど、普段から冷たい目で見られるだけの自分には充分な進歩だった。
このまま、せめて普通に、ただ会話だけでもできるように関係になれれば。
アレンシカはただそう思った。
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