天使が私に落ちてくる

高遠 加奈

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お散歩にはキケンがつきものです!

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保育園には、お散歩がある。


お友達ふたりで手をつないで、近所を歩いたり、近くの公園へ行ったりする。


手をつなぐお友達は、名前の順番で


おだ ゆうか

かいどう つかさ


で天使とになった。


あたしの名字は小田なんてつまんないのなのに、天使は海堂だとかカッコいいので、なんだか不公平だ。


それでも、とりあえずはあたしのほうがお姉さんなので、天使の面倒を見てあげることにする。


ただご近所を手をつないで散歩しているだけでも、お爺ちゃんやお婆ちゃんから可愛いわねぇって声がかかる。


………天使にだけど。


確かに可愛いのはわかるけど、女の子のあたしよりも男の子の天使ばかりがちやほやされて、つまらない。



公園について、さあ皆で遊びましょうとなって、あたしはトイレに行きたくなった。


「せんせーおトイレ」


天使と繋いでいないほうの手をあげて聞くと、


「他にも行きたい子はいるかなー? 」


と先生が聞いていた。はーいと何人かが手をあげたのを見て、


「じゃあ陽子先生と行きますよー」


と言ったので、天使から離れておトイレに行った。


すぐに天使のところに戻る気がしなくて、ぐずぐずと最後にならぶ。


それでも順番がきて、おトイレを済ます。


ゆっっくり手を洗って戻ると、みんな遊んでいていなかった。





………今、遊ぶ気分じやないだけだし………





ぐるりと回りを見回すと、木の影にくるくるした巻き毛が見えた。


どこかで、見たことがある。


そう思ったら、体が動いていた。





「なに、してんの」


木の影には、目に涙をいっぱいためた天使がいた。あたしが行くと、そのうるうるした目で『助けて』って言ってきた。


「その子、どうするのおばちゃん」


天使の手を力いっぱい引っ張っているのは、ママなんかよりも年上のおばちゃんだった。

一生懸命引っ張っても、天使が動こうとしないので、怒っている怖い顔をしていた。


「嫌がってるんだから、放してあげなよ! 」

「そんなことないわよね? これから美味しいおやつを食べに行くのよ」


本当かと天使を見ると、ふるふると頭を振った。




「やめなよ! 怖がってるんだから、行かないよ! 」


あたしの言葉に天使は、こくこくと頷いた。


「それなら、あなたも来ればいいわ。生クリームと苺がいっぱいのケーキよ? 」


残念ながら、あたしはショートケーキはあんまり好きじゃない。フルーツが乗っているなら、いろんなフルーツの乗ったタルトのほうが好きだ。


自分が好きなものを、他の人も好きだなんて思い込みが激しい。


「………帰ろう」


あたしが天使の手を取ると、うるっとした目でこくんと頷いた。たちまち涙がこぼれてしまったのを、ピンクのうさちゃんのハンカチでふいてあげる。


「泣かせるなんて酷い子ね。お姉ちゃんと来ればおもちゃも買ってあげる」


今度はおもちゃで釣ろうなんて! 泣かせたのはあんただよ! あんなに泣かないように頑張ってたのがわかんないの?



それでもってお姉ちゃん?


ママよりずうっと年上みたいなのに!


突っ込みたいことが山盛りあったけれど、あたしはレディなので言わない。


ぐいっと天使の手が引っ張られる。


つられてあたしまで引っ張られるくらいの、バカ力。しょうがないよね、あたしまだ小さいし………



だからって、負けてなんかやるもんか!


大きく息を吸い込む。出来るかぎりの、大声で。


「たすけてーー」


って叫んだ。



「ゆいかちゃん、どうしたの? 」

「どうしたの?」

「なにがあったの」




保育園で仲良しの、千紗ちゃんと、繭ちゃん、朋ちゃんが、あたしの声だと気づいて走って来てくれた。


「あっ、司くん!! 」

「おばあちゃん誰、なんでここにいるの? 」

「司くんをどこに連れて行くつもり? 」


保育園児なめんな。

ましてや女の子はオマセだから、天使の人気は絶大なものがある。その天使が誘拐されかかっているとなれば、黙ってるわけがない。


「司くんを放しなさいよ!」

「せんせーゆうかいだよっ」

「みんな、助けてーー」


皆が口々に叫び始めた。


さすがにこの状況はまずいと思ったのか、おばちゃんは天使をつかんでいた手を放して逃げようとした。


とっさにおばちゃんの服をつかむと、天使もおばちゃんの服の袖をつかんでいた。


「謝ってよ!天使を泣かせたんだから!」



天使は泣き虫かもしれないけれど、精一杯ガマンしていた。


体の大きな、知らない大人に捕まえられて、すごく怖い思いをしたはずだ。


それなのに、悪いことをしたのに、謝らないなんてない。


「ごめんなさい、して」


きっと眉を釣り上げたおばちゃんは、どんっとあたしを突き放した。


「そんなこと言うわけないでしょ! 美味しいお菓子を食べさせてあげるって言ったのにバカね! 」


おばちゃんは、本当に自分のことしか考えてない……


それがちょつと悲しくなった。言ってもわからないって、なんだか悲しい。


「ゆいかちゃん! 」




天使が飛んで来て、心配してくれる。


あんなに怖い思いをした天使だって、こんなに優しいのに。


まだ騒いでいる女の子達から逃げるように、おばちゃんは去って行った。


「おばあちゃん退治カンリョー」

「悪いんだーおばあちゃんなんて」

「だってどう見たっておばあちゃんだよ? カワイイ司くんがウラヤましかったんだ!! 」


あたしは自分で立ち上がって、服についた泥を
はたいた。


無言で身繕いをしていると、天使がうるうるの目で、「いたくなかった? 」と聞いてきた。


突き放されたのもショックだったけれど、あのおばちゃんが何を考えているのかわからなくて、怖くなった。


じわりと涙がにじんでくる。


怒っていてわからなかったけれど、やっぱりあたしも怖かった。


今になってそう思う。



「ゆいかちゃん、怖かったね 」


一番怖い思いをした天使にそう言われて、泣くに泣けなくて、ぶるぶる震えだす。


我慢しているので、顔も赤くなってる。きっと猿みたいに赤い。



そんなあたしを天使が背中をなでたり、手をにぎったりしてくれていると、先生たちがやって来た。


何がおこったのか、沙紀ちゃんや萌ちゃんが先生に話してくれる。


聞いた先生が、びっくりしてあたし達の所に来ると、


「怖かったねぇ。気付いてあげられなくてごめんね」


そう言って痛いくらいに抱きしめてくれた。







お散歩事件は、すぐに天使ママの知るところとなりめちゃくちゃ謝られた。


「助けてくれたお礼」


そう言って、天使の家でお菓子バイキングとなっている。


普通の家で、サンドイッチやスコーンの乗った三段ラックはないだろうが、天使の家にはそれがある。


大きな銀のお盆に小さくカットされた何種類ものケーキや、ガラスの器に入ったプリン、杏仁トウフ、カタラーナ……見ているだけでよだれが垂れてきそう。


天使ママを見ると、


「どれでも好きなだけ食べてね」


とにっこり笑ってくれた。


やったあーー


さっそくお皿に溢れるほどケーキを乗せて、飲み物とフォーク、スプーンで準備はOK。


「いただきます」


ご挨拶をしてチーズケーキをひとかけら切り取る。ちなみにこれはベイクのほうで、レアよりもベイクのほうが好きだ。






「………ゆいかちゃん!! 」


なんでこうもタイミングが悪いんだろう。


見た目は天使なのに。


天使だったら、タイミングばっちりで出てきそうなものなのに。


「なあに? 」


仕方なくフォークと、それに刺さったチーズケーキをお皿に戻す。


「……あのね……」


そう言ったまま、天使はもじもじと服の裾をつまんでこちらを見ようともしない。


はーやーくー


チーズケーキは逃げないけれど、確実に風味は落ちる。そして口のなかにつばが溜まる。口をつぐんでいないと、よだれが垂れそう。


「あのね、助けてくれてありがとう。ゆいかちゃんに助けてもらえて、すごく嬉しかった」


もじもじとお礼を言う天使は、とても可愛いらしかった。それを言わせた自分を誉めてやりたい。


「ゆいかちゃん、すごくカツコよかった。超特急マンみたいだった!! 」


キラキラと瞳を輝かせて、頬はバラ色でそれはそれは天使だった。


ただ内容が残念。


特急マン……日曜日の、朝のアレだ。


あたし、ソレ?

 
憧れの眼差しを向けられるのは嬉しいけれど、女子としては残念な感じだ。










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