13 / 25
そうだん
しおりを挟むカシャ カシャ カシャ
カメラのシャッターの連続で切られて、ゆらゆらと服を揺らしたモデルの一瞬が切り取られる。
「雉奈ちゃん、目線こっち~
いいよ、カワイイ」
軽くて脳天気な撮影風景。それが礼治さんの持ち味だってわかってるのに、苛立ちが治まらない。
撮影中は裏方に徹するけれど、ひどい苦痛にしか感じられなくて眉間にしわが寄る。
「ん~~
じゃあ休憩はいろっか」
礼治さんの声に、ほっとして手で顔をおおう。一人でいらいらして酷い顔をしてるのがわかった。
礼治さんのことは、尊敬しているし、撮る写真も凄いと思う。
それなのに、今まで感じたことのないストレスで過敏になっている自分には、礼治さんの軽さが受け入れられない。
ため息をこぼして礼治さんのコーヒーを用意する。気難しいモデルのいる今日は、少し甘めに調整した。
「礼治さんお疲れさまです」
カップを差し出すと、カメラの調整をしていた礼治さんはにやりと笑った。
「結輝もなんだかお疲れなんじゃない? 撮影中、ここにシワ寄ってた」
とんとんと軽く自分の眉間を指す。
「もしかして女? だったらさ、経験豊富な俺が相談に乗ってもいいよ? 」
冗談めかして言うのは、断られてもいいって予防線であることは知っている。
軽く流せるくらいの悩みなら、心配ないから深入りはしてこない。
だから誰にも言えずにいるなら、話くらい聞く。
そんな礼治さんのスタンスに、やっぱり大人になりきれない自分を感じる。
「仕事が終わったら、メシ食いに行きませんか」
これが自分の精一杯だ。
「了解
予定どおり、きっちり終わらそ」
見ようによっては意地悪そうにも、優しそうにも取れる笑顔を浮かべている。
満足そうにコーヒーに口をつける姿を見て、余裕がない自分はまだまだだとそっとため息をこぼした。
「お疲れさまでした」
モデルやメイクさんに挨拶をして片付けると、礼治さんがそばに来た。
「行こっか」
「たかむらに予約入れておきました」
「ん。いいね
今日はサシでゆっくり飲みたいからね」
機材を手分けして車に積み込み、一旦事務所に車と荷物を預けてから徒歩で店に向かう。
この小さな店は味も良くて酒の種類も豊富なため、礼治さんのお気に入りだ。
暖簾をくぐるとカウンターに席の用意があって、店長と目があった。
「いらっしゃい」
威勢のいい声に背筋がしゃんとしてしまう。
「こんばんは。
結輝が予約してくれたんだけど、今日はいいのある?」
くいっと杯を傾ける仕草をして、礼治さんがお酒を選び始める。
いろいろ取り揃えてあるなかから、グラスで試せることから気軽に楽しめる。
「ん~~
じゃあ俺これにするわ。結輝どうする?」
話を振られて、とっさについていけず、無難に同じ物を頼む。
「まあ、結構強いけどいっか」
こちらの状態を察したらしく礼治さんは笑みをはく。
「そんないっぱいいっぱいで、どんなイイ女なわけ」
イイ女と言われて沙那さんのボディラインが浮かんだ。女性らしい曲線、出る所は出てくびれもある、男からしたら、堪らなく魅力的な人。
小柄なミオと比べても、女性としての成熟度が格段に違う。ミオはふっくらとして柔らかそうで、ミオの作るお菓子みたいだ。
「……すっごい綺麗な人なんです」
「ふ~~~ん。年上、なんだ」
言い当てられて顔が熱くなる。
「恋愛ってさ、無防備だよね。どんなに隠したくても隠せなくて、ちょっとした隙に滲み出るんだよね。
にやけたり、落ち込んだり自分じゃどうにもできなくなる」
カウンターに置かれた日本酒を前にして、礼治さんは優しい顔になる。
普段は、自ら進んで軽い人間を演じているかのように見える程、落ち着いた大人の雰囲気を醸し出していて、ついぽろりと言葉がこぼれ落ちた。
「俺は、自分が情けなくなるばかりです。彼女と釣り合うくらいの男になりたいのに、実際は子供すぎてヘタレすぎて頼ってもらうこともできない。焦っていらついて、礼治さんにも回りにも迷惑かけてばかりです」
「結輝はさ、年の割にしっかりしてるよ。アシスタントとの息があってるかで、カメラマンの仕事は大分楽になる。
モデルや回りにも気を使えるかで、仕事がスムーズに行くだろ。
仕事であれだけ段取りしてて、彼女にはダメな訳? 」
自分の前に置かれた日本酒をまじまじと見る。透明な水のような液体でありながら、体を焦がす熱さがある。
「やっぱり、勝手が違うというか……ぶっちゃけわからないことも多いんです」
ははっと軽い笑いがして見ると、礼治さんがカウンターに片肘をついて体をもたせ掛け笑っていた。
「そりゃ当たり前だって。だってさ、赤の他人なんだよ? 生まれた場所や育った環境、受けてきた教育、社会に出てからとか、みんな違う訳。
だからほんの僅かな共通点だって愛おしいと思えるだろ? 」
彼女と行ったバラ園で、飽きもせず付き合ったことが懐かしい。
あの時、沙那さんとの距離はとても近いものだった。
「好きになると、途端に怖くなることがあるだろ?」
優しい顔をした礼治さんは、体をこちらに向けたまま話す。
目を見つめたまま、頷くと唇の端がちょっと上がる。
「嫌われたくないとか、うざいと思われないかとか、ちょっとしたことで不安になったり悩んだりするだろ」
俯くと、なみなみと注がれた酒に眉尻の下がった情けない顔が浮かんでいた。
「こんな俺でいいのかって……どうしたら釣り合うのか悩んでばかりです」
「子供っぽいとか、釣り合うかとか、どうでもいいんだって。
自分の気持ちが大切」
とんとんと胸を叩いて見せる。
「好きだって気持ちを持っていたら、大丈夫なことって結構ある。
それがわかんなくなるとダメになる」
くいっと酒を煽る礼治さんは、そんな経験があったのか眉を寄せて強い酒を味わっていた。
「俺はね、好きだったし、大事にしてたと思っていたのに、その人の気持ちが見えなくなってた。
本当はすげー無理してたのを気づいてやれなかった。結局、心を壊すまで追い込んですっごく後悔した。
彼女が好きだと言ってくれたことに甘えてた。仕事が忙しくなって、彼女のために頑張って仕事をしてるつもりだった。ちゃんと話していたら彼女の変化がわかるはずだったんだ。
だから、きちんと好きでいて、そばにいて話をしないとダメなんだよ」
「彼女を好きだという気持ちなら、誰にも負けません」
ライバルが、たとえ年上のイケメンシェフだとしても。
自分を選んでくれた沙那さんを信じよう。
「彼女と話してみます。聞きづらいことも、話しづらいことも、みんな話してみます」
こくこくと礼治さんが頷いて、またちびりと酒を飲みこんだ。
「もうさ、結輝なんか若さと勢いしかないじゃない。おぢさんなんか、ついていけない」
いつもの軽い調子で笑って、呆れたように話題を替えていく。
ありがたい、と思った。不機嫌な態度を隠すことなく仕事をこなした自分を心配して、相談する場所を設けてくれたり自分の辛い思い出まで話してくれた。
俺は上司に恵まれてる。
うるっときた目をごまかすために、コップの酒を煽った。
「~~~効きますね」
強い酒が喉を焼いて滑り落ちていく。
「だろ? なんか食べときな」
笑いながら礼治さんが刺身をすすめてきた。それからは和やかに酒宴が続いた。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる