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いわない
しおりを挟む「話がしたい
いつ会える?」
沙那さんにメールを送った。迷ったあげく、そっけなくなってしまったけれど思い切って送った。
付き合っているのなら、『会いたい』の一言だけでもいいのかもしれないけれど、どうしても聞きたいことがある。
格好悪いばっかりの自分。そう思うと、どこを好きになってもらったのかまで怪しくなる。
『いいわよ。行きたい所があるの。
付き合って』
帰ってきたメールに了解して、土日勤務だから、平日に休みを合わせて会う約束を取り付ける。
とりあえず、一歩前進。
だから、沙那さんが何を求めているか、まだ本当の意味でわかっていなかった。
会社の車を借りて、約束した駅で待っていると、ワンピースの裾を翻した沙那さんがこちらに向かって歩いてきた。
仕事でみる沙那さんとは違って、フェミニンなかわいらしい姿だった。
長い髪は巻いてあり、大きめなピアスが歩くにつれて揺れている。姿勢のいい足元には、綺麗な脚を引き立てる7センチのヒール。手には大きめな紙袋を下げている。
こんな所でファッションチェックしてしまうのも、礼治さんの仕事のせいだ。
すっかり女性のファッションに詳しくなってしまった。
通り過ぎようとするのを、窓を下げて呼び止める。
「驚いた! 結輝、運転できるんだ」
助手席に滑りこんできた沙那さんが笑うと、耳に心地好い声に、こちらまで嬉しくなる。
「仕事で使うから。都内のスタジオでも機材を抱えて行くのは重いからね」
「あたしもよ。ブライダルなんて、どうしたって多荷物になるしね。免許ないと辛いわ」
都内であれば、交通事情はいいので、わざわざ車を維持しなくても用が足りる。それでも、仕事上必要なのは一緒だったようで、くすくす笑いがこぼれる。
ささやかな共通点。
それが見つかったことで嬉しくなった自分がいる。
「さて、どこに向かったらいい?」
ハンドルに手をついて顔を覗きこむと、沙那さんはおおまかな住所を言った。
「あとは着いてからのお楽しみ」
ナビが示した先に大きな公園が見えて、躊躇うことなく設定をした。
車が走り出しても、お互いに会えなかった時間を埋めるように話が尽きなかった。
こんな時間をずっと過ごしていけるなら、それを幸せって言えるんだろう。
やがて公園の駐車場に車を乗り入れて停めると、沙那さんが先にたって歩きだした。
歩くのはヒールの高い沙那さんに合わせているので、ゆっくりめ。身長の高い沙那さんは足も長いので、そんなに遅いわけじゃない。
どこに向かうのかとついて行くと、公園の敷地から出て道を渡ってしまう。
「沙那さん、そっちは……」
「いいの。あたしの目的地はここよ」
慌てて見上げた建物は、病院だった。七階建ての大きな大学病院で、よく政治家や芸能人も入院するからテレビで見たことがあった。
慣れているらしく、入口をくぐるとエレベーターの上昇ボタンを押して、到着するのを待っている。慌てて追いついて顔を覗きこんだ。
「沙那さん、誰のお見舞いなんですか? 」
「騙すみたいに連れてきてゴメンなさい。結輝にあってもらいたいのは、ここに入院してる母親なの」
びっくりして声が出ないでいると、さらに沙那さんが言いつのる。
「結輝はあたしと付き合ってるんでしょう。だから別に家族に紹介したって大丈夫よね? いつまでも結婚しないでいるから、安心させてあげたいのよ」
「……そういうことなら。ただ、事前に言ってもらえたなら、もっときちんと出来たのに」
言ってもらえたなら、はき古したジーンズとくたびれたシャツでなく、もう少しまともな服でこれたし、初対面のお母さんに手土産のひとつも用意できた。
ただ家族に紹介すると言っていても、病気の母親となったら一気にハードルが高くなる。
病気の母親を安心させたいだけだとしても、この先に沙那さんのウエディングドレス姿を期待されるんじゃないのか。
好きだったら、何をしてもいい訳じゃないし、こちらの意思を確認してくれないことに苛立ちがある。
考え込んでいるうちに、エレベーターが到着して乗り込むと、沙那さんが慣れた様子で6階を押す。
ちらりと階数案内を見ても、何科の病棟だといような表示はなくて、病気について詳しく聞いていいものか悩んでしまう。
エレベーターを降りてナースステーションを越えると、病室がドアを並べている。
ナースステーションに近い個室の前で、沙那さんはここよと告げてドアをノックした。
「お母さま、沙那よ。入っていいかしら」
「あら。沙那さんいらっしゃい」
ドアを開けると、白く清潔な部屋のベットの上には、沙那さんに良く似たほっそりした女性が体を起こしていた。
沙那さんを見て、後ろにいた俺に気がつくと、良く似た目を丸くした。
「まあ。まあまあっ沙那さんそちらの方、どなた。ご一緒しているなんて仲がいいのね」
「お母さま、そんなに驚かなくてもよくってよ。わたしがお付き合いしている、相模結輝さん。今日はお見舞いに付き合ってくださったのよ」
紹介されて頭を下げる。
「相模です」
「やだわ。若くてイケメンですのね。沙那さん、こんな素敵な方といらっしゃるなら、きちんとおっしゃってくださらないと。わたくしこんな姿でなく、もっときちんとしたかったわ」
入院していても、髪をきちんと整えて、薄化粧をした顔を赤らめて沙那さんを責める。
入院しているのだから、もちろんパジャマだけれど、花柄の明るいパジャマは良いものだと一目でわかる。
「沙那さんのお母さんだけあって、似てられますね。とってもお綺麗です」
「やだ。口もお上手なのね」
ぱたぱたと手を振っているさまは、大人の女性なのに可愛らしい。育ちの良いお嬢様が、そのまま母親になったような感じだ。
「お世辞じゃありません。沙那さんと姉妹みたいにお若いです」
そう言うと恥ずかしがって、またぱたぱたと顔の前で手を振る。
「やだ、あたしが老けてるってこと?」
左側だけ口角をあげた沙那さんは、意地悪く呟く。
「違うでしょ。お母さんが若いって話だよ。沙那さんだって、すごく…きれいだし…」
最後のほうは、ごにょごにょと声が小さくなる。こんなに、面と向かって褒めたことなんてなかったと、言いながら気がついたからだ。
「結輝が褒めてくれるなんて初めて」
にやりと笑う沙那さんから顔を背ける。このままでいたら、いいようにいたぶられてしまいそうだ。
「……もう言わない」
恥ずかしくて、背けた顔が熱い。触ってみていないけれど、赤くなっているのなら、なおさら恥ずかしい。
「沙那さん、相模くんに意地悪しないで。相模くんが可哀相よ。そうそう、お茶もお出ししてないわ。売店までお使いに行ってきて頂戴」
お母さんにそう言われると、渋々と沙那さんも従うようで、お見舞いのお花だけは置いていくと言って、大きな紙袋からアレンジ・フラワーを出してサイドテーブルに置いた。
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