Focus

高遠 加奈

文字の大きさ
22 / 25

まもって

しおりを挟む

「はっきりしない態度にはうんざりしたわ」

つんと顎をそらせて沙那さんが言う。

「まだ自分達にはいくらでも時間があると思っていたんだ。沙那はお父さんの反対を押し切って自分の店を持ったから、和解なんて出来ないと思っていた……

それを相模くんが和解させたと聞いて、焦らないはずかないだろう……

沙那の気持ちが相模くんに傾いていったとしても、まだ俺にも気持ちが残っていないのか。

俺達は嫌いあって別れたんじゃないだろう。すれ違いでお互いの気持ちがわからなかっただけなんだよ」


いつもクールな御山さんが、熱心に沙那さんに言い募っている。


それだけ沙那さんが大切なんだろう。そこは負けていないと思うのに、沙那さんの隣へ踏み出す勇気がまだなかった。


屈み込んで片膝をついた御山さんが、左胸のポケットから、ベルベットの小箱を取り出して沙那さんへ差し出した。


「沙那は自分の店を取るか、両親の店を守るか悩んでいたんだろう? 俺を選んで。俺が沙那の両親の店を守っていくよ」


驚きに見開いた沙那さんの目から、はらはらと大粒の涙がこぼれ落ちる。


「俺にしときな。一生後悔させない」


「……ありがとう。私の大切な店を守って……」


沙那さんの手がベルベットの小箱に伸ばされる。箱に重ねられた手を、御山さんの大きな手が包みこんだ。



左胸にあるポケットから取り出したベルベットの小箱は、そのまま心臓から気持ちを取り出したように見えた。

そのまま伸ばされた左手に血が通うように、御山さんの気持ちが込められているようだった。



固唾を飲んで見守っていた人達から、わあっと歓声と拍手が沸き上がる。

ぼんやりと見ている俺の横で、やっぱりもらい泣きしているミオが盛大に拍手していた。



あぁ、俺振られたんだ。



御山さんが言っていたことは本当だったんだ。沙那さんがそんなに悩んでいたなんて知らなかった……

気付けなかった時点で、俺は負けていたんだ。


箱を開けて取り出されたリングが、透明な輝きを伴って沙那さんの左手薬指にとまる。


遠くに行っちゃったな…


自分はこうやって憧れの気持ちと、少しの淋しさと、切なさで沙那さんを見ているんだろう。

あの花を生けている横顔に憧れていた。


沙那さんは自分の生ける花のように凛としている。


横顔の沙那さんはやっぱり自分を見てはいなくて、沙那さんの前にあるのは生き生きとした花と御山さんだった。


祝福に沸く人の輪の熱狂がひいてから、ゆっくり沙那さんに近づく。

噛み締めていないと歯がかちかちいいそうで……一歩一歩確実に歩かないと、振るえてしまいそうで……



俺に気付いた沙那さんの目にまた涙が盛り上がる。頬を押さえた沙那さんの様子から、御山さんも俺に気がついた。

支えるように抱き寄せた御山さんを見て、悔しいけれどやっぱり敵わないと思った。



「沙那さん…少しでも俺を好きになってくれてありがとう」



「……ゆう…き…ごめん……」


声にならない、つぶやき。


はらはらとこぼれる涙でさえ綺麗に見える。この人が、自分を見てくれて、付き合ってくれて嬉しかった。

「自分よりも、御山さんのほうが沙那さんのことをよくわかっているんですよ……俺なんか敵いっこない。

御山さんになら、沙那さんのご両親のお店も任せられる。


これがみんなのためになる選択なんです。沙那さんは、間違ってなんかいない」


カメラマンでしかない自分は、沙那さんを支えられたとしても沙那さんの両親の店を守ることなんてできなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。 和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。 政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...