25 / 25
きりとる
しおりを挟む「言いたいことがあるのは、ミオの方じゃないの。食べたせたい奴って誰?」
トントンとその一文の書かれた部分で指が踊る。意外な方向から飛んできた言葉に赤くなり、慌てるミオが視線を逸らせて俯く。
「関係ないとか言うなよ。俺だって協力したんだから」
ミオの困り顔を見ていたら、さらに困らせたくなっている自分がいる。
「いいの…もう食べてもらっているから
」
追及したいところだけれど、頑固なミオはきっと口を割らない。問い詰めたら問い詰めたただけ頑なになって貝のように口を閉ざしてしまう。
真一文字に口を結んだミオに、いつか口を割らせてみたい。赤くなって俯くミオの前に雑誌を差し出す。
開いたページには、ミオの写真がある。
ただ一枚撮っただけの写真。それでも、その写真にはミオの全てが写りこんでいた。
お菓子を作るという工程の、まだ最初の段階でしかない、粉をふるいにかけることを楽しんでいるミオがそこにはいた。
手元を見ながらも、出来上がったケーキを夢見ている瞳は輝いている。わずかな曲線を描く唇はその工程を楽しんでいるし、ふるいに添えられた手は、優しく丁寧だ。
この写真をコンテストに送ることには迷いがなかった。
被写体を、ミオを見てもらいたかった。
ひたむきに、真摯にケーキに向きあうミオが誇らしいと思った。
「入賞してる…」
開いているのは、有名なカメラ雑誌の投稿ページだ。
ため息のように言葉がこぼれる。ミオの唇はうすく開いて震えていて、潤んだ目をぱちぱちとまばたいて、涙を我慢している。
そんな強がりもミオらしい。頼ったり、甘えたりしないミオのことが、気になったのはいつからだろう。
「いい写真だろ」
「そんなのあたしが決めることじゃないし……」
「ミオに聞きたいんだよ。どう思うのか」
「わからないわよ。写真なんて何も知らないもの」
いやいやをするように、頭が振られる。
「ミオの言葉が聞きたいんだよ。聞きもしないで、雑誌に応募したのは悪かったと思ってる。これが、今の俺に撮れた一番いい写真だからこれで勝負したんだ」
じっと見つめると、居心地悪そうに身じろぎする。
「ミオがコンクールで入賞したのも知ってる。これだけで…この入賞だけで収まらない奴だってわかってる。こんなのまだ序の口なんだろ?」
迷うように首を傾げてみたけれど、頷いた顔には迷いがなくはっきりとそうよと答えた。
「俺は、ミオを撮りたい」
「ずっとそばでミオのことを見ていたい。もし肩書きがいるなら、専属カメラマンにしてくれていいから」
「そんな堅苦しいのいらない」
またじわじわとミオの目に涙が盛り上がってくる。
「ほかにないの?」
「ずっと一緒にいてくれミオ……。情けないところばっかり見せてるし、まだ沙那さんと別れて日も浅いのにこんなこといって信じられないかもしれないけど、写真を見たらわかったんだ。
ミオが好きだって」
「ニブチン……バカ……結輝の、バカ」
こらえきれず涙を流すミオを腕に抱く。
「でも嫌いじゃないだろ」
「……うっ…うん……好き」
顔をあげて、必死に涙をこらえてそれだけ言うと、後はもう言葉にならなかった。
コンクールに応募する時から決めていた。もし、入賞したらミオに言うつもりだった。
たったひとりのそばで見つめていたい人。くるくる変わる表情も、意地っ張りなところも全部見ていたい。
一瞬を焼き付けるなら、カメラでなくてもいいのかもしれない。目でも、耳でも心でも。
それでも、だだ一瞬のためだけにカメラを構えるなら、その一瞬がかけがえなく愛おしくて残しておきたい程の価値があるからだ。
切り取ったミオの時間は、巻き戻せはしないし、すぐに過去になっていく。降り積もる程の時間をミオと過ごして思いを重ねていきたい。
カメラが捉えるのは、一瞬の輝きでしかない。それでもその一瞬には、その人の全てが刻まれることがある。
その神が与えてくれる奇跡のような一瞬の輝きをこれからも追い求めていきたい。
その一瞬を与えてくれたのは、ミオだ。
ミオのひたむきさや情熱が奇跡のような一瞬を引き寄せてくれた。
限りのある生の中で、ここまで思いを寄せられる人がいたことに感謝の気持ちが湧いてくる。
愛おしさが募って腕の中のミオを抱きしめると、ぎゅっとシャツの胸にしがみついてきた。意地っ張りで負けず嫌いなミオが、素直になっているのが嬉しい。
泣いているミオをあやすように抱きしめてこれからも知らなかったミオを知ることが出来るのがとてつもない幸せだとわかった。
終わり
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる