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きりとる
しおりを挟む「言いたいことがあるのは、ミオの方じゃないの。食べたせたい奴って誰?」
トントンとその一文の書かれた部分で指が踊る。意外な方向から飛んできた言葉に赤くなり、慌てるミオが視線を逸らせて俯く。
「関係ないとか言うなよ。俺だって協力したんだから」
ミオの困り顔を見ていたら、さらに困らせたくなっている自分がいる。
「いいの…もう食べてもらっているから
」
追及したいところだけれど、頑固なミオはきっと口を割らない。問い詰めたら問い詰めたただけ頑なになって貝のように口を閉ざしてしまう。
真一文字に口を結んだミオに、いつか口を割らせてみたい。赤くなって俯くミオの前に雑誌を差し出す。
開いたページには、ミオの写真がある。
ただ一枚撮っただけの写真。それでも、その写真にはミオの全てが写りこんでいた。
お菓子を作るという工程の、まだ最初の段階でしかない、粉をふるいにかけることを楽しんでいるミオがそこにはいた。
手元を見ながらも、出来上がったケーキを夢見ている瞳は輝いている。わずかな曲線を描く唇はその工程を楽しんでいるし、ふるいに添えられた手は、優しく丁寧だ。
この写真をコンテストに送ることには迷いがなかった。
被写体を、ミオを見てもらいたかった。
ひたむきに、真摯にケーキに向きあうミオが誇らしいと思った。
「入賞してる…」
開いているのは、有名なカメラ雑誌の投稿ページだ。
ため息のように言葉がこぼれる。ミオの唇はうすく開いて震えていて、潤んだ目をぱちぱちとまばたいて、涙を我慢している。
そんな強がりもミオらしい。頼ったり、甘えたりしないミオのことが、気になったのはいつからだろう。
「いい写真だろ」
「そんなのあたしが決めることじゃないし……」
「ミオに聞きたいんだよ。どう思うのか」
「わからないわよ。写真なんて何も知らないもの」
いやいやをするように、頭が振られる。
「ミオの言葉が聞きたいんだよ。聞きもしないで、雑誌に応募したのは悪かったと思ってる。これが、今の俺に撮れた一番いい写真だからこれで勝負したんだ」
じっと見つめると、居心地悪そうに身じろぎする。
「ミオがコンクールで入賞したのも知ってる。これだけで…この入賞だけで収まらない奴だってわかってる。こんなのまだ序の口なんだろ?」
迷うように首を傾げてみたけれど、頷いた顔には迷いがなくはっきりとそうよと答えた。
「俺は、ミオを撮りたい」
「ずっとそばでミオのことを見ていたい。もし肩書きがいるなら、専属カメラマンにしてくれていいから」
「そんな堅苦しいのいらない」
またじわじわとミオの目に涙が盛り上がってくる。
「ほかにないの?」
「ずっと一緒にいてくれミオ……。情けないところばっかり見せてるし、まだ沙那さんと別れて日も浅いのにこんなこといって信じられないかもしれないけど、写真を見たらわかったんだ。
ミオが好きだって」
「ニブチン……バカ……結輝の、バカ」
こらえきれず涙を流すミオを腕に抱く。
「でも嫌いじゃないだろ」
「……うっ…うん……好き」
顔をあげて、必死に涙をこらえてそれだけ言うと、後はもう言葉にならなかった。
コンクールに応募する時から決めていた。もし、入賞したらミオに言うつもりだった。
たったひとりのそばで見つめていたい人。くるくる変わる表情も、意地っ張りなところも全部見ていたい。
一瞬を焼き付けるなら、カメラでなくてもいいのかもしれない。目でも、耳でも心でも。
それでも、だだ一瞬のためだけにカメラを構えるなら、その一瞬がかけがえなく愛おしくて残しておきたい程の価値があるからだ。
切り取ったミオの時間は、巻き戻せはしないし、すぐに過去になっていく。降り積もる程の時間をミオと過ごして思いを重ねていきたい。
カメラが捉えるのは、一瞬の輝きでしかない。それでもその一瞬には、その人の全てが刻まれることがある。
その神が与えてくれる奇跡のような一瞬の輝きをこれからも追い求めていきたい。
その一瞬を与えてくれたのは、ミオだ。
ミオのひたむきさや情熱が奇跡のような一瞬を引き寄せてくれた。
限りのある生の中で、ここまで思いを寄せられる人がいたことに感謝の気持ちが湧いてくる。
愛おしさが募って腕の中のミオを抱きしめると、ぎゅっとシャツの胸にしがみついてきた。意地っ張りで負けず嫌いなミオが、素直になっているのが嬉しい。
泣いているミオをあやすように抱きしめてこれからも知らなかったミオを知ることが出来るのがとてつもない幸せだとわかった。
終わり
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