3 / 6
苦い思い
しおりを挟む
それから数ヶ月して、奴に転勤辞令がおりた。本社への栄転で出世コースだ。
まわりに期待してるぞなんて言われて、まんざらでもないらしく意欲的に仕事をこなしている。吹っ切れたようで何より。こちらも変わりなく仕事をこなす。
我が社では仕事の閑散期に移動があるので、2月8月の閑散期に移動になる。慣らし期間を経て繁忙期を乗り切るためで、引き継ぎや顔合わせなど出張も増え、顔を合わせることも減った。
そして大詰めは奴の送迎会で8月最終の金曜日、プレミアムフライデーにぶち当たった。プレミアムフライデーなんて言ったところで、一部上場企業とか都内の会社がすることであって地方は関係ない。通常業務だ。
そんな送迎会当日、回答待ちの仕事があり事務所に残っているのはあたしだけだ。製品の不具合についての回答で、こちらの検査待ちで先方にすぐに折り返し回答をおくらなければならない。
奴の送迎会なので他の社員も早々に退勤を切って、会場まで移動している。雑務をこなしながら回答を待っていると、奴が事務所に帰って来た。
「お前なら絶対ここにいるだろうなって。期待を裏切らない奴だな」
「仕事ですから」
「わざとじゃないよな? 今日が何の日かわかってるんだろ? 」
「何の日だろうと先方は待ってくれないもの」
こちらの取引先はホームセンターやデパートなどもあり、こちらは休業日でも取引先は営業しているので返答は早めに返している。そのため多少のずれ込みはあるものの、翌日休みだと思えばたいした時間ではない。
「そっちこそ主役が待たせていいわけ? 」
「仕方なくってこともあるだろ」
近寄ってきた奴からは、女性用の香水が香った。転勤なのであちこちの女と話をつけてきたんだろう。香りが移るほど体を寄せて何をしていたんだか。
「なあ、待ってろよ」
「何を」
「二年で帰ってくるから、誰とも付き合うなよ」「なんでそんなこと言うわけ」
「お前を好きだからに決まってるからだろーが。もしオレが嫌なら、その間にとっとと結婚しちまえ」
「それでいいの? 」
「仕方ないだろうが」
「じゃあ本気で婚活するわ」
お互いの顔から内心を読み取るべく見つめ合う。
「……可愛くねーのな」
目を伏せた男が、いきなり肩をつかみ唇を押し付けてきた。一瞬で離れたので、拒否する余裕もなかった。
「それでもお前がいい」
あっさり引き下がった男は、また鞄を抱えて出て行った。もう荷物は持ち出して送っているので、あとは明日引っ越ししてこの街から出ていく。拒めなかったキスは苦味を残して消えていった。
まわりに期待してるぞなんて言われて、まんざらでもないらしく意欲的に仕事をこなしている。吹っ切れたようで何より。こちらも変わりなく仕事をこなす。
我が社では仕事の閑散期に移動があるので、2月8月の閑散期に移動になる。慣らし期間を経て繁忙期を乗り切るためで、引き継ぎや顔合わせなど出張も増え、顔を合わせることも減った。
そして大詰めは奴の送迎会で8月最終の金曜日、プレミアムフライデーにぶち当たった。プレミアムフライデーなんて言ったところで、一部上場企業とか都内の会社がすることであって地方は関係ない。通常業務だ。
そんな送迎会当日、回答待ちの仕事があり事務所に残っているのはあたしだけだ。製品の不具合についての回答で、こちらの検査待ちで先方にすぐに折り返し回答をおくらなければならない。
奴の送迎会なので他の社員も早々に退勤を切って、会場まで移動している。雑務をこなしながら回答を待っていると、奴が事務所に帰って来た。
「お前なら絶対ここにいるだろうなって。期待を裏切らない奴だな」
「仕事ですから」
「わざとじゃないよな? 今日が何の日かわかってるんだろ? 」
「何の日だろうと先方は待ってくれないもの」
こちらの取引先はホームセンターやデパートなどもあり、こちらは休業日でも取引先は営業しているので返答は早めに返している。そのため多少のずれ込みはあるものの、翌日休みだと思えばたいした時間ではない。
「そっちこそ主役が待たせていいわけ? 」
「仕方なくってこともあるだろ」
近寄ってきた奴からは、女性用の香水が香った。転勤なのであちこちの女と話をつけてきたんだろう。香りが移るほど体を寄せて何をしていたんだか。
「なあ、待ってろよ」
「何を」
「二年で帰ってくるから、誰とも付き合うなよ」「なんでそんなこと言うわけ」
「お前を好きだからに決まってるからだろーが。もしオレが嫌なら、その間にとっとと結婚しちまえ」
「それでいいの? 」
「仕方ないだろうが」
「じゃあ本気で婚活するわ」
お互いの顔から内心を読み取るべく見つめ合う。
「……可愛くねーのな」
目を伏せた男が、いきなり肩をつかみ唇を押し付けてきた。一瞬で離れたので、拒否する余裕もなかった。
「それでもお前がいい」
あっさり引き下がった男は、また鞄を抱えて出て行った。もう荷物は持ち出して送っているので、あとは明日引っ越ししてこの街から出ていく。拒めなかったキスは苦味を残して消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
放課後の保健室
一条凛子
恋愛
はじめまして。
数ある中から、この保健室を見つけてくださって、本当にありがとうございます。
わたくし、ここの主(あるじ)であり、夜間専門のカウンセラー、**一条 凛子(いちじょう りんこ)**と申します。
ここは、昼間の喧騒から逃れてきた、頑張り屋の大人たちのためだけの秘密の聖域(サンクチュアリ)。
あなたが、ようやく重たい鎧を脱いで、ありのままの姿で羽を休めることができる——夜だけ開く、特別な保健室です。
義兄様と庭の秘密
結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる