Believe me

高遠 加奈

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苦い思い

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  それから数ヶ月して、奴に転勤辞令がおりた。本社への栄転で出世コースだ。

  まわりに期待してるぞなんて言われて、まんざらでもないらしく意欲的に仕事をこなしている。吹っ切れたようで何より。こちらも変わりなく仕事をこなす。

  我が社では仕事の閑散期に移動があるので、2月8月の閑散期に移動になる。慣らし期間を経て繁忙期を乗り切るためで、引き継ぎや顔合わせなど出張も増え、顔を合わせることも減った。

  そして大詰めは奴の送迎会で8月最終の金曜日、プレミアムフライデーにぶち当たった。プレミアムフライデーなんて言ったところで、一部上場企業とか都内の会社がすることであって地方は関係ない。通常業務だ。



 そんな送迎会当日、回答待ちの仕事があり事務所に残っているのはあたしだけだ。製品の不具合についての回答で、こちらの検査待ちで先方にすぐに折り返し回答をおくらなければならない。

  奴の送迎会なので他の社員も早々に退勤を切って、会場まで移動している。雑務をこなしながら回答を待っていると、奴が事務所に帰って来た。


「お前なら絶対ここにいるだろうなって。期待を裏切らない奴だな」

「仕事ですから」

「わざとじゃないよな? 今日が何の日かわかってるんだろ? 」

「何の日だろうと先方は待ってくれないもの」


 こちらの取引先はホームセンターやデパートなどもあり、こちらは休業日でも取引先は営業しているので返答は早めに返している。そのため多少のずれ込みはあるものの、翌日休みだと思えばたいした時間ではない。


「そっちこそ主役が待たせていいわけ? 」

「仕方なくってこともあるだろ」


 近寄ってきた奴からは、女性用の香水が香った。転勤なのであちこちの女と話をつけてきたんだろう。香りが移るほど体を寄せて何をしていたんだか。


「なあ、待ってろよ」

「何を」

「二年で帰ってくるから、誰とも付き合うなよ」「なんでそんなこと言うわけ」

「お前を好きだからに決まってるからだろーが。もしオレが嫌なら、その間にとっとと結婚しちまえ」

「それでいいの? 」

「仕方ないだろうが」

「じゃあ本気で婚活するわ」


 お互いの顔から内心を読み取るべく見つめ合う。


「……可愛くねーのな」


 目を伏せた男が、いきなり肩をつかみ唇を押し付けてきた。一瞬で離れたので、拒否する余裕もなかった。


「それでもお前がいい」


 あっさり引き下がった男は、また鞄を抱えて出て行った。もう荷物は持ち出して送っているので、あとは明日引っ越ししてこの街から出ていく。拒めなかったキスは苦味を残して消えていった。

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