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3.彼女は誰なのか
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「では、貴方は誰なの?」
「私は、この世界を造りし女神の『愛し子』」
鼓動が煩い。
踏み締めていないと崩れ落ちてしまいそうなくらい、膝が笑っている。
ドレスを伝って背中に流れる汗が冷たい。
蒼ざめるマリアを前にロザリンドが浮かべた笑みは、哀れみか嘲笑か。衝撃に俯けられたマリアの、長く波打つストロベリーブロンドが震えていた。
「そうね。今更あなたが何を知っても、どうせ手遅れなのだし。私もこの世を去る前に、誰かに一言物申してやりたい気持ちはあったわ」
鉄格子に縋りつく事でどうにか立っていられているマリアに、ロザリンドの口調は急に砕けた。明日には全てが終わると知って、解放感に満ちた表情を青黒く変色した貌に浮かべている。
暴力で歪められた笑顔の向こうでは、何本か歯が抜かれているようだった。
「いいわよ。知りたい事は何?」
方や、襤褸屑のような姿で牢に繋がれている、明日には処刑される罪人。
方や、最高級のドレスを身に纏い、王太子殿下を始めとする高位貴族令息の寵愛を一身に受ける令嬢。
それはなさがら、対極に立つ二人が位置関係を逆転させたかのようだった。余裕を見せて鷹揚に応じるロザリンドの言葉に、鉄格子に寄り掛かるマリアは血の気の失せた顔を上げる。
「この世界が、ゲームのシナリオと違う結末を迎えたのは何故?」
「初めから、その予定だったから。でも私が処刑されると知れば、貴方は怖気づいたかもしれないでしょ。だからあなたには、誰も死なないゲームの記憶を植え付ける必要があったの」
苛め行為が無ければ、自作自演もせずにいたかもしれない。だから自分以外の人間が苛め行為をするのを知って、わざと捨て置いていた。そうすればシナリオ通りロザリンドが苛めたのだと安心して、攻略を進めて行くだろうから。
「でも、調整は結構大変だったのよ。私が手を下してはいけない。巧妙に細工し過ぎてもいけない。少し慎重に調べればそれがすぐに解る程度の難易度で、私が冤罪を着せられなくてはならなかったのだもの」
「なんの、ために」
「この世界を、消滅させるために。そうね、こう言えば判り易いかしら?」
ロザリンドはそう言って、確かに喉の奥で笑った。
「『王太子ギルバート及びその取り巻き達』、貴様たちの『公爵令嬢ロザリンド』に対する数々の非道な振る舞い、最早看過できぬ。私『創造の女神』の名においてこの場で断罪し、その罪を償って貰う…なんてね」
それはあの夜会で、ギルバートがロザリンドに言い放った口上だ。マリアの反応に気を良くしたか、ロザリンドは更に続けて見せた。
「貴様『たち』は我が愛しの『ロザリー』に、身分を嵩に高圧的に振る舞い、取り巻きと示し合わせて『学園』から孤立させ、更に数々の暴言や暴力を振るった。そしてあろうことか『明日の朝には』、『断頭台に送り込んで』亡き者にしようとした」
「やめてっ!」
耐え兼ねて、マリアは叫ぶ。
複数人で取り囲んだ夜会の断罪では、身分を嵩に反論を一切赦さなかった。
王太子殿下や宰相子息、騎士団長の息子たちが侮辱し続けた結果、学園ではロザリンドに声をかける者は居なくなっていた。
婚約者の居る身で弁えるべきと諫言するロザリンドに、彼らは侮辱と暴言のみで応答した。
断罪の時には騎士団長の息子が、ロザリンドを床に叩き付けて流血させた。
そうだ。何もかも、ロザリンドの言う通りだ。だから自分は不安を感じたし、処刑など止めるよう何度も訴えたのだ。結局は聞き入れられたりはしなかったのだが。
だけど。それでも。
「どうして、どうして」
何度も呟くのは、納得できないからだ。確かにギル達は間違えた。自分もそれを止められなかった。
でも、それ以外はきちんとしていたはずだ。虐めを捏造したりしなかったし、闇竜も退治した。瘴気も浄化して、聖女の称号も得たのに。それらを何一つ鑑みず、世界を消滅させられるなど納得できない。
「それは、貴方の記憶とすり合わせるためにわざわざ作ったイベントだもの。功績とは言えないわ」
困ったように首を傾げるロザリンドを前に、マリアはもはや言葉も無い。絶望に顔色を染めるマリアとは対照的に、全てを暴露するロザリンドはとても嬉しそうに声を綻ばせた。
「でもね、消えるのは貴方のせいじゃないのよ。初めからそのつもりであなたを送り込んだの」
「どう言う事よっ!?」
「私は、この世界を造りし女神の『愛し子』」
鼓動が煩い。
踏み締めていないと崩れ落ちてしまいそうなくらい、膝が笑っている。
ドレスを伝って背中に流れる汗が冷たい。
蒼ざめるマリアを前にロザリンドが浮かべた笑みは、哀れみか嘲笑か。衝撃に俯けられたマリアの、長く波打つストロベリーブロンドが震えていた。
「そうね。今更あなたが何を知っても、どうせ手遅れなのだし。私もこの世を去る前に、誰かに一言物申してやりたい気持ちはあったわ」
鉄格子に縋りつく事でどうにか立っていられているマリアに、ロザリンドの口調は急に砕けた。明日には全てが終わると知って、解放感に満ちた表情を青黒く変色した貌に浮かべている。
暴力で歪められた笑顔の向こうでは、何本か歯が抜かれているようだった。
「いいわよ。知りたい事は何?」
方や、襤褸屑のような姿で牢に繋がれている、明日には処刑される罪人。
方や、最高級のドレスを身に纏い、王太子殿下を始めとする高位貴族令息の寵愛を一身に受ける令嬢。
それはなさがら、対極に立つ二人が位置関係を逆転させたかのようだった。余裕を見せて鷹揚に応じるロザリンドの言葉に、鉄格子に寄り掛かるマリアは血の気の失せた顔を上げる。
「この世界が、ゲームのシナリオと違う結末を迎えたのは何故?」
「初めから、その予定だったから。でも私が処刑されると知れば、貴方は怖気づいたかもしれないでしょ。だからあなたには、誰も死なないゲームの記憶を植え付ける必要があったの」
苛め行為が無ければ、自作自演もせずにいたかもしれない。だから自分以外の人間が苛め行為をするのを知って、わざと捨て置いていた。そうすればシナリオ通りロザリンドが苛めたのだと安心して、攻略を進めて行くだろうから。
「でも、調整は結構大変だったのよ。私が手を下してはいけない。巧妙に細工し過ぎてもいけない。少し慎重に調べればそれがすぐに解る程度の難易度で、私が冤罪を着せられなくてはならなかったのだもの」
「なんの、ために」
「この世界を、消滅させるために。そうね、こう言えば判り易いかしら?」
ロザリンドはそう言って、確かに喉の奥で笑った。
「『王太子ギルバート及びその取り巻き達』、貴様たちの『公爵令嬢ロザリンド』に対する数々の非道な振る舞い、最早看過できぬ。私『創造の女神』の名においてこの場で断罪し、その罪を償って貰う…なんてね」
それはあの夜会で、ギルバートがロザリンドに言い放った口上だ。マリアの反応に気を良くしたか、ロザリンドは更に続けて見せた。
「貴様『たち』は我が愛しの『ロザリー』に、身分を嵩に高圧的に振る舞い、取り巻きと示し合わせて『学園』から孤立させ、更に数々の暴言や暴力を振るった。そしてあろうことか『明日の朝には』、『断頭台に送り込んで』亡き者にしようとした」
「やめてっ!」
耐え兼ねて、マリアは叫ぶ。
複数人で取り囲んだ夜会の断罪では、身分を嵩に反論を一切赦さなかった。
王太子殿下や宰相子息、騎士団長の息子たちが侮辱し続けた結果、学園ではロザリンドに声をかける者は居なくなっていた。
婚約者の居る身で弁えるべきと諫言するロザリンドに、彼らは侮辱と暴言のみで応答した。
断罪の時には騎士団長の息子が、ロザリンドを床に叩き付けて流血させた。
そうだ。何もかも、ロザリンドの言う通りだ。だから自分は不安を感じたし、処刑など止めるよう何度も訴えたのだ。結局は聞き入れられたりはしなかったのだが。
だけど。それでも。
「どうして、どうして」
何度も呟くのは、納得できないからだ。確かにギル達は間違えた。自分もそれを止められなかった。
でも、それ以外はきちんとしていたはずだ。虐めを捏造したりしなかったし、闇竜も退治した。瘴気も浄化して、聖女の称号も得たのに。それらを何一つ鑑みず、世界を消滅させられるなど納得できない。
「それは、貴方の記憶とすり合わせるためにわざわざ作ったイベントだもの。功績とは言えないわ」
困ったように首を傾げるロザリンドを前に、マリアはもはや言葉も無い。絶望に顔色を染めるマリアとは対照的に、全てを暴露するロザリンドはとても嬉しそうに声を綻ばせた。
「でもね、消えるのは貴方のせいじゃないのよ。初めからそのつもりであなたを送り込んだの」
「どう言う事よっ!?」
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