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1.序章
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「ロザリンド・フォークロア!貴様の罪をここに暴き、婚約破棄を宣言する!」
急激に流れ込む記憶の奔流に、王太子の言葉は既にノイズとしか認識できない。何とかこの場から逃れようとするが、腕を捻り上げて押さえつけている騎士団長令息の馬鹿力を跳ね除けるのは無理そうだ。
「貴様は私の最愛である…」
ご高説を宣う王太子の足元から、黄金の魔法陣が広がっていく。もう間に合わないのだと悟り、私は目を閉じて呻吟するしかなかった。
***********
ロザリンド・フォークロア。
フォークロア公爵家の一人娘であり、王太子殿下の婚約者。それが私だ。
尤も、ゲームでは名前など無く「悪役令嬢」のみで全てが語られていた。この世界がとある異世界のゲームと言うものに酷似している事、そして私がその世界でかつて生活していた事。全ての記憶は卒業パーティーの茶番劇で唐突に流し込まれたものだ。
私は、その世界では小さな会社の事務員だった。そこで得られる給金は一人暮らしを維持するには心許ないもので、ネットに実況プレイ動画をアップすることでささやかな副収入を得ていたはずだ。
この世界はその実況プレイをしていたゲーム「粛清迷宮」に酷似している。と、つい先ほど思い至った次第である。
そんな土壇場で、と呆れるのはご容赦願いたい。何しろ記憶が蘇ったのがその時だったのだし、仮にもっと昔から記憶があったとしても、粛清迷宮とこの世界を重ねるのはかなり困難であっただろう。
何しろタイトルからも推察されるとおり、件のゲームは乙女ゲームなどではない。悪役令嬢の断罪物をモチーフにした死に罠満載の謎解き脱出ゲームだったのだから。
だから、ジャンルとしてはフリーホラーゲームになる。オープニングは先程の断罪シーンで、魔法陣で飛ばされたこの廃城のような迷宮を脱出することがゲームの目的だ。
主人公である悪役令嬢(つまり私だ)が死ねば即ゲームオーバーだし、選択次第ではヒロイン役の男爵令嬢や攻略対象達もどんどん死んでいく。
脱出時に冤罪の証拠をどれだけ集めているか、何人同行者が生き残っているか。そして誰が生き残っているかでEDが分かれていく、そういったゲームなのだ。
「こ、ここは何処なのだ!」
「いや…怖いわ」
「ロザリンド、これは貴様の謀略か!」
ああ、呑気に気絶していた連中が目を覚ましたようだ。落ち着いて思考を巡らせるのもこれで一旦終わりかと溜息を吐き、私は背後の集団に目を向けた。
女一人、男三人。計四人が私を蛇蝎でも見る目で睨みつけている。女は睨む姿を男たちに見えないようにしているのが、実にわざとらしくて苛立たしかった。
男爵令嬢と王太子、宰相令息。それに騎士団長令息。勿論それぞれに固有の名前はあるが、今の私にはそれ以上の識別号は必要ない。誰がどんな選択でどんな運命を辿るのかが判れば、それだけで十分だった。
「何とか言ったら…」
「全く、あなたと言う人はどこまで…」
「お前のせいでマリアが…」
私がゲームの中のキャラクターたる悪役令嬢なのか。
それとも異世界の記憶を流し込まれただけの、この世界に生きるロザリンドなのか。
或いは、全てが事務員である私の泡沫の夢に過ぎないのか。
それさえも今はどうだっていい。どれが真実かなど現状では知り得ない事であるし、答えがどれであれ、これから取る行動に変わりはない。
私はただ、どのルートに進むかを見極めて、そこに至る選択肢を間違えないように辿るだけだ。
(…生還してやる。絶対に)
煩く喚きたてる連中の罵詈雑言を聞き流し、私は一人決意を込めてスカートの裾に隠れた拳を握りしめた。
急激に流れ込む記憶の奔流に、王太子の言葉は既にノイズとしか認識できない。何とかこの場から逃れようとするが、腕を捻り上げて押さえつけている騎士団長令息の馬鹿力を跳ね除けるのは無理そうだ。
「貴様は私の最愛である…」
ご高説を宣う王太子の足元から、黄金の魔法陣が広がっていく。もう間に合わないのだと悟り、私は目を閉じて呻吟するしかなかった。
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ロザリンド・フォークロア。
フォークロア公爵家の一人娘であり、王太子殿下の婚約者。それが私だ。
尤も、ゲームでは名前など無く「悪役令嬢」のみで全てが語られていた。この世界がとある異世界のゲームと言うものに酷似している事、そして私がその世界でかつて生活していた事。全ての記憶は卒業パーティーの茶番劇で唐突に流し込まれたものだ。
私は、その世界では小さな会社の事務員だった。そこで得られる給金は一人暮らしを維持するには心許ないもので、ネットに実況プレイ動画をアップすることでささやかな副収入を得ていたはずだ。
この世界はその実況プレイをしていたゲーム「粛清迷宮」に酷似している。と、つい先ほど思い至った次第である。
そんな土壇場で、と呆れるのはご容赦願いたい。何しろ記憶が蘇ったのがその時だったのだし、仮にもっと昔から記憶があったとしても、粛清迷宮とこの世界を重ねるのはかなり困難であっただろう。
何しろタイトルからも推察されるとおり、件のゲームは乙女ゲームなどではない。悪役令嬢の断罪物をモチーフにした死に罠満載の謎解き脱出ゲームだったのだから。
だから、ジャンルとしてはフリーホラーゲームになる。オープニングは先程の断罪シーンで、魔法陣で飛ばされたこの廃城のような迷宮を脱出することがゲームの目的だ。
主人公である悪役令嬢(つまり私だ)が死ねば即ゲームオーバーだし、選択次第ではヒロイン役の男爵令嬢や攻略対象達もどんどん死んでいく。
脱出時に冤罪の証拠をどれだけ集めているか、何人同行者が生き残っているか。そして誰が生き残っているかでEDが分かれていく、そういったゲームなのだ。
「こ、ここは何処なのだ!」
「いや…怖いわ」
「ロザリンド、これは貴様の謀略か!」
ああ、呑気に気絶していた連中が目を覚ましたようだ。落ち着いて思考を巡らせるのもこれで一旦終わりかと溜息を吐き、私は背後の集団に目を向けた。
女一人、男三人。計四人が私を蛇蝎でも見る目で睨みつけている。女は睨む姿を男たちに見えないようにしているのが、実にわざとらしくて苛立たしかった。
男爵令嬢と王太子、宰相令息。それに騎士団長令息。勿論それぞれに固有の名前はあるが、今の私にはそれ以上の識別号は必要ない。誰がどんな選択でどんな運命を辿るのかが判れば、それだけで十分だった。
「何とか言ったら…」
「全く、あなたと言う人はどこまで…」
「お前のせいでマリアが…」
私がゲームの中のキャラクターたる悪役令嬢なのか。
それとも異世界の記憶を流し込まれただけの、この世界に生きるロザリンドなのか。
或いは、全てが事務員である私の泡沫の夢に過ぎないのか。
それさえも今はどうだっていい。どれが真実かなど現状では知り得ない事であるし、答えがどれであれ、これから取る行動に変わりはない。
私はただ、どのルートに進むかを見極めて、そこに至る選択肢を間違えないように辿るだけだ。
(…生還してやる。絶対に)
煩く喚きたてる連中の罵詈雑言を聞き流し、私は一人決意を込めてスカートの裾に隠れた拳を握りしめた。
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