悪役令嬢に転生したと思ったら、乙女ゲームをモチーフにしたフリーホラーゲームの世界でした。

夏角しおん

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4.守護像の言葉

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ヒントのメモを集めつつ、冤罪の書類も順次回収する。学園内でいじめを目撃したとする証人達が、いつ、どのような交渉で、幾らの報酬を受け取ったかを示すメモだ。
公爵である父に託せば、彼らも全員社会的に葬ることができるだろう。取り残しの無いようにしなければ。
ストレージに全て入れていると中を見せろと言われかねないので、見られてもいいヒントメモやどうでもいい先人の恨み言が書かれた日記は手に持っていた。
メモは謎解き前でも答えが解っているから要らないし、日記はいざとなればいつでも捨てて良いから、ダミーとしては最適ではないか。居住区を抜けて毒の水溜りを回避しつつ進むと、次は明るい通路と暗い通路に分かれていた。
暗い通路の先に、鍵のある謎解き部屋がある。明るい方を先に攻略しておきたいのが普通の心理なのだが、明るく照らすアイテムなど入手できない上に、騎士団長令息の剣が見つかるイベントが強制発生してしまうのだ。
だから、迷わず暗い通路を進んだ。後ろが明るい方を先に行くべきだと騒いでいるが、一切構わない。そんなに行きたければ、お前たちだけで行ってくればいいだろうが。
暗い通路の落とし穴は、落ちればそのままゲームオーバーとなる。
目を凝らしてみれば見えるものなので、気を抜かずに慎重に進む。絶妙な配置で足元への気を逸らすかのように、追跡型の虫や毒ガスのエンカウントを仕掛けてくるのが厄介だ。
後ろの声が次第に遠ざかっていくが、振り返らなかった。あのイベントさえ潰してしまえば、このフロアではもう男爵令嬢が死ぬイベントは発生しないのだから。
この道は、最後の小部屋で謎を解けばまた引き返すしかない。この道をまた戻るのだと知った時、彼らがどんな顔をするものか。想像してほくそ笑む余裕もないのが残念で仕方が無かった。

小部屋に到着し、一息つく。
実況プレイ中は何度もメモを見て考えていたが、一度解ければ何のことはない簡単なパズルだった。狛犬に似た左右対称の石像にそれぞれ答えを打ち込むと、中央の箱が開いて鍵が手に入る。
宝石を埋め込まれた無駄に豪奢な鍵に手を伸ばそうとした時、頭上から無機質な声が響いた。顔を上げる先には、狛犬に似た守護像が荘厳に聳えている。
『盲目の少女よ。ここでは見えずに居る事も罪となる』
『真実に向き合い、己の成すことを見抜け』
…はい。重々解っておりますよ、守護像様。
声に出さず胸中で返答すると同時に、彼らが部屋に飛び込んできた。既に謎は説いたので道を戻りたかったのだが、そこに居座られると部屋から出られない。
止むを得ず彼らが動くのを待っていると、宰相令息が狛犬と箱を検分して後、私の前に来て鼻を鳴らした。
「謎を解いて箱を開けたようですが、随分と早いですね。まさかとは思いますが…?」
思うが何なのだ。はっきりと続きを言え。
眼鏡のブリッジをこれ見よがしにクイと直しているが、お気に入りらしき仕草も私から見ればフレームの調整が甘いだけにしか見えなかった。本当にしっかり調整されたフレームは、多少跳ぼうが走ろうがずれたりはしないものだ。
宰相家はそんなに吝嗇化なのだろうか。それとも、表向きは余裕があるものの内情は火の車とか。
フレーム一つで実家資産の有無を疑われているなどつゆ知らず、思わせぶりに首を傾げる宰相令息。これ以上付き合う気もない私は、ヒントのメモを纏めて彼の手に押し付けて部屋を出た。
メモさえあれば、少し頭のいい人なら簡単に解ける謎だ。宰相令息に解けるかどうかは私の知った事ではないし、鍵が入手できたのだから後は興味も無い。
来た道を引き返し、明るい通路には目もくれず魔法陣の部屋を目指す。そこは檻のようになっており魔法陣が丸見えで、ここの鍵を探さなければ先には進めないのだと、嫌でも解る造りになっていた。
出来るだけ早く脱出したい。それは恐怖もあるが、この迷宮に水や食料が用意されていないことが最たる理由だ。死の罠から逃げ惑った王族が、何人も飢えや渇きで死んでいったのは手記で確認できている。
それが専横の結果であればざまあみろだが、巻き込まれて同じ目に遭わされては堪ったものではないだろう。

解錠し、疲労感を濃くして追い付いてきた一行に一瞥をくれて魔法陣の中に立つ。
さようなら、第一階層。浮遊感に目を細めながら、私は少しだけふざけてそんなことを胸に呟くのだった。


第一階層クリア
この階層での犠牲者 0人
犠牲者の総数    0人
現時点での生存者  5人
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