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第二章 龍神の決断
9 最終決断までの一日
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1・
ロックは時計を見て、夜の十時にスマホで電話をかけた。
それを母星の中央神殿で受けたエリックは、自室の机に突っ伏している。
「今日はスマホか」
「ああ。普通に状況報告だからな。そっちはもう寝るところか?」
「風呂に入るつもりだが、気力が失われている」
「そりゃ気の毒に!」
ロックはもうすぐ仕事をしなくていいと思うと嬉しくて、喜んだ口調で言った。
エリックは怒って起き上がった。
「なんだよ、喧嘩売りたいのか?」
「いや、スマン。今日、ショーンに色々と話したんだ。彼がまだ正式な龍神に即位する覚悟ができてないから、もう少し待って彼の決意を聞く。それから、引退の手続きを開始しようと思う」
「はあ、もう少しだけでも仕事してくれるのはありがたい。宇宙空賊……海賊でもどっちでもいいけど、賊が母星に来るようになってなあ。俺も対応に忙しくてたまらない。そっちにも当然のごとく行くと思うから、警戒しててくれ」
「もう来てるが、俺の自慢の部下たちが星に近付けることなくなぎ倒している。民間船でやって来る者は、少しばかり取りこぼしているようだけど」
「ああ、軍の訓練だけは大好きなお前のおかげで、戦闘力強化されている事実は、ありがたいと思ってるよ。それも、お前がいなくなったら俺が引き継ぐか……」
「エリック、さすがにオーバーワークだろ。クロを呼び戻せ」
エリックは、自分の妻にもう何十年も会っていないのを思い出して、切なくなった。
「はあ、ロックの引退もあるし、アデンから呼び戻すつもりではある。ショーンが龍神に即位した後の、守護と指導を頼みたいしな」
「クロに任せるのか? でも、アデンでの仕事はどうさせるんだ」
「狐族の長という仕事には、代理を立ててもらうしかない。が、そもそも帰還を受け入れてもらえるかどうか、分からない」
「さすがに五百年も夫婦だと、飽きられるんだな」
「いや、そんなことはない。一切ない。断じてない」
「じゃあ頑張って呼び戻してくれよ。そうすりゃ、俺も安心して引退できる」
「……俺も引退したい」
「お前はまだ、五百年は生きるんだろう? ホルンと約束したんだからな」
「あいつに付き合って千年勤めるなんて、約束するんじゃなかった。そういえば夕方にホルンから電話があって、その時に対応できなかったから後で折り返してかけたら、もう何もないって言いやがった。そっちで何があった?」
「ん? いやなにも? ただショーンが、俺の話を聞いて放心状態だった」
「ああ……泣かなかったのか」
「後で泣いた」
エリックは、ため息をついた。
「そうか。彼にも、これから頑張ってもらわないとな。表舞台に立つのはまだ早いとしか思わないけど」
「……そうだな」
ロックも、ため息をついた。
「じゃあ、夜分遅く悪かった」
「いや、風呂に入る気力が生まれたからいい」
エリックは本音を告げ、電話を切った。ロックが何か秘密にしていると感付いたものの、それが彼の最後の仕事になるだろうから、口出ししないと決めた。
2・
何だか長く感じた一日が終わって、ようやく翌日になった。水曜日だ。
今日は朝食をイツキと食べると決めてガイアスさんに断りを入れ、台所に行った。
屋敷では数名の使用人さんたちが働いていて、屋敷内に部屋を持ち住んでいる人もいる。
イツキとオーランドさんも寝泊まりしている方なので、台所で食事しているようだ。
僕は生まれも育ちも普通な家庭だから、嫌ではないものの広々とした食堂などで食事をするのは落ち着けない。台所の一角にある木のテーブルで、簡単な感じの食事をする方が好きだ。
立場のある僕のワガママになってしまうかもしれないけれど、二人に混じって朝食を取ったのは、とても楽しかった。
その流れで和気あいあいと登校して、いつも通りに廊下でイツキと別れて一人で教室に入った。
未だにクラスメイトに友達はいないけれど、とても楽しい。今日を満喫できている。
午前中の授業内容は難しくて大変だったものの、自分なりに頑張ってできた方だと思う。
そしてお昼休みになり、今日は僕からもミンスさんを誘いに行って廊下で落ち合い、久しぶりに食堂に行った。
「昨日の放課後は三人で私の家に集まって、練習してみたのよ~」
ミンスさんは、僕がいない間に歌と演奏の練習をしたと教えてくれた。
「そうですか。あのお二人と、気が合いますか?」
「うん、一人はお兄ちゃんだし、ウィル先輩も雰囲気は怖いけど話してみると常識的で頭がいいの。すぐ仲良くなれたわよ」
「す、凄いですね……」
ウィル先輩をスカウトした僕は、全然慣れてないんだけど。
「それでね、演奏する曲を決めたのよ。せっかく学校で演奏するから、学校にちなんだ名曲よ!」
あまり知名度のないオールドクラシックの中でも、時折有名なアーティストさんたちが歌ってくれて再ブレイクする場合がある。
ミンスさんの選んだ曲も最近再ブレイクしたもので、オールドクラシックを聞かない人も知っている可能性が高いから、それにしたという。
歌詞の内容は、学校が舞台で美人のクラスメイトの隣の席を奪い合うというようなものだ。
オールドクラシックは一万年は昔の曲の筈なのに、現代を生きる僕らと同じように、美人さんの隣に席があれば嬉しいらしい。僕はそんな事はないんだけど、世の中の常識はそういうのだとは知っている。
存在感が遠くて本当に居たかどうかも分からない人たちが、身近に感じられる曲だ。
「ちなみに、バックコーラスがあるから、ショーン君も歌おうと思えば歌えるわよ?」
「えっ」
僕は、手にしたフォークを皿にぶつけてカタカタ揺らした。
「お客さんが、かけ声かけてくれるアレよ? 舞台には上がらなくていいのよ」
「ああ、はい。確か、ヘーイヘイヘイっていう感じですよね」
「そうそれ。だから、良かったら声出してみてね」
ミンスさんは僕に素敵な笑顔をくれた。
僕は色々と大変過ぎる現実があるから今を楽しみたいし、かけ声だけなら変な奇跡が起こる事もない。
ミンスさんに約束は出来ないけど、僕は密かにやる気になった。
だから放課後に、ミンスさんたちの練習の見物に行きたい。
「み、ミンスさん。僕も練習に参加したいんですが、行って良いですか?」
「今日? でもウィル先輩が魔法エンジン作成部の方に寄り付かないぐらい練習してくれているわよ? 交換条件じゃなかったっけ?」
「あ……うん、そうでした。まだエンジンが無事に出来たかどうか見に行ってませんでした。じゃあ今日は魔法エンジン作成部に行って、明日にそっちに行きます」
「うん、出来てるようだとは聞いたし、明日はこっちに来られるわね!」
「はい!」
僕は幸せだが、今日は違うところに行かないといけない。
少し寂しいと思っている間に、今日の昼食のチーズマカロニを食べ終わった。
そして食器の片付けとなった時、まさかまた睨まれたりはと不安になり周囲を見回した。
この時になり、ローレルさんが同席しなかった理由を知れた。
別のテーブルで、ジェラルドさんとローレルさんが一緒に食事をしている。
「あ、あのね、お兄ちゃんは私を手伝う代わりに、土曜日までお姉ちゃんにご馳走してもらう事になったの」
「そ、そうだったんですか。タダじゃなかったんですね」
「昨日は生殺しになっちゃったし、お姉ちゃんもちょっとは気の毒に思ったみたいで」
ミンスさんはため息をついた。それがどういう意味のため息なのか、僕には全然分からない。
しかしその二人が食事を共にしてくれているからか、僕は誰にも睨まれない。
物凄く有り難くて泣きそうになり、不思議がるミンスさんに励まされつつ、一緒に教室まで戻った。
3・
放課後になり、ミンスさんにまた明日と挨拶してから魔法実験棟に向かった。
イツキが、今日も後ろからついてくる。
「イツキは、陸軍派閥の訓練に行かないでいいの? 最近行ってないんじゃ?」
「はあ、昼休みに少し参加しています。今日はご一緒したいので、ついて行っても構いませんか?」
「いいよ。イツキも気になるんだね」
イツキがエンジン作成に興味があったとは知らなかった。
そういう訳で、二人で魔法エンジン作成部の部室に行った。
何と、青白くて丸いボール状のエンジンが完成している。
部員の皆さんは、これでようやく日曜日の大会に出られると泣いて喜んでいる。
すでに装置を出されて運搬用のケースに入れられている十センチぐらいの大きさのエンジンを、間近で観察させてもらえた。
エンジンというより、青くてプルプルした、アニメなんかで見たことがあるスライムという奴にそっくりだ。
半透明の青いゼリーの中に、核になった宝石がうっすらと見える。
触って良いらしいので突いてみると、期待の通りに柔らかくてプルンプルンした。
「ほわ~。なんだか、本物のいきも──」
「ショーン君!」
イツキがいさめてきた。はっとし、笑って誤魔化した。
「このエンジン、本当にプルンプルンポヨンポヨンしてるね」
擬音だから良いだろうと思って、感想を言ってみた。
すると、触れてもないのにエンジンがプルンプルン波打ち、ポヨンポヨンと跳ねてケースから出た。
「ショーン君!!!!」
「うえっ、いや、エンジンって跳ねるものじゃあ?」
「「「「「「「跳ねないよ!」」」」」」」
部屋にいた部員全員が同時に叫んだ。
まずいので、僕は責任を取ってエンジンを捕まえに行き、無事に捕獲できたのでケースに戻した。
戻すときにコッソリと、このエンジンは普通のエンジンで跳ねないと呟いておいたので、手を離してももう跳ねなかった。
良かったと思ったが、凍り付いた雰囲気の中でみんなが僕を凝視する。
「あ、ご、ごめんなさい。さっき、外で、無機物を跳ねさせる魔法の練習してて、その影響が……魔法が発動しちゃったみたいで」
「……へ、へえ~」
「もし変質してたら、僕が責任を取って二個目を作るので、許して下さい」
ここはちゃんと謝るべきなので、部員さんたちに頭を深々と下げた。
部員さんたちは、とりあえず故障してないかどうか確認してくれ始めた。
その作業を眺めるだけで、時間が経過していった。
夕暮れ時にはエンジンは変質も故障もしてないと分かったから、僕は晴れて無罪放免となった。
時間が余ったらミンスさんの家に行きたかったけれど、今日はもう無理だ。
明日こそミンスさんちに行くと、心で強く決意した。
ロックは時計を見て、夜の十時にスマホで電話をかけた。
それを母星の中央神殿で受けたエリックは、自室の机に突っ伏している。
「今日はスマホか」
「ああ。普通に状況報告だからな。そっちはもう寝るところか?」
「風呂に入るつもりだが、気力が失われている」
「そりゃ気の毒に!」
ロックはもうすぐ仕事をしなくていいと思うと嬉しくて、喜んだ口調で言った。
エリックは怒って起き上がった。
「なんだよ、喧嘩売りたいのか?」
「いや、スマン。今日、ショーンに色々と話したんだ。彼がまだ正式な龍神に即位する覚悟ができてないから、もう少し待って彼の決意を聞く。それから、引退の手続きを開始しようと思う」
「はあ、もう少しだけでも仕事してくれるのはありがたい。宇宙空賊……海賊でもどっちでもいいけど、賊が母星に来るようになってなあ。俺も対応に忙しくてたまらない。そっちにも当然のごとく行くと思うから、警戒しててくれ」
「もう来てるが、俺の自慢の部下たちが星に近付けることなくなぎ倒している。民間船でやって来る者は、少しばかり取りこぼしているようだけど」
「ああ、軍の訓練だけは大好きなお前のおかげで、戦闘力強化されている事実は、ありがたいと思ってるよ。それも、お前がいなくなったら俺が引き継ぐか……」
「エリック、さすがにオーバーワークだろ。クロを呼び戻せ」
エリックは、自分の妻にもう何十年も会っていないのを思い出して、切なくなった。
「はあ、ロックの引退もあるし、アデンから呼び戻すつもりではある。ショーンが龍神に即位した後の、守護と指導を頼みたいしな」
「クロに任せるのか? でも、アデンでの仕事はどうさせるんだ」
「狐族の長という仕事には、代理を立ててもらうしかない。が、そもそも帰還を受け入れてもらえるかどうか、分からない」
「さすがに五百年も夫婦だと、飽きられるんだな」
「いや、そんなことはない。一切ない。断じてない」
「じゃあ頑張って呼び戻してくれよ。そうすりゃ、俺も安心して引退できる」
「……俺も引退したい」
「お前はまだ、五百年は生きるんだろう? ホルンと約束したんだからな」
「あいつに付き合って千年勤めるなんて、約束するんじゃなかった。そういえば夕方にホルンから電話があって、その時に対応できなかったから後で折り返してかけたら、もう何もないって言いやがった。そっちで何があった?」
「ん? いやなにも? ただショーンが、俺の話を聞いて放心状態だった」
「ああ……泣かなかったのか」
「後で泣いた」
エリックは、ため息をついた。
「そうか。彼にも、これから頑張ってもらわないとな。表舞台に立つのはまだ早いとしか思わないけど」
「……そうだな」
ロックも、ため息をついた。
「じゃあ、夜分遅く悪かった」
「いや、風呂に入る気力が生まれたからいい」
エリックは本音を告げ、電話を切った。ロックが何か秘密にしていると感付いたものの、それが彼の最後の仕事になるだろうから、口出ししないと決めた。
2・
何だか長く感じた一日が終わって、ようやく翌日になった。水曜日だ。
今日は朝食をイツキと食べると決めてガイアスさんに断りを入れ、台所に行った。
屋敷では数名の使用人さんたちが働いていて、屋敷内に部屋を持ち住んでいる人もいる。
イツキとオーランドさんも寝泊まりしている方なので、台所で食事しているようだ。
僕は生まれも育ちも普通な家庭だから、嫌ではないものの広々とした食堂などで食事をするのは落ち着けない。台所の一角にある木のテーブルで、簡単な感じの食事をする方が好きだ。
立場のある僕のワガママになってしまうかもしれないけれど、二人に混じって朝食を取ったのは、とても楽しかった。
その流れで和気あいあいと登校して、いつも通りに廊下でイツキと別れて一人で教室に入った。
未だにクラスメイトに友達はいないけれど、とても楽しい。今日を満喫できている。
午前中の授業内容は難しくて大変だったものの、自分なりに頑張ってできた方だと思う。
そしてお昼休みになり、今日は僕からもミンスさんを誘いに行って廊下で落ち合い、久しぶりに食堂に行った。
「昨日の放課後は三人で私の家に集まって、練習してみたのよ~」
ミンスさんは、僕がいない間に歌と演奏の練習をしたと教えてくれた。
「そうですか。あのお二人と、気が合いますか?」
「うん、一人はお兄ちゃんだし、ウィル先輩も雰囲気は怖いけど話してみると常識的で頭がいいの。すぐ仲良くなれたわよ」
「す、凄いですね……」
ウィル先輩をスカウトした僕は、全然慣れてないんだけど。
「それでね、演奏する曲を決めたのよ。せっかく学校で演奏するから、学校にちなんだ名曲よ!」
あまり知名度のないオールドクラシックの中でも、時折有名なアーティストさんたちが歌ってくれて再ブレイクする場合がある。
ミンスさんの選んだ曲も最近再ブレイクしたもので、オールドクラシックを聞かない人も知っている可能性が高いから、それにしたという。
歌詞の内容は、学校が舞台で美人のクラスメイトの隣の席を奪い合うというようなものだ。
オールドクラシックは一万年は昔の曲の筈なのに、現代を生きる僕らと同じように、美人さんの隣に席があれば嬉しいらしい。僕はそんな事はないんだけど、世の中の常識はそういうのだとは知っている。
存在感が遠くて本当に居たかどうかも分からない人たちが、身近に感じられる曲だ。
「ちなみに、バックコーラスがあるから、ショーン君も歌おうと思えば歌えるわよ?」
「えっ」
僕は、手にしたフォークを皿にぶつけてカタカタ揺らした。
「お客さんが、かけ声かけてくれるアレよ? 舞台には上がらなくていいのよ」
「ああ、はい。確か、ヘーイヘイヘイっていう感じですよね」
「そうそれ。だから、良かったら声出してみてね」
ミンスさんは僕に素敵な笑顔をくれた。
僕は色々と大変過ぎる現実があるから今を楽しみたいし、かけ声だけなら変な奇跡が起こる事もない。
ミンスさんに約束は出来ないけど、僕は密かにやる気になった。
だから放課後に、ミンスさんたちの練習の見物に行きたい。
「み、ミンスさん。僕も練習に参加したいんですが、行って良いですか?」
「今日? でもウィル先輩が魔法エンジン作成部の方に寄り付かないぐらい練習してくれているわよ? 交換条件じゃなかったっけ?」
「あ……うん、そうでした。まだエンジンが無事に出来たかどうか見に行ってませんでした。じゃあ今日は魔法エンジン作成部に行って、明日にそっちに行きます」
「うん、出来てるようだとは聞いたし、明日はこっちに来られるわね!」
「はい!」
僕は幸せだが、今日は違うところに行かないといけない。
少し寂しいと思っている間に、今日の昼食のチーズマカロニを食べ終わった。
そして食器の片付けとなった時、まさかまた睨まれたりはと不安になり周囲を見回した。
この時になり、ローレルさんが同席しなかった理由を知れた。
別のテーブルで、ジェラルドさんとローレルさんが一緒に食事をしている。
「あ、あのね、お兄ちゃんは私を手伝う代わりに、土曜日までお姉ちゃんにご馳走してもらう事になったの」
「そ、そうだったんですか。タダじゃなかったんですね」
「昨日は生殺しになっちゃったし、お姉ちゃんもちょっとは気の毒に思ったみたいで」
ミンスさんはため息をついた。それがどういう意味のため息なのか、僕には全然分からない。
しかしその二人が食事を共にしてくれているからか、僕は誰にも睨まれない。
物凄く有り難くて泣きそうになり、不思議がるミンスさんに励まされつつ、一緒に教室まで戻った。
3・
放課後になり、ミンスさんにまた明日と挨拶してから魔法実験棟に向かった。
イツキが、今日も後ろからついてくる。
「イツキは、陸軍派閥の訓練に行かないでいいの? 最近行ってないんじゃ?」
「はあ、昼休みに少し参加しています。今日はご一緒したいので、ついて行っても構いませんか?」
「いいよ。イツキも気になるんだね」
イツキがエンジン作成に興味があったとは知らなかった。
そういう訳で、二人で魔法エンジン作成部の部室に行った。
何と、青白くて丸いボール状のエンジンが完成している。
部員の皆さんは、これでようやく日曜日の大会に出られると泣いて喜んでいる。
すでに装置を出されて運搬用のケースに入れられている十センチぐらいの大きさのエンジンを、間近で観察させてもらえた。
エンジンというより、青くてプルプルした、アニメなんかで見たことがあるスライムという奴にそっくりだ。
半透明の青いゼリーの中に、核になった宝石がうっすらと見える。
触って良いらしいので突いてみると、期待の通りに柔らかくてプルンプルンした。
「ほわ~。なんだか、本物のいきも──」
「ショーン君!」
イツキがいさめてきた。はっとし、笑って誤魔化した。
「このエンジン、本当にプルンプルンポヨンポヨンしてるね」
擬音だから良いだろうと思って、感想を言ってみた。
すると、触れてもないのにエンジンがプルンプルン波打ち、ポヨンポヨンと跳ねてケースから出た。
「ショーン君!!!!」
「うえっ、いや、エンジンって跳ねるものじゃあ?」
「「「「「「「跳ねないよ!」」」」」」」
部屋にいた部員全員が同時に叫んだ。
まずいので、僕は責任を取ってエンジンを捕まえに行き、無事に捕獲できたのでケースに戻した。
戻すときにコッソリと、このエンジンは普通のエンジンで跳ねないと呟いておいたので、手を離してももう跳ねなかった。
良かったと思ったが、凍り付いた雰囲気の中でみんなが僕を凝視する。
「あ、ご、ごめんなさい。さっき、外で、無機物を跳ねさせる魔法の練習してて、その影響が……魔法が発動しちゃったみたいで」
「……へ、へえ~」
「もし変質してたら、僕が責任を取って二個目を作るので、許して下さい」
ここはちゃんと謝るべきなので、部員さんたちに頭を深々と下げた。
部員さんたちは、とりあえず故障してないかどうか確認してくれ始めた。
その作業を眺めるだけで、時間が経過していった。
夕暮れ時にはエンジンは変質も故障もしてないと分かったから、僕は晴れて無罪放免となった。
時間が余ったらミンスさんの家に行きたかったけれど、今日はもう無理だ。
明日こそミンスさんちに行くと、心で強く決意した。
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