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第五章 アーサーと異世界の少女
十二 離れ離れの星
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1・
翌朝。朝食を終えたアーガスに会いに行き、彼と話をした。
咲夜はやはり連日の行軍に疲れが溜まったようで、まだ眠っているから置いてきた。
アーガスが、まず語り始めた。
「我らエルフ一族は、皇帝であり世界の守護神であったアルスノバに助けられた身だ。しかしその部下たちは人間であり、バルネラの子孫ですらも我らはどこか嫌っていた。故に、こたびの襲撃への警告があった時に、我らの殆どはその助言に従わずに首都に居続けた。そのため、手ひどい罰を受けた」
「バルネラの子孫も、予言者なのですか?」
「ああ。神亡き世の唯一の灯台として、この千年間を生き延びた集団だ。南部山脈を根城にしている。あなた方は、彼女らに会うべきだ」
「はい。そのつもりでいます。しかしその……今までは飛空艇団の攻撃に耐えていたでしょうに、どうして今回に限ってそれほど甚大な被害が出たのですか?」
「奴らはいつも、西のこの森から攻め込んできていた。東にある高い山脈を越えるには、今までの飛空艇の性能では無理だった筈なのだ。しかし千年紀の終わりを、奴らは虎視眈々と武器を揃えて待ち構えていたのだろう。越えられぬと思った山を越えられた我らは、愉快な程に簡単に蹴散らされた。全て奴らの作戦だった」
「あの……人間たちは、エルフ達を捕らえに来たのではないのですか? 何故魔石にせず、殺戮を選んだのでしょうか?」
「我らは既に用済みだ。私のようなほんの一握りの魔術師以外は、人間の奴隷の方が使い勝手があるのだろうよ。故に、ただ森と山を手に入れる為に、我らを皆殺しにするだろう。もう滅びゆく世であるのに、奴らはその現実を決して認めず、奴らの嘘の予言を信じて自分の欲だけで動いている」
今はエルフの代わりに、人間の奴隷を使っているのか。聞けば聞くほど酷い話だ。しかし俺は、この世で何が出来るのだろうか。
エルフと共に武器を持って人間たちと戦うか、それとも……。
「予言にある星とは何ですか? 私と咲夜は、それを追いかけるべきなのでしょうか?」
「バルネラは、そう予言したな。無論、我らとしては人間と事を構える時に助力してもらいたいが、そうはいかないのだろうか。奴らは我らを皆殺しにしようとしている。どんな戦力も手放すのは惜しい」
「……星が強力な武器であるなら、それを入手する旅はあなた方のためにもなります」
「星とは、皇帝アルスノバが死の直前に残した彼の力の破片だ。そう言い伝えられている。ここにも一つあるが、魔石のようには使えない。力はあると分かるのに、取り出し方が分からない」
アーガスは、首元にかけたペンダントの鎖をたぐり、ペンダントトップを上着の中から取り出した。
レモン色の四角い宝石を見た瞬間に、それがアーガスの言うとおりに人ではない者の強い力の破片であると分かった。
「触れても構いませんか?」
俺は考える前に自動的にそう言い、アーガスが答える前に素早く触った。
何故そんな事をと自分で驚いた時には、真っ白な世界の中で白銀の鎧姿の金髪の青年に見下ろされつつ地面に座っていた。
「君が何者かは知らないが、頼まれて欲しい」
穏やかな笑顔を見せて語る青年は、全体的なイメージが力強いのに、どこか透明ではかなげだ。
「私はあと数秒後には死ぬ。そうなれば、このアルダリアの世界は滅びてしまう。けれど、そうさせたくはない。私が無から生み出し、ここまで育んだ星だ。これからもずっと幸せに生き続けてもらいたいと願っている。だから君には、私の残した力の結晶の神石を拾い集めてもらいたい」
「……神石?」
「そうだ。君が触れた石と同じものが、その時代にも世界中にいくつか残っている筈だ。それらは出会えば一つに融合する。全てを拾い集めて一つにしたら、それを善なる神になれそうな者に渡してもらいたい」
「その……いきなりそう言われても、誰が善なる神になれそうな者か分かりません」
「ああ。君に似た者でいいんだ。君でも良いが?」
「それは、まさかこの世界の神になれという意味ですか?」
「その通りだ。神石は善なる神になりたい者を善なる神とする。それを手に持ち祈れば願いは叶えられる。そしてこのアルダリアは、新たな神を得て復活を遂げるだろう」
「しかし、戦争を希望する人間たちがいます」
「新たな神の最初の仕事は粛清だな。私のような、敵に甘い神ではないことを祈る」
普通の人でもなかなか踏み切れないことを行える、善なる神っているのか……。
「じゃあ頼むよ」
「えっ」
ここでも丸投げなのかと驚いたところで、既に俺の意識は岩山内部の部屋の中に戻っていた。
「あ……の、済みません。触ってしまいました」
俺は謝罪して、アーガスの神石から手を退けた。
突飛な行動をどう説明したらいいだろうと戸惑うしかない俺に、アーガスは何故か神石のペンダントを押しつけてきた。
「アーサー殿は戦闘能力はあるが、その優しき心は人殺しには似合わぬようだ。神石を探し、我らに新たな神を与える任務に没頭すべきだな」
「はい? あの?」
「まさか、千年の時を越えて皇帝アルスノバの姿を拝めるとは思わなかった。それだけで、この神石を与える理由にはなる」
アーガスは意味ありげに笑った。彼もさっきの映像を見たようだ。
俺は頷いて、神石のペンダントを受け取った。
戦う事が嫌な俺の代わりに、この世を守り戦える者を探す。それが俺の成すべき仕事だ。
2・
早速、咲夜に事情を説明しに部屋に戻った。
ようやく目覚めてベッドに座って眠そうにする彼女に、神石を見せて皇帝アルスノバに会った事を説明した。
そして得た使命を果たせば、この世の神が復活して滅びを回避できるのだと。
「俺たちは、予言通りにアルダリア世界を救えるんだ。だから、これからは神石を探そう」
「うん、分かった。頭脳労働担当の叔父さんの言うことだから、私もそれでいいと思うわ。ところで……」
咲夜は、俺の背後を見て不思議そうな表情をした。
俺は振り向いたが、何もいない。
「? あ、そうだ。旅立つ前に、俺の持ってる使っていない武器と防具を、エルフ達に渡してくる」
「じゃあ私は着替えるわね。すぐに旅立つんでしょう?」
「もうちょっと休憩が欲しいなら、あと数日は休もうか?」
「私は大丈夫よ。今日、出発しましょう」
「分かった。じゃあまた後で」
俺は軽く手を振り、部屋を出た。
岩山内部からも出て、広場で自分の持っている余分な武器と防具と日用品、それに魔石も全部空間収納から取り出して地面に置いた。
誰でも使ってとエルフ達に説明していると、クフランが緊張した面持ちで傍に来て腕を掴んで引っ張った
「アーサー殿。あの方はお知り合いですか?」
クフランが声を潜めて、俺に存在を教えてくれた人の方を見た。
何度か目を擦ってみたが、エルフ達を無表情で黙って観察しているのはユーリシエスに見える。
「ユーリシエス! 何だよお前、遅い……いや、早い!」
「どっちですか」
ユーリシエスはようやく喋り、俺の方を見た。
そして一瞬で、俺の家の自分の部屋の中にいた。
「え? ちょっと……え?」
周囲をどう見回しても、カルゼア大森林の俺の家だ?
「ユーリシエス? どういうこと?」
一緒に部屋にいるユーリシエスに聞いた。
「もういいでしょう? よその世界の事情に、首を突っ込む必要はありませんよ。あなたは早く水浴びをして、服を着替えるべきです」
「え……いやちょっと待って? 俺がいないと、あの世界は滅びるんだ! しかも神石、持ってきちゃったし!」
「知った事ではありません。子供は大人の事情に首を突っ込んだら駄目です」
「俺は子供じゃない!」
必死になって叫んだが、ユーリシエスは瞬間移動して消えた。彼を追いかけようとしたら、部屋の扉が開いてタンジェリンが顔を見せた。
「アーサー、もう帰ったのか? 旅をして気が済んだのか?」
「全然」
俺は苦々しく言い放ち、ユーリシエスを追いかけて彼の支配する町まで瞬間移動した。
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咲夜はやはり連日の行軍に疲れが溜まったようで、まだ眠っているから置いてきた。
アーガスが、まず語り始めた。
「我らエルフ一族は、皇帝であり世界の守護神であったアルスノバに助けられた身だ。しかしその部下たちは人間であり、バルネラの子孫ですらも我らはどこか嫌っていた。故に、こたびの襲撃への警告があった時に、我らの殆どはその助言に従わずに首都に居続けた。そのため、手ひどい罰を受けた」
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「奴らはいつも、西のこの森から攻め込んできていた。東にある高い山脈を越えるには、今までの飛空艇の性能では無理だった筈なのだ。しかし千年紀の終わりを、奴らは虎視眈々と武器を揃えて待ち構えていたのだろう。越えられぬと思った山を越えられた我らは、愉快な程に簡単に蹴散らされた。全て奴らの作戦だった」
「あの……人間たちは、エルフ達を捕らえに来たのではないのですか? 何故魔石にせず、殺戮を選んだのでしょうか?」
「我らは既に用済みだ。私のようなほんの一握りの魔術師以外は、人間の奴隷の方が使い勝手があるのだろうよ。故に、ただ森と山を手に入れる為に、我らを皆殺しにするだろう。もう滅びゆく世であるのに、奴らはその現実を決して認めず、奴らの嘘の予言を信じて自分の欲だけで動いている」
今はエルフの代わりに、人間の奴隷を使っているのか。聞けば聞くほど酷い話だ。しかし俺は、この世で何が出来るのだろうか。
エルフと共に武器を持って人間たちと戦うか、それとも……。
「予言にある星とは何ですか? 私と咲夜は、それを追いかけるべきなのでしょうか?」
「バルネラは、そう予言したな。無論、我らとしては人間と事を構える時に助力してもらいたいが、そうはいかないのだろうか。奴らは我らを皆殺しにしようとしている。どんな戦力も手放すのは惜しい」
「……星が強力な武器であるなら、それを入手する旅はあなた方のためにもなります」
「星とは、皇帝アルスノバが死の直前に残した彼の力の破片だ。そう言い伝えられている。ここにも一つあるが、魔石のようには使えない。力はあると分かるのに、取り出し方が分からない」
アーガスは、首元にかけたペンダントの鎖をたぐり、ペンダントトップを上着の中から取り出した。
レモン色の四角い宝石を見た瞬間に、それがアーガスの言うとおりに人ではない者の強い力の破片であると分かった。
「触れても構いませんか?」
俺は考える前に自動的にそう言い、アーガスが答える前に素早く触った。
何故そんな事をと自分で驚いた時には、真っ白な世界の中で白銀の鎧姿の金髪の青年に見下ろされつつ地面に座っていた。
「君が何者かは知らないが、頼まれて欲しい」
穏やかな笑顔を見せて語る青年は、全体的なイメージが力強いのに、どこか透明ではかなげだ。
「私はあと数秒後には死ぬ。そうなれば、このアルダリアの世界は滅びてしまう。けれど、そうさせたくはない。私が無から生み出し、ここまで育んだ星だ。これからもずっと幸せに生き続けてもらいたいと願っている。だから君には、私の残した力の結晶の神石を拾い集めてもらいたい」
「……神石?」
「そうだ。君が触れた石と同じものが、その時代にも世界中にいくつか残っている筈だ。それらは出会えば一つに融合する。全てを拾い集めて一つにしたら、それを善なる神になれそうな者に渡してもらいたい」
「その……いきなりそう言われても、誰が善なる神になれそうな者か分かりません」
「ああ。君に似た者でいいんだ。君でも良いが?」
「それは、まさかこの世界の神になれという意味ですか?」
「その通りだ。神石は善なる神になりたい者を善なる神とする。それを手に持ち祈れば願いは叶えられる。そしてこのアルダリアは、新たな神を得て復活を遂げるだろう」
「しかし、戦争を希望する人間たちがいます」
「新たな神の最初の仕事は粛清だな。私のような、敵に甘い神ではないことを祈る」
普通の人でもなかなか踏み切れないことを行える、善なる神っているのか……。
「じゃあ頼むよ」
「えっ」
ここでも丸投げなのかと驚いたところで、既に俺の意識は岩山内部の部屋の中に戻っていた。
「あ……の、済みません。触ってしまいました」
俺は謝罪して、アーガスの神石から手を退けた。
突飛な行動をどう説明したらいいだろうと戸惑うしかない俺に、アーガスは何故か神石のペンダントを押しつけてきた。
「アーサー殿は戦闘能力はあるが、その優しき心は人殺しには似合わぬようだ。神石を探し、我らに新たな神を与える任務に没頭すべきだな」
「はい? あの?」
「まさか、千年の時を越えて皇帝アルスノバの姿を拝めるとは思わなかった。それだけで、この神石を与える理由にはなる」
アーガスは意味ありげに笑った。彼もさっきの映像を見たようだ。
俺は頷いて、神石のペンダントを受け取った。
戦う事が嫌な俺の代わりに、この世を守り戦える者を探す。それが俺の成すべき仕事だ。
2・
早速、咲夜に事情を説明しに部屋に戻った。
ようやく目覚めてベッドに座って眠そうにする彼女に、神石を見せて皇帝アルスノバに会った事を説明した。
そして得た使命を果たせば、この世の神が復活して滅びを回避できるのだと。
「俺たちは、予言通りにアルダリア世界を救えるんだ。だから、これからは神石を探そう」
「うん、分かった。頭脳労働担当の叔父さんの言うことだから、私もそれでいいと思うわ。ところで……」
咲夜は、俺の背後を見て不思議そうな表情をした。
俺は振り向いたが、何もいない。
「? あ、そうだ。旅立つ前に、俺の持ってる使っていない武器と防具を、エルフ達に渡してくる」
「じゃあ私は着替えるわね。すぐに旅立つんでしょう?」
「もうちょっと休憩が欲しいなら、あと数日は休もうか?」
「私は大丈夫よ。今日、出発しましょう」
「分かった。じゃあまた後で」
俺は軽く手を振り、部屋を出た。
岩山内部からも出て、広場で自分の持っている余分な武器と防具と日用品、それに魔石も全部空間収納から取り出して地面に置いた。
誰でも使ってとエルフ達に説明していると、クフランが緊張した面持ちで傍に来て腕を掴んで引っ張った
「アーサー殿。あの方はお知り合いですか?」
クフランが声を潜めて、俺に存在を教えてくれた人の方を見た。
何度か目を擦ってみたが、エルフ達を無表情で黙って観察しているのはユーリシエスに見える。
「ユーリシエス! 何だよお前、遅い……いや、早い!」
「どっちですか」
ユーリシエスはようやく喋り、俺の方を見た。
そして一瞬で、俺の家の自分の部屋の中にいた。
「え? ちょっと……え?」
周囲をどう見回しても、カルゼア大森林の俺の家だ?
「ユーリシエス? どういうこと?」
一緒に部屋にいるユーリシエスに聞いた。
「もういいでしょう? よその世界の事情に、首を突っ込む必要はありませんよ。あなたは早く水浴びをして、服を着替えるべきです」
「え……いやちょっと待って? 俺がいないと、あの世界は滅びるんだ! しかも神石、持ってきちゃったし!」
「知った事ではありません。子供は大人の事情に首を突っ込んだら駄目です」
「俺は子供じゃない!」
必死になって叫んだが、ユーリシエスは瞬間移動して消えた。彼を追いかけようとしたら、部屋の扉が開いてタンジェリンが顔を見せた。
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