転生魔王と麒麟の勇者

海生まれのネコ

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二章 麒麟の里帰り

4 家族のこと

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1・

翌日。麒麟の神殿生活二日目。
物憂げな朝を迎え、食卓でため息をついた。
後ろの方から視線を感じる。

「授業を断ることもできます」

ソヨンさんが囁いた。

「授業は受けます。ただ自分の立場に慣れていないだけです」

「少しずつ慣れることができますよ」

「そうですね」

励ましの言葉を貰えるのは嬉しい。でも今は、昨日の問題をウィリアムさんと話し合いたい。

が、彼は今日僕の警護当番ではなく、別の仕事があると出かけたそうだ。
帰って来るまで待つか……と思ったものの、ソヨンさんに質問しても良いかもと思えた。

「ソヨンさん、魔界の時空魔法について質問してもよろしいですか?」

「時空魔法の事でしたら、ウィリアムにどうぞ。彼はノア様の後輩ですので」

「ん?」

後輩って何? と不思議に思った。時空魔法の後輩……ああ!

「えっ、まさかイプシロンノヴァの魔法大学出身ですか!」

「はい。麒麟の護り人として時空魔法を取得する存在が必要になった時に、抜擢されて派遣されました。ノア様が大学を立ち去ったすぐ後のことです」

「ウワア、まさかそうだと思わず……」

そういえば昨日の相談内容は、専門知識を駆使してくれなければ導き出せないレベルのものだった。ウィリアムさんの専門が何かとか、考えたことなかった。

「それで、教官なのに私についたんですね。なるほど。ではソヨンさんは、何が専門なのですか?」

「私は、少々腕の立つところを買われて、教官をしておりました。今は、実質的にノア様の警護主任とされています」

「女性ですが、勇ましいのですね。まるで私の……」

前の人生の、妹のようだ。

前世の家族のことはとても大好きで、仲間のことも大好きだ。でも彼らが昔のまま今の僕に接してくれるか分からなくて、まだ何も調べていない。
幸せになってくれていると信じてるけれども、それでも知るのが怖い。

「ノア様の家族について、お調べいたしましょうか?」

心を読まれたようで驚いた。きっと、かなり顔に出ているのだろう。

僕は悩んだ。無駄に悩んだ。時間が来たので食事を切り上げ、歴史の授業を受けに別の部屋まで行った時も悩んだ。
それで、レナートさんに見破られた。

「何の問題で悩まれておられるのですか? きっと頭に何も入っていませんでしょう?」

「あの……」

わざわざ神殿まで通勤してくれている彼に悪いので、正直に話した。前世の家族が気になるのだと。

するとレナートさんは言った。

「でしたら遠距離空間通信で、バンハムーバなりイプシロンノヴァに連絡を取られては?」

「いきなり大画面で出会うのは、心臓に悪いので嫌です。だって僕、もう家族じゃないですよ」

「向こうはそうは思わないのでは。考えすぎです。きっと再会を喜んで下さいます」

「でしょうか……」

「暗い顔をなさらないで下さい。いきなり画面で出会うのが嫌でしたら、普通に紙媒体の報告書で頂きましょう」

「その方がいいですね」

「ではそうします」

レナートさんの笑顔を見て、しばらくしてから何故自分は了承したのかと驚いた。
そして笑顔のレナートさんが、誰にもその決定を知らせずに鞄の中から一枚の折りたたまれた紙を取り出して僕に差し出してきた時も、まだよく理解できていなかった。

気付いた時に身を強ばらせたものの、もう目の前なので受け取った。

観念して男らしく行こうと決め、ゆっくりと紙を開いて文章を確認した。

まずは妹のアリアナ。宇宙文明をを二分する勢力の一つユールレム国の第二王子と結婚したんじゃないかと思っていたら、違っていた。
彼女の実家、カート商会の宇宙船技師クールベさんと結婚してる! しかも娘がいる! 何があったの!

次に、イプシロンノヴァに置き去りにしてしまったカルラ父さん。
案の定、ヘレナ学園長との間に息子がいる。そして……前世の僕の母クイシャと正式に結婚し、共に大学講師として働いている! なんでいきなり真面目になった! そして息子と娘がいる! 家族が順調に増えてる!

とりあえず……この紙には、それだけのことが書かれていた。これだけなのに疲れた。

ため息をつく僕に、レナートさんが教えてくれた。

バンハムーバの準母星クリスタの龍神であるロック君……様には、娘が増えている。
前世で一時期、僕が王を勤めたポドールイの王は、今もカシミア様。
バンハムーバ母星の龍神シーマ様は結婚しておられないが、新たな龍神を迎えて指導に熱を入れているのだとか。

そこまで聞いてしまったら、もう怖がる必要もなくなった。他に動向を知りたい人たちがいるものの、後でも調べられる。

それからの授業は、普通に受けることができた。

2・

昼食時になり、ウィリアムさんが顔を見せた。

「お帰りなさい! 何をされていたんですか?」

後輩と知って親近感が湧きすぎたせいで大歓迎してしまうと、彼は微妙に照れた。

「何が起こりました?」

「あ、後輩と知りました」

「なるほど。それはさておいて、私が出かけていたのは、大魔王と連絡を取るためです。普通に通信を入れては情報漏えいする恐れがありましたので、しない手段を選択しました」

「空間通信で情報漏えいしないのですが。それはなかなかに高水準の技術ですね」

「ええ、ミネットティオル内に暮らす魔人の力を借りたのです。時空魔法の始祖は大魔王だと説明いたしましたが、他の魔法の始まりも、あの魔界なのですよ。技術において、未だ叶わない面もあります」

ウィリアムさんがそう言うと、この台詞を聞いた他の人たちが嫌そうな表情をした。
負けを認めるのが嫌と言うよりも、その情報全てを無き者にしたい思惑があるような気がする。

そういえば、麒麟が大魔王の血族だと言うのは秘密っぽい……なるほど。

「ノア様を保護した時に、このミネットティオル内で連絡を取れる方を紹介されていたので、その確認の為にも行って参りました。そして伝言を頂いたのですが」

今度は、ウィリアムさんが嫌そうな表情をした。

「な、何ですか。陸君が攻めてくるとでも?」

「いいえ、彼の動向は意外なものでしたよ。我らが魔界を出てすぐ、同じように宇宙に旅立ちました。しかしそれは魔界の一国としてユールレム本国に表敬訪問に向かうというものです」

「ユールレム国に?」

全く予想もしていなかった展開だ。すぐ僕が生きているのを知って追いかけてくるかと思っていたんだけど。

「理由までは、分かりませんよね?」

「はい。本当に正式な申し入れの後で受け入れが決定された、普通の外交努力のようです。もしかしたら、ノア様の生存は大目に見てもらえているのかもしれませんが……危険は危険です」

ウィリアムさんは、最後の部分を早口で言った。

「我がミネットティオル星国も、ユールレム国勢力圏内です。彼がどのようにかしてユールレム国の戦力を借りた場合、我らは麒麟様を守るために無条件降伏するしかありません」

ここで、ソヨンさんが口を挟んだ。

「ここ二万年ほど平和維持活動のみ行っているユールレム国が、軍事力で我らを攻めるほどの言い分が、魔界の者にあるとは思えません。それにノア様は麒麟であられます。凶行に走ったといえど、かつて麒麟の護り人であった者が、冷静になった上で命を狙うというのは非現実的かと」

「あのリュック・スタインウェイですしね」

二日前から僕についてくれている麒麟の護り人のロレンスさんが、呟くように言った。

「あの、とは、どういう意味ですか?」

ロレンスさんに質問した。

「はい。英雄バティスタ様の麒麟の護り人であり、その配下の者を取りまとめていた隊長です。実質的に、我らのトップでした。宇宙でも名を馳せた武芸の者で、麒麟様に対する忠誠心はうそ偽りないものでした」

そう言われて、納得した。初めて出会った時のあの威圧感は、気のせいではなかった。
しかしそうすると……。

「でもやはり、そうとなれば今の陸君……麗しの君としての行動基準は、麒麟を護る事かもしれません。私一人は例外としても、他の麒麟を護るべき事態が何か発生している場合、その問題を排除しようとするのでは?」

何となく思いついた事を言うと、全員の顔色が変わった。

「あ、あの、思いつき――」

「いえ、十分にあり得る話です。ノア様は神殿から一歩も出られませんように。ソヨン、頼んだ」

「はい」

ウィリアムさんは他の麒麟の護り人二名と共に、素早く部屋を出ていった。

僕は外出禁止にされ、午後からの礼儀作法の授業にソヨンさんとその部下らしいレオネルさんの気迫がみなぎった。
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