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二章 麒麟の里帰り
5 不屈の者
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1・
翌日まで周囲がざわついていたものの、朝になると落ち着きを取り戻していた。
色んな手段を使用して、今現在麒麟の驚異となるものを探し出そうとしていた人たちは、結局そういうものが見当たらないという結論に達した。
朝食時に会ったウィリアムさんは、少し疲れ気味に見えた。
「ウィリアムさん、私の思いつきでしかないことを、そう容易く信じ込まないで下さいね? 私はもうポドールイ人ではなく、過去と未来を見ることが出来る能力など持っていないのです」
「しかし、可能性がある限りは確かめない訳にいきません。意見を下され、感謝しております。それから、そのポドールイの方のことなのですが」
「はい?」
「ホルンという方が、今日の夕方に通信を入れたいとのことなのですが、お受けになられますか?」
「ホルン……ええ、もちろんです。前の私の友人です。やはり、私が戻ってきた事に気付いていたんですね」
ミネットティオルが所属すち宇宙文明を生み出した神が、まず生み出した神の楽園にて暮らしていたのがポドールイ人たち。
色々と制約のある闇の民ながら心優しく、他の種族の方々を好意で手助けしている。
特徴的なのは生まれ持つ予言と預言の力で、過去と未来を的確なタイミングで多く知ることができる。そのために未然に防げた事件は多々ある。
……自分がポドールイ人の王であった時、それでも助け損ねた存在はいるものの。
自分がもっと役立てればと思ったことで暗い表情をしたようで、ウィリアムさんの表情が曇った。
マイナスなメンタルを誤魔化したい僕は、いかにも気にしているという風に質問してみた。
「ウィリアムさん、そういえば昨日、大魔王からの伝言を聞いていませんでした。教えて下さいよ」
「そんな話、しましたっけ?」
「ん?」
一瞬、自分の記憶間違いか、もしくは過去に誰かが干渉して僕とは違う記憶を彼が持っているのかと考えた。
だが、人は良いのだろうウィリアムさんが視線をそらしたから、普通に嘘だと気付いた。
突っ込んで教えてもらおうかと思いもしたものの、僕の害になりそうな事なので黙っていそうだ。ここは聞かない方が身のためかもしれない。
「あれ、記憶違いでしたか。すみません」
「……いえ、謝罪などなさらず」
これで話は無かったことになった。
それよりも夕方にホルンと空間通信できるので、心待ちにしながら時間が経過するのを待った。昨日、あれだけみんなの事を知るのが怖かったことなど幻だ。
ミネットティオルの四万年の歴史も楽しく学び、礼儀作法も優雅に乗り越えた。
そして夕方、神殿の一室にある遠距離空間通信室で、画面の前に座って待った。
ホルンのいる惑星クリスタの首都は、今は朝だという。
起きて出すぐに連絡を取ってくれるのかなと思っていると、通信許可のランプが灯った。
僕が押そうかと思ったら、横に立っているソヨンさんが押した。
バスで降りたいときにボタンを押せなかった時の切ない気分になった。
通信が始まり、画面に一人の青年が映った。
僕の記憶にあるホルンは、二十歳ほどでも少年のような愛らしい存在だった。なので、高校生ほどの年齢の金髪長髪の彼がホルンだと、一瞬分からなかった。
「ホルンです。ポドールイ人は時折、子供時代の長い存在が生まれることもあるのです。不老の性質の影響です」
「わ。ホルン。良かった……違う人かと」
本気でホッとすると、真顔だったホルンはふと笑った。
「ノア様は、前と変わりませんね。いえ、出会った時からと言うべきでしょうか」
「出会ったのは、龍神の神殿で……それから二ヶ月も一緒にはいれなかったけど、旅の途中でメールのやり取りしてくれて嬉しかったよ」
「それ以前です。既に気付いてらっしゃるのではありませんか? 私はノイエです」
その名の少年と初めて出会ったのは、お互いが死んだ状態の時だった。
ノイエは龍神として死んだ。
僕が代わりにノイエの体に入って生きて、それから起こる悲劇を食い止めようとした。
けれど要領が悪く、悲劇開始のスイッチを押してノイエとして死んでしまった。
次の世にポドールイ人の王ノアとなり、その時にホルンと出会った。
ホルンは初対面で、僕にお久しぶりと言ったのだっけ。
「ホルン……うん、理解した。ホルンは本物のノイエだ。龍神ノイエ」
「今は神官のホルンですよ。そしてポドールイ人の一人として、貴方にお知らせせねばならないことがあります」
再会できて嬉しいのに、そんなこと後回しと言わんばかりの真剣さ。
事件はどこかで起きるのか。
「私たちは、麒麟のバティスタ様に魂を操られ、あの方の手駒となるように転生させられました。私がここに生まれたのは、自分で願い出たことでもありますが、あの者にとり己の盾と矛である貴方の守護となるために利用されたようです」
「バティスタ様のことは、理解してるのか?」
「もちろんです。貴方を利用して悪徳な星をいさめるために宇宙戦争を始めようとしたものの、無理がたたり闇落ちしたことは知っています。情報の隠蔽をなさっている麒麟の護り人たちは、否定されるでしょうが」
僕の隣にいるソヨンさんは無表情になり、冷たい目をホルンに向けている。
振り向かなくても、他の全員も同じだろうと分かる。
「ホルン、その……」
「私たちは、ノア様の犠牲により全てが終わったと思いました。そして縁があれば、生まれ変わって会いに来てくれると期待しました。その期待はこうして現実のものとなり、嬉しく思います。しかし、そこに思いがけない客も訪れたのです」
「それは、陸……スタインウェイさんの事か」
「あの方はとても強大な魔力をお持ちです。もし単独であったとしても、ユールレムやバンハムーバでない限り、滅ぼされてしまうでしょう。その魔力で彼は……己の主人を復活させました」
え、と思った。スタインウェイさんの主人って、バティスタ様だけど……。
「歴史を歪めぬように、ノア様があの方を退治された後に時空間移動し、魂を回収しました。そして貴方のやり方を真似て、あの時代に生まれ変わらせたのです。本来ならば私たちは自分より魔力の強い者の動向を見抜けないのですが、この度のことは近しい者の運命に関与していたので、知ることができました」
「近しい者って…………誰?」
聞きたくなくて、涙が出た。でも聞かなくちゃいけない。
ホルンは、僕を気の毒に思う目をした。
「ユールレム国第二王子のアルトリウス様とアリアナさんの間には、十六才になる息子が一人います。その彼が――」
「なんてこと」
目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
アリアナが王子と幸せにならなかったのは、僕の詰めが甘かったからだ。
それに数日前、魔界からただ逃げる事しか考えなかった。もしかしたら、目覚めてすぐに陸君のところに行って邪魔をしていれば……。
「貴方の眠っている間に行われたことのようです。どうしても間に合いませんでした」
「でも、アリアナに申し訳なくて……て、まさか、陸君がユールレムに行ったのって!」
「主人を迎えに行ったのですよ。そうして彼らは、気に入らない星に戦争を仕掛けて勝てる宇宙一の軍事力を入手しました」
僕は、声が出なくなった。
さっきホルンを敵のように見ていたみんなが、この事実について矢継ぎ早に質問を投げかけた。
ホルンがそれに幾つか答えたのは分かるけれど、全然理解できない音楽のように聞こえる。
結局、僕は前より酷い戦争を起こす方法を、彼らに与えてしまった。
僕が前世で大人しくバティスタ様に従っていれば、まだ麒麟の理念のうちに穏やかな変化も望めたかもしれない。
だけど下手に抗ったから、彼らは星を破壊してまでも理想を押し通せる存在になってしまった。
これから死ぬ全員、僕のせいで苦しんで命を落とすんだ……。
自分の周囲が真っ暗に染まった。何だろうこれと思っていると、誰かが僕に抱きついてきた。
それが誰か分からないけれど、僕に必死に訴えた。
大丈夫、大丈夫、そこから戻ってきてと。
暖かい感覚がし、僕は徐々に穏やかな気持ちになった。
視界が戻り、ソヨンさんが僕を抱きしめて泣いてるのが分かった。
僕は片手を上げて涙を拭い、ごめんなさいと小さく呟いた。
2・
僕は闇落ちしかかったことで、部屋に連れ戻られてベッドに詰め込まれ、色々と検査をされた後に謹慎処分を食らった。
逆らう気力なんて一切ないので、天蓋のレースカーテンが引かれたベッドの中で横になり、ただぼんやりしていた。
夜になり、食事はと聞かれたけれど断った。
飲み物は、果物と一緒にサイドテーブルに置いていってくれた。
熱を出した日に大人に心配されている子供みたいだ。
穏やかな光を作るランプシェードの光源だけが、部屋を照らしている。
うつらうつらし始めた頃、扉が静かに開いて誰かが部屋に入ってきた気配がした。
熱はないよと思いつつ、薄目を開けて誰が来たか確認してみた。
レースカーテンの向こうに人影がやって来て、そっとカーテンを開いた。
それで、やって来たのがソヨンさんだと分かった。
ソヨンさんは僕の様子を確認したいのか、ベッドに登って顔に顔を近付けてきた。
薄暗いけれど彼女が私服で、それに石けんの良い香りがするのに気付いた。
彼女がそっと手を上げて、僕に差し出した。
僕も手を上げて、その手に触れようとした。
手の中に、小さな熊のぬいぐるみを押し込まれた。
とりあえずそれを受け取って脇に置くと、次に宇宙で有名なアニメ、キャプテンシドニーのキャラクター人形が突き出された。
僕はそれを見た瞬間、落ち込んでいたのをすっかり忘れる勢いで爆笑した。
ありがたく人形も受け取り、脇に置いた。
ああやっぱり、自分ってまだ坊ちゃんなんだなと思った。
何度転生しても、二十歳以上の大人になれない。
そりゃあ間違いだってする。
でも子供だから、もっと成長できる。大人になれば、本当の意味で英雄にもなれる。
しかし子供としても、全力で大人たちと対抗しなければならない。
だけど僕の足りない部分は、こうして他の大人が助けてくれる。
だから大丈夫だ。本当に。
「ありがとう。もう大丈夫です」
とある決心をし、笑うのを止めてソヨンさんに感謝した。
彼女はにっこり笑い、一度身を引こうとした。
でも素早く身をひるがえし、僕の唇に唇を軽く重ねた。
僕が驚いている間に、彼女は今度こそ素早く立ち去っていった。
自分の顔に触れ、熱が出てると思った。
翌日まで周囲がざわついていたものの、朝になると落ち着きを取り戻していた。
色んな手段を使用して、今現在麒麟の驚異となるものを探し出そうとしていた人たちは、結局そういうものが見当たらないという結論に達した。
朝食時に会ったウィリアムさんは、少し疲れ気味に見えた。
「ウィリアムさん、私の思いつきでしかないことを、そう容易く信じ込まないで下さいね? 私はもうポドールイ人ではなく、過去と未来を見ることが出来る能力など持っていないのです」
「しかし、可能性がある限りは確かめない訳にいきません。意見を下され、感謝しております。それから、そのポドールイの方のことなのですが」
「はい?」
「ホルンという方が、今日の夕方に通信を入れたいとのことなのですが、お受けになられますか?」
「ホルン……ええ、もちろんです。前の私の友人です。やはり、私が戻ってきた事に気付いていたんですね」
ミネットティオルが所属すち宇宙文明を生み出した神が、まず生み出した神の楽園にて暮らしていたのがポドールイ人たち。
色々と制約のある闇の民ながら心優しく、他の種族の方々を好意で手助けしている。
特徴的なのは生まれ持つ予言と預言の力で、過去と未来を的確なタイミングで多く知ることができる。そのために未然に防げた事件は多々ある。
……自分がポドールイ人の王であった時、それでも助け損ねた存在はいるものの。
自分がもっと役立てればと思ったことで暗い表情をしたようで、ウィリアムさんの表情が曇った。
マイナスなメンタルを誤魔化したい僕は、いかにも気にしているという風に質問してみた。
「ウィリアムさん、そういえば昨日、大魔王からの伝言を聞いていませんでした。教えて下さいよ」
「そんな話、しましたっけ?」
「ん?」
一瞬、自分の記憶間違いか、もしくは過去に誰かが干渉して僕とは違う記憶を彼が持っているのかと考えた。
だが、人は良いのだろうウィリアムさんが視線をそらしたから、普通に嘘だと気付いた。
突っ込んで教えてもらおうかと思いもしたものの、僕の害になりそうな事なので黙っていそうだ。ここは聞かない方が身のためかもしれない。
「あれ、記憶違いでしたか。すみません」
「……いえ、謝罪などなさらず」
これで話は無かったことになった。
それよりも夕方にホルンと空間通信できるので、心待ちにしながら時間が経過するのを待った。昨日、あれだけみんなの事を知るのが怖かったことなど幻だ。
ミネットティオルの四万年の歴史も楽しく学び、礼儀作法も優雅に乗り越えた。
そして夕方、神殿の一室にある遠距離空間通信室で、画面の前に座って待った。
ホルンのいる惑星クリスタの首都は、今は朝だという。
起きて出すぐに連絡を取ってくれるのかなと思っていると、通信許可のランプが灯った。
僕が押そうかと思ったら、横に立っているソヨンさんが押した。
バスで降りたいときにボタンを押せなかった時の切ない気分になった。
通信が始まり、画面に一人の青年が映った。
僕の記憶にあるホルンは、二十歳ほどでも少年のような愛らしい存在だった。なので、高校生ほどの年齢の金髪長髪の彼がホルンだと、一瞬分からなかった。
「ホルンです。ポドールイ人は時折、子供時代の長い存在が生まれることもあるのです。不老の性質の影響です」
「わ。ホルン。良かった……違う人かと」
本気でホッとすると、真顔だったホルンはふと笑った。
「ノア様は、前と変わりませんね。いえ、出会った時からと言うべきでしょうか」
「出会ったのは、龍神の神殿で……それから二ヶ月も一緒にはいれなかったけど、旅の途中でメールのやり取りしてくれて嬉しかったよ」
「それ以前です。既に気付いてらっしゃるのではありませんか? 私はノイエです」
その名の少年と初めて出会ったのは、お互いが死んだ状態の時だった。
ノイエは龍神として死んだ。
僕が代わりにノイエの体に入って生きて、それから起こる悲劇を食い止めようとした。
けれど要領が悪く、悲劇開始のスイッチを押してノイエとして死んでしまった。
次の世にポドールイ人の王ノアとなり、その時にホルンと出会った。
ホルンは初対面で、僕にお久しぶりと言ったのだっけ。
「ホルン……うん、理解した。ホルンは本物のノイエだ。龍神ノイエ」
「今は神官のホルンですよ。そしてポドールイ人の一人として、貴方にお知らせせねばならないことがあります」
再会できて嬉しいのに、そんなこと後回しと言わんばかりの真剣さ。
事件はどこかで起きるのか。
「私たちは、麒麟のバティスタ様に魂を操られ、あの方の手駒となるように転生させられました。私がここに生まれたのは、自分で願い出たことでもありますが、あの者にとり己の盾と矛である貴方の守護となるために利用されたようです」
「バティスタ様のことは、理解してるのか?」
「もちろんです。貴方を利用して悪徳な星をいさめるために宇宙戦争を始めようとしたものの、無理がたたり闇落ちしたことは知っています。情報の隠蔽をなさっている麒麟の護り人たちは、否定されるでしょうが」
僕の隣にいるソヨンさんは無表情になり、冷たい目をホルンに向けている。
振り向かなくても、他の全員も同じだろうと分かる。
「ホルン、その……」
「私たちは、ノア様の犠牲により全てが終わったと思いました。そして縁があれば、生まれ変わって会いに来てくれると期待しました。その期待はこうして現実のものとなり、嬉しく思います。しかし、そこに思いがけない客も訪れたのです」
「それは、陸……スタインウェイさんの事か」
「あの方はとても強大な魔力をお持ちです。もし単独であったとしても、ユールレムやバンハムーバでない限り、滅ぼされてしまうでしょう。その魔力で彼は……己の主人を復活させました」
え、と思った。スタインウェイさんの主人って、バティスタ様だけど……。
「歴史を歪めぬように、ノア様があの方を退治された後に時空間移動し、魂を回収しました。そして貴方のやり方を真似て、あの時代に生まれ変わらせたのです。本来ならば私たちは自分より魔力の強い者の動向を見抜けないのですが、この度のことは近しい者の運命に関与していたので、知ることができました」
「近しい者って…………誰?」
聞きたくなくて、涙が出た。でも聞かなくちゃいけない。
ホルンは、僕を気の毒に思う目をした。
「ユールレム国第二王子のアルトリウス様とアリアナさんの間には、十六才になる息子が一人います。その彼が――」
「なんてこと」
目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
アリアナが王子と幸せにならなかったのは、僕の詰めが甘かったからだ。
それに数日前、魔界からただ逃げる事しか考えなかった。もしかしたら、目覚めてすぐに陸君のところに行って邪魔をしていれば……。
「貴方の眠っている間に行われたことのようです。どうしても間に合いませんでした」
「でも、アリアナに申し訳なくて……て、まさか、陸君がユールレムに行ったのって!」
「主人を迎えに行ったのですよ。そうして彼らは、気に入らない星に戦争を仕掛けて勝てる宇宙一の軍事力を入手しました」
僕は、声が出なくなった。
さっきホルンを敵のように見ていたみんなが、この事実について矢継ぎ早に質問を投げかけた。
ホルンがそれに幾つか答えたのは分かるけれど、全然理解できない音楽のように聞こえる。
結局、僕は前より酷い戦争を起こす方法を、彼らに与えてしまった。
僕が前世で大人しくバティスタ様に従っていれば、まだ麒麟の理念のうちに穏やかな変化も望めたかもしれない。
だけど下手に抗ったから、彼らは星を破壊してまでも理想を押し通せる存在になってしまった。
これから死ぬ全員、僕のせいで苦しんで命を落とすんだ……。
自分の周囲が真っ暗に染まった。何だろうこれと思っていると、誰かが僕に抱きついてきた。
それが誰か分からないけれど、僕に必死に訴えた。
大丈夫、大丈夫、そこから戻ってきてと。
暖かい感覚がし、僕は徐々に穏やかな気持ちになった。
視界が戻り、ソヨンさんが僕を抱きしめて泣いてるのが分かった。
僕は片手を上げて涙を拭い、ごめんなさいと小さく呟いた。
2・
僕は闇落ちしかかったことで、部屋に連れ戻られてベッドに詰め込まれ、色々と検査をされた後に謹慎処分を食らった。
逆らう気力なんて一切ないので、天蓋のレースカーテンが引かれたベッドの中で横になり、ただぼんやりしていた。
夜になり、食事はと聞かれたけれど断った。
飲み物は、果物と一緒にサイドテーブルに置いていってくれた。
熱を出した日に大人に心配されている子供みたいだ。
穏やかな光を作るランプシェードの光源だけが、部屋を照らしている。
うつらうつらし始めた頃、扉が静かに開いて誰かが部屋に入ってきた気配がした。
熱はないよと思いつつ、薄目を開けて誰が来たか確認してみた。
レースカーテンの向こうに人影がやって来て、そっとカーテンを開いた。
それで、やって来たのがソヨンさんだと分かった。
ソヨンさんは僕の様子を確認したいのか、ベッドに登って顔に顔を近付けてきた。
薄暗いけれど彼女が私服で、それに石けんの良い香りがするのに気付いた。
彼女がそっと手を上げて、僕に差し出した。
僕も手を上げて、その手に触れようとした。
手の中に、小さな熊のぬいぐるみを押し込まれた。
とりあえずそれを受け取って脇に置くと、次に宇宙で有名なアニメ、キャプテンシドニーのキャラクター人形が突き出された。
僕はそれを見た瞬間、落ち込んでいたのをすっかり忘れる勢いで爆笑した。
ありがたく人形も受け取り、脇に置いた。
ああやっぱり、自分ってまだ坊ちゃんなんだなと思った。
何度転生しても、二十歳以上の大人になれない。
そりゃあ間違いだってする。
でも子供だから、もっと成長できる。大人になれば、本当の意味で英雄にもなれる。
しかし子供としても、全力で大人たちと対抗しなければならない。
だけど僕の足りない部分は、こうして他の大人が助けてくれる。
だから大丈夫だ。本当に。
「ありがとう。もう大丈夫です」
とある決心をし、笑うのを止めてソヨンさんに感謝した。
彼女はにっこり笑い、一度身を引こうとした。
でも素早く身をひるがえし、僕の唇に唇を軽く重ねた。
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自分の顔に触れ、熱が出てると思った。
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