転生魔王と麒麟の勇者

海生まれのネコ

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三章 魔界の門と二人の妹

5 様変わりした世界

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1・

今の僕の故郷に帰還できるとなったことを、魔界の主要国の一つサラマンドロアに向かい、そこのお城で逗留中の陸君に教えに行った。

最初は僕に会うことに難色を示していたものの、お土産の桃缶とカニ缶とワインは受け取ってくれた。

「これ、どういうチョイスなんですか」

豪華な衣装を身につけて、七色の髪をたなびかせ、ことごとく美しい容姿の陸君の第一声はそれだった。

「それは、もしかしたら会えないかもしれなかったから、日持ちするものにしたんだ」

「まあ……部下の誰かが喜ぶとは思いますよ。それで、御用は?」

宇宙で仲直りした筈なのだが、今も威嚇され気味だ。
それが何故なのか聞きたくなったけれど、大変な事になりかねない予想もあるので、この話題に触れるのは止めた。

僕は、門の向こうの日本に帰れるから一緒に来るかと聞いた。

陸君は、しばらく考えてから発言した。

「この場合における貴方のメリットは? 何故、私を誘いに来たのですか」

「陸君も……家に帰りたいだろう? ずっとって意味じゃないけど、家族と別れたままなのは嫌な筈だ」

「ですが、追放されている者を連れて行くリスクは分かるでしょう?」

「大魔王様がバレなきゃいいって言ったから、それでいいと思うよ」

陸君は顔に手を当てて悩んだ。

「魔界の者は本当に力押しが好きな種族ですね。貴方もそうだと聞いて、なるほどと納得しました」

「僕、いつ力押ししてた? いちおう話し合い重視で……ああ、あの襲撃の時は非常事態だろ。カウントしないでくれ」

「…………分かりました。貴方の好意に甘える事にします。しかし向こうでは別行動です。何か困ったことがあっても、絶対に頼ってこないで下さい」

「そうする」

きちんと指切りげんまんして、約束した。
こうして、陸君も無事に合流した。

2・

大魔王領の王都の一角にある魔族研究所から、向こうの世界に繋がった小さめの門を使用して、懐かしい日本へ渡った。

どこかの薄暗い部屋の中、時空を超える小さな門の管理をしている魔人の国家公務員さんたちが、僕らを出迎えてくれた。

やって来たのは僕と麒麟の護り人四名、セシリア王女とその護衛の剣士風の女性ルナさん。そして陸君。

陸君は渡ってきてすぐ周囲を見回し行ってしまおうとしたものの、立ち止まって振り向いた。

「ここで借りを返します」

誰かが止める前に、彼は僕に魔法をかけた。

一瞬目がくらんだものの、それはすぐに回復した。
陸君は、素早く立ち去った。

僕は何が起きたか確認しようとして、みんなが僕を凝視しているのに気付いた。

「僕、どうなってますか?」

「あの、前世のポドールイ人であった時のノア様のお姿をしていますが」

「え」

ウィリアムさんの言葉にさすがに驚き、知り合ったばかりの魔界の国家公務員さんに鏡のある部屋まで連れて行ってもらった。

そこには日本風の衣装がたくさんあり、どれでも好きなのを着て下さいと言ってもらえた。

みんながそれぞれ似合いそうな衣装を物色し始めた横で、僕は鏡を見つめて感心した。

前世のノアの姿に見えるのに、黒い長髪に触れると実体がない。本当に変身したのではなく、幻でこうなっているようだ。

懐かしい顔の自分に対して久しぶりに会った友人のような気がして、しばらくは鏡の前から動かなかった。

そうこうしているうちにみんなが着がえ終わり、僕も普通の高校生風の衣装に着替えた。

これで準備万端、叔父さんの家に行くぞ! と気合いを入れたところで、魔界の国家公務員さんに注意事項を伝えられた。

「ノア様はもともと日本人であられるので問題はありませんが、魔人ではない種族の方は、日本語が理解できませんのでご注意を。学んでいれば大丈夫ですが」

僕は、ウィリアムさんとレオネルさんとロレンスさんを見た。

「魔人族は、どうして日本語が分かるんですか?」

知らないので、国家公務員さんに聞いてみた。

「魔人族はテレパシー能力の応用で異なる言語でも理解し、話せる能力を生まれつき持っている事が多いのです」

「そうなんですか。とすると、三人は不便ですね」

自分は知らぬ間に日本語と宇宙共通語を使い分けてたなと、今更気付いた。

「私は魔法で理解だけならできます。ただし、流ちょうには話せません」

ロレンスさんが言った。そういう魔法もあるようだ。

残り二人は理解できる人と常に行動しようと決め、再び意気込んで叔父さんの家に向かおうとした。

そしたら、魔界の国家公務員さんは言った。

「如月晴臣さんのお宅ですよね。玄関を出て左の一軒家です」

「……」

僕は走り出し、見覚えがある玄関扉を開いて少し広い庭に出た。

左を見ると、木々の間に懐かしの我が家がある。

ここは、以前から空き家になっていたうちの隣のお屋敷だった。

だったら着がえたり気合い入れなくて良かったじゃんと思っていると、夕方の赤い空の下、叔父さんの運転する車が屋敷の前を通過していった。

僕はそれを追いかけ、隣まで走った。

顔が違うので取りあえず挨拶から入ろうとすると、駐車場で車から降りた叔父さんは、僕を見て目をぱちくりしてから言った。

「龍馬か? 帰ってくるのが早かったな。取りあえず中に入りなさい」

「?」

何故バレたのか分からないまま、それでも家に帰りたいので言われるままにお邪魔した。

おおよそ三ヶ月ぶりの応接間には、今の僕の姿の写真が飾ってあった。

「前に魔人族の国家公務員さんが来て、お前の前世はこんなだったと言って置いていったんだ。取りあえず龍馬の腹違いの兄ということにしてある」

「何故?」

「ついこないだ、龍馬が外国留学扱いで姿を消してしまった理由を説明してもらったオマケだった。今でも理解し切れていないんだがな」

「心配かけてごめんなさい。説明しに帰るような暇が全く無かったんです」

「まあいいさ。帰って来れると証明してもらえたから嬉しいよ」

叔父さんの優しい笑顔に、僕は涙ぐんでしまった。

しかし感傷に浸っている場合ではないので、叔父さんに母さんの形見をどこにやったか尋ねた。
まだ僕の部屋にあるというので、二階に上がっていった。

僕の部屋は前と少し様子が違い、私物が減っていた。
もう整理整頓されかかっていたのかもと切なくなった。

「ああ、龍馬の私物がないのは、絵美と姫が持ち出したからだ。龍馬の代わりにして、日々愛でている」

「……ええっと、母さんの宝石箱はどこでしたっけ?」

「タンスの一番奥にあるが、それも襲撃された」

まずいと思い、記憶通りではない場所にあった宝石箱を取り出し、蓋を開いて確認した。

大魔王様が仰るには直径一センチほどのビー玉みたいなものだというので探してみたのだが……無い。

「叔父さん。透明なビー玉みたいなもの、ありませんでしたか?」

「うーん、分からないな。後で絵美と姫に聞いておく。あと、あの二人が奪い合いで宝石箱を床にこぼした事もあるから、部屋のどこかに転がっているかもしれない」

「探しても良いですか」

「今はもう帰った方がいい。そろそろ二人が――」

「ただいま~。あれ、お客さん?」

姫の声が、玄関方面から聞こえてきた。
逃げるか留まるか考えた。
いちおう違う姿なので、挨拶だけして帰ろうと決めた。

色々とあるけれど、可愛い妹だから会いたいのは会いたい。
覚悟を決めて階段を降りていき、玄関にはもういないので……静かに靴を履こうとした。
背後から、息を飲む音が聞こえた。

振り向くと、姫がワナワナ震えていた。

「まさか、そんな。貴方は……私のお兄ちゃん!」

「それどういう意味のやつ!」

聞いてみたが空しく、はしゃぐ姫が僕の胴体をしっかり締め上げて離れなくなった。
続いて叔母さんまで帰宅し、新しいお母さんと思ってと言いながら抱きついてきたので、諦めた。

3・

念話でお隣に事情を説明し、僕はこのまま如月家で夕食を頂くことになった。
いつもの慣れた風景。僕は別世界に行ってなかったんじゃないかという感覚に囚われた。

そして龍馬としていつもいた席にノアの僕が案内され、恐縮しながらも席について、簡単に他人に席を引き渡された悲しみも味わった。

とても複雑ながら、懐かしい叔母さんの料理は身に染みた。

食事を終え、素早く帰ろうとしていると姫に捕まり、ボクの写真があるので見せると言って応接間に引きずって行った。

いつ帰れるだろうとため息を吐きながらも、テレビ台の上にある笑顔の自分の写真を改めて見た。
テレビがついており、今日のニュースを流している。

九月御堂市で、優秀な退魔官に協力を求めた魔物一掃作戦が二日後にあるので、一般市民の夜間外出を控えるように呼びかけている。

次のニュースは、新たな異次元への門が発見され、小型であったので直ちに封印作業を行ったというもの。

その次は、正体不明のテロリスト指定がされた魔人たちの顔写真が……。

「なにこれ」

思わず漏らした。
すると腕にくっついている姫が、得意げに教えてくれた。

「三ヶ月前にあった魔界からの魔人襲撃事件は知ってるでしょ? 事件が終わったあと、一度は平和になったんだけど、魔界に帰らなかった魔人たちや魔法を使えるようになった犯罪者たちが一気に増えちゃったのよ。まだ外国では被害が余りないって聞くけど、本当にそうなのね?」

「え……と、うん。知らなかった」

「今の日本に来るのは仕事があるか、魔法見たさの観光客だけだと思ってたけど、ノアお兄ちゃんはそうじゃないもんね。可愛い妹に会いに来てくれたのよね?」

「そうだよ。ところで姫は、危険な事に遭ったことはないのか? 普通に生活できてるのか?」

心配だから聞いてみた。
そしたら姫は嬉しそうにスカートのポケットから一枚のカードを取り出して、僕に見せてくれた。

「夏休みに勉強して、中級の灰色魔術師試験に合格したのよ。私、お兄ちゃんを護ってあげるね!」

「はい?」

三ヶ月前まで、魔法なんて眉唾ものだった世界なのに。
あの事件で、まさかここまで変化してしまうとは。

「お兄ちゃんは、いつまで日本にいられるの?」

「ええと、少し探し物があって、それを発見できるまでは帰れない……筈。姫は、龍馬の部屋にあった透明なビー玉を知らないかな?」

「知らないわ。筆記用具とカバンは持ってるけど」

「ああ……持っててあげるといいよ」

僕はそれも諦めた。

それから叔母さん同じようにビー玉を知っているか聞いてみたが、やはり知らないと返された。

ということは、部屋に転がっているのだろう。
また明日、来よう。

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