転生魔王と麒麟の勇者

海生まれのネコ

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三章 魔界の門と二人の妹

4 自分の決める道

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1・

しばらく笑ってストレス発散した後で、一人蚊帳の外にいたウィリアムさんの前まで歩いて行った。

「お帰りなさい。それで、どうなりました?」

「それは……まず、あれほどの大事件を引き起こしてしまい、謝罪申しあげます」

「はい、それはもう良く分かっています。わざとあんな状況にしたとは思っていませんので、許します。ですから、何故ああなったのか教えて下さいますか?」

「それは当然のことです」

今のウィリアムさんには目を離したら駄目な方向に進んでしまいそうな暗さがあるので、さっき離してしまった腕を掴み、テーブルの前まで連れて行った。

そしてお茶をいれようとしたらウィリアムさんが反対したものの、今日は私の当番だと言い張って説得した。

結局、ちょうど二杯分でお茶は無くなってしまった。

一杯分のお茶が入ったカップを手にし、さっき要らないと言ったけれどアルフリードさんに持って行った。

最後のですからどうぞ、と言って差し出すと、彼は黙ったまま物凄く何か考えているような顔をしていたものの、十秒経過したら根負けしたらしくて受け取ってくれた。

振り向いてテーブルの方を見ると、やはり三人が笑いを堪えていた。

ウィリアムさんは椅子に座ってお茶を飲み、少し落ち着いたようだった。
僕はその隣の椅子に座り、そういえばようやく対等に座れたと気付いて嬉しくなった。

ウィリアムさんも僕に対して何か言いたげではあったものの、それより重要な話を語り始めた。

問題はやはり、僕が麒麟というだけでなく、時空召喚士の息子というところにあった。
遠くの血縁ではなくて、本家本元の生まれ。

大魔王様はウィリアムさんと最初に話し合った時、なにがあろうと僕をこの地に押し留め、ミネットティオルには渡さないと言ったらしい。
それは彼らの最終的であり唯一の望みを包み隠さず伝えたものなのだが、言葉通りに捉えたウィリアムさんはどうしようもなく拒否するしかなかった。

それで一度は僕だけでも逃がそうとして、話を立ち聞きしていた王女様に協力までしてもらってこの部屋に来た。
けれども逃げることは叶わなかったので、二度目の話し合いに向かった。

そこで大魔王様は僕を魔界にいさせたいのは山々なのだけれど、僕の意思を無視しては出来ない。僕がミネットティオルに行くというなら、その意思は尊重する。
ただし、最終的に魔界に戻ると約束してくれたらだと言ったらしい。

「最終的にですか。それがミネットティオルで麒麟として任務を終えたらという意味なら、僕はもう死んでいるかもしれませんね」

麒麟たちの人生をよく知っているみんなは、頷いて同意してくれた。

「しかしそれでは、戻らないのと同じ事ですね。その前に……二百年ほど働いたのちに魔界に来ると約束するのはどうなんでしょうか」

麒麟の引っ越しなど知らないので、みんなに質問してみた。

今はウィリアムさんがいるからか、彼が答えてくれた。

「かなり昔の言い伝えにて、魔人の麒麟がミネットティオルにおり、しばらく活動したのち魔界の森に戻ったとあります。不可能ではありませんが、この魔界は根本的に危険です」

「ええまあ……」

そりゃそう言うよなと思った。

「だけど、僕は大魔王様に命を救われました。ミネットティオルに行けたのだって、更なる僕の身の危険を知り、麗しの君から護るために手放した故だと思います。実質的に二度、命を助けられているんです」

ウィリアムさんは本当に暗い目つきをした。今すぐ、僕がここに残ると言うと思っているのか。

でも封印の問題もあるし、父のことを聞いたらまた何かしなくてはいけないかもしれないし。

まだ、自分の未来をハッキリとは決められない。

「大魔王様に会い、僕が話をします。ウィリアムさん、知らせて来てくださいますか」

「はい。大魔王様は、貴方様と話をしたがっております」

そういう事なら、すぐに行っても良いだろう。

みんなで廊下に出ると、アルフリードさんもついてきた。見張りというよりは、彼の話からすると護衛の方が正しいのかもしれない。

彼を麒麟の護り人に引き入れるのも悪くない。そしたら問題解決だ。

そんな事を考えながら大魔王のお城の長い廊下を歩いていると、前を歩くウィリアムさんが、やはり精神的にとても消耗しているように感じた。

「ウィリアムさん」

呼びかけると、彼は立ち止まり振り向いた。
麒麟の力が精神的にも効果があるかまだ知らないものの、疲れを癒すだけでも楽になるだろうから、治癒の力を使用してみた。

顔色が良くなったので、もう大丈夫だろう。

「一人で何でも抱え込まないで下さい。僕は、ただ護られるだけの麒麟ではありません。けれど……それが貴方の気苦労になっているのでしょうが」

「そんな事はありません。私が勝手に行動した結果がこれです。貴方様が悪い訳ではありません」

「ウィリアムさん、それなんですが……貴方は私のカリスマ能力に絡め取られ、無理をしてしまったのではありませんか?」

僕がそう言うと、彼はすぐ何か答えようとして止め、口を閉じて視線を逸らし、考え込んだ。

「……そうではないと思います。冷静に判断してみても、影響力はさほど感じられません」

「……分かりました。では、行きましょうか」

僕はそれ以上追求せず、先に決めるべきことのある方に集中することにした。

2・

大魔王様は、先ほどとは違う部屋に一人でおられた。
落ち着いた赤茶の絨毯の、図書室だろう部屋だ。

僕は一人でその部屋に入り、彼に歩み寄り寸前で立ち止まった。
そして胸に右手を当て、深々と頭を下げた。

「この度は我が部下が許されざるご無礼を働き、誠に申し訳ありません。不徳の致すところです」

「ノア君。これはお互いの理解不足から発生してしまった事故のようなものだ。君がそのように謝罪すべきものではない」

「いいえ、魔界の大魔王様ともあろうお方に武器を向けるなど、あってはならない事態です。私はミネットティオルの麒麟として、かの者の上に立つものです。どうか、それ相応の償いをお受け取り下さい」

「……そうか。君は麒麟として生きるのか」

大魔王様は、残念そうな声で言った。

「ならば、そうしなさい。だが、償いは必要ない」

僕はここで頭を上げ、大魔王様の目を見た。とても優しく美しい青い目だ。

「寛大なお許し、感謝いたします。ただ、私は貴方様に二度、命を助けられた身です。どうか恩返しをさせて下さい」

「恩返し?」

「はい。私に一つ、何でもご命令下さい。命ある限り、私はそれを守ります」

先に僕は麒麟として生きると言った。それを理解してくれた大魔王様は、僕にその意思を覆す命令はしないだろう。
事実、彼は命じたいことと僕の選択肢の板挟みになったようで、悩ましい表情をした。

苦しませたい訳じゃないけれど、僕には色々と有り過ぎて、これしか方法が思い浮かばない。

今以上に不利な時に恩返しをしなくてはいけなくなって恨んでしまうよりも、今、素直な気持ちで恩返しをしておきたい。

それが一生を縛るものになっても、分岐点に立つ今ならあまり無理なく受け入れられそうだし。

しばらくの沈黙ののち、大魔王様の傍に一人の魔人が瞬間移動で出現した。

「セシリアを呼んでくれ。それから、廊下におられる方々を共に中へ」

命令により、魔人は頷いてすぐまた姿を消した。

この流れはもしかしてと思いながら、黙って待った。

またしばらく経過し、ノックの音と共に扉が開いた。

「失礼します」

先ほど、僕を逃がそうとしてくれたあの子がやって来て、その後ろから麒麟の護り人たちもついてきた。

「お父様……何か、御用でしょうか」

「ああ」

大魔王様は、彼女から僕に視線を向けた。

「ノア君。君にはこの私の娘と、友人になってもらいたい」

「……あ、はい」

思ってたのと違った。

「私の次女セシリアは、好奇心旺盛で勝手にあちこち旅をしてしまう困った子だ。危険だと言っても聞きはしない。なのでしばらく、一緒に旅をさせてもらえはしないだろうか。そうすれば大人しくなると……思う」

最後の確信のなさそうな言葉に、友人といっても一筋縄ではいかないようだと気付いた。

「ミネットティオルに戻るだけでも構いませんか?」

「構わない。ただ、君は封印の問題をどうするつもりだ。そのまま帰る訳ではないだろう?」

「はい。解きたいと思っています」

「ならば質問するが、君の父からの形見などで、小さなガラス球を見たことは無いだろうか。それが封印の鍵の筈なのだが」

「形見は……母の宝石がいくらか、叔父さんの家の私の部屋に置いてあります」

「鍵が無ければ、少々手荒い方法でしか解くことができない。それを探しに向こうに戻る方がいいと思う」

「……戻れるんですか? 確か、門は閉じられたのでは?」

「向こうの政府に感知された大型の門などは消したが、いくつかは連絡用に残してある。その一つを使うといい」

「あ、ありがとうございます!」

二度と帰れると思わなかった故郷! それがすぐ帰れる事になるなんて!

僕は舞い上がり、帰ったら何しようとワクワクした。

しかし、今後のスケジュールについて大魔王様がウィリアムさんと話しをしているのを見ていて、一つ思いついて冷静に戻った。

二人の話が途切れたところで、口を挟んでみた。

「大魔王様、一つ頼み事があるのですが」

「向こうでの身分は、留学扱いになっているよ」

「はい。では、麗しの君も同じ扱いになっているのですよね? 彼も一緒に、連れ戻っても構いませんか」

「彼は……向こうの政府と、二度と帰還させないと約束した。が、別に構わない」

え、と思った。

「家族に面会するぐらいならば、構わない。向こうにばれなければ良いだけだ」

「……はいでは、後で誘いに行ってみます。彼はもう魔界に帰還していますか?」

「数日前に戻ったと聞いた。面会の許可を取ってあげよう」

「何から何まで世話になり、申し訳ありません」

「悪く思うな」

大魔王様は笑顔で僕の肩をポンポンと叩いた。それから、セシリア王女に視線を向けた。

「セシリア、彼を兄と思い、言うことを良く聞きなさい。そして封印を解く手助けをしなさい」

「はい、分かりました。私にお任せ下さい」

ニコニコと笑うセシリア王女は大魔王様に似て、愛想が良くて美人で上品で儚げに見えるが、どこか芯の強さも感じさせる。

そして、ただ者ではない予感がする。早まったかもしれない。

約束したししょうがないと思っていると、大魔王様が話しかけてきた。

「ノア君」

「あ、はい。何でしょうか」

「君のカリスマ能力は、強い魔力の持ち主には効果がない。そして本当の君を良く知った者にも、効果は出なくなる。親しい者からの君の評価は、能力に関係せず得られたものだ。己に自信を持ちなさい」

僕の心の底の不安を、どうやって知ったのだろう。一番気にしていたことを、こうも的確に捉えてくれるとは……。

「そうします。自信を持ちます」

小声で答えると、大魔王様はにっこり笑って軽く抱きしめてくれた。
どれだけ長寿か分からない彼にとり、僕は本当に小さな子供なんだろう。

こんな良い人を、恐がる必要なんてないと安心した。
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