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番外☆オルドラン編
7>> 驚愕
──僕は侯爵夫人の子供じゃないの?──
オルドランはそれをオデットに聞くことができなかった。
『えぇ、そうですよ』
そう言われたらどうしたらいいのか分からなかったからだ。
『じゃあ誰の子なの?』
『道に捨てられてたんですよ。きっとどこぞの平民が捨てたんでしょうね』
そんな言葉が返ってきたらオルドランの心臓は止まってしまうような気がして怖かった。
突然自分の居場所が無くなった気がした。
ビャクロー侯爵家の跡取りとして生きてきたのにその全てが嘘で、本当なら下民の子供だったかもしれないという想像がオルドランのプライドを凍らせる。知りたいのに知りたくない。聞きたいのに聞きたくなくてオルドランは口を閉ざした。
オデットもその話には触れないようにしているようだった。きっとオルドランが問えばオデットは教えてくれるだろう。それが分かってはいても……オルドランは『母』のことを、『カリーナが言った言葉の意味』を聞くことはできなかった。
しかしそんなオルドランの心の葛藤など全く気にかけようともしない父ランドルが事も無げに言った。
「ん、なんだ? オデットから聞いていなかったのか?
オルドランはオデットの子だと。
別に隠すことでもないぞ? 国にはちゃんとオルドランは養子だと届けているからな。皆オルドランがカリーナの子じゃないと知っている。
何も恥じることはないぞ。貴族の家には男児は絶対に必要だからな。産める者に産ませたまでのこと。
ははっ! なんだ? そんなことを気にしていたのか? 母と引き離しては可哀想だと乳母として側に置いてやっていたのに、私の気遣いが伝っていなかったとは悲しいな!
まぁそういうことだ。だからカリーナはオルドランの母じゃない。アレは男児が産めず苛立っているからなぁ。近付かない方がいいぞ。癇癪持ちの女は怖いからなぁ!
オルドランは気にせずオデットとの時間を楽しめ。後数年もすれば流石に一緒に居させる訳にはいかんからな」
ハハハッ! とランドルは笑う。その軽さから本心からランドルはこの話題を大したことのない軽い話だと思っていることが伝わる。そのことにまたオルドランは衝撃を受けた。
オルドランはこんなにも傷付いているのに……っ!?
オデットを見ると、オデットの顔も驚きに染まっていた。
乳母が母?
オデットが……かぁさま……?
オルドランは直ぐには理解することができなかった。
◇
オデットと二人、呆然としたまま部屋に戻って来てもオルドランの頭の中はただただ混乱していた。
いきなり乳母を母だと言われても直ぐには受け入れられる訳がなかった。
ずっと側にいた。
ずっと使用人だと思っていた。
そんな相手が今更『母』と……?
そんなことをグルグル考えていたオルドランは不意に昔のことを思い出した。
オデットのことを『母』だと思っていた一番最初の記憶を…………
「……オデットが僕を産んだの?」
気付けばそう口にしていた。
見上げたオデットの顔は泣きそうに歪み……そしてその目はつらそうに閉じられた。
オデットの震える唇が開く。
それと同時に開けられた瞼の下からは涙が流れていた。
「はい…………はい……
坊ちゃまは、わたくしが産みました……」
ただその言葉だけで……オルドランは涙を流していた。
そして体は勝手に動いていた。
「…………っ、おかあさま…………!」
泣きながら自分にしがみつくオルドランをオデットは抱き締める。今まで何度も何度も繰り返してきた行為だった。
だけど何故か……その抱擁は初めてのように二人の心を温かく、何よりも深く愛おしく互いを包み込んだ。
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