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番外☆オルドラン編
8>> 得たいもの
オデットは乳母として雇われている。
だからそんな自分が、自分の口からオルドランに説明するのは立場的にも駄目なのだとオデットは思っていたと言う。伝えるにしてもオルドランがもっと成長して、物事を深く知れるようになってからの方が混乱も減って良いだろうとオデットは思っていたのだ。
そのことでこんなにもオルドランを不安にさせるなんて想像もできなかったとオデットはオルドランに謝罪した。
こんなことならもっと早くに教えておけば良かったとも……
落ち込むオデットにオルドランはオデットが気にすることじゃないと伝えた。本来ならランドルから聞いているべきことだったとオルドランは思った。オルドランが養子で、カリーナが母親じゃないのなら、父であり当主でもあるランドルがもっと物心付く頃に教えてくれていれば良かったのだ。それは乳母の役目じゃないとオルドランは憤った。
そしてそんなことよりオルドランの気持ちを支配する感情があった。
母だ。
母親が今自分の隣に居るのだ。
ずっとずっと抱き締めて欲しいと願っていた『母親』が今オルドランの手の届く場所に居るのだ。
そのことがオルドランをソワソワさせた。
その母親が今までずっと側にいたオデットだというのに。何故か心は緊張した。
オデットは何も変わらないのに。
オデットには何度も何度も抱き締めてもらっているのに。
その温もりを知っているのに。
この人が自分の母なのだと思ったら、それだけで、オルドランの心は震えて緊張した。
「お、お母様……」
緊張で視線を彷徨わせながら震える声でそう声を掛けたオルドランに……
オデットは苦しそうな目をして顔を伏せた。
「坊ちゃま……」
その呼び方にオルドランの心は傷付く。
「お、オデットは僕のお母様なんだよね……? だ、だったら僕のことも」
「いけません」
言葉を硬い声で遮られてオルドランは泣きたくなった。
「いけません、坊ちゃま」
その強い拒絶にオルドランの心は凍る。
「な、なんで……?」
震える声でそう問えばオデットの体も小さく震えていた。
「……わたくしが乳母だからです。
乳母如きが侯爵家の後継者であるお方のお名前を敬称もなく呼ぶなど許されないことです……」
「そんなぁ!?」
「申し訳ありません、坊ちゃま……」
弱々しくそう言ったオデットは名前を呼べない代わりかのようにオルドランを抱き締めた。
温かい体。心が落ち着ける嗅ぎ慣れた匂い……
それなのに満たされない心にオルドランは泣いた。心は母様母様と呼ぶのにその母からは決して名前を呼ばれない。他人行儀な呼び方にオルドランはオデットとの近付けない距離を感じてただただ寂しくなった。
そうして……ふとオルドランは思い付く。
「……なら……
オデットが呼べる名前を僕に付けて?」
「え?」
良いことを思い付いたとオルドランの口元には笑みが浮かぶ。抱き着いていたオデットの体からガバッと自分の体を離してオルドランは少しだけ頬を上気させてオデットを見上げた。
「坊ちゃまじゃなくて……っ、僕に、……オデットだけの名前を付けて! そしたら呼べるよね? 侯爵家の跡取りじゃない名前!
母様と僕だけの名前!」
泣きそうな顔で笑って自分を見上げるオルドランにオデットは息を呑む。
そこに居たのはただ純粋に母の愛を求めることに必死な子供だった。
坊ちゃまなんて他人みたいに呼ばないで。
オルドラン様なんて使用人としての距離を置かないで。
──息子として僕を見て……っ!!──
オルドランの期待する瞳に、オデットの中で乳母としての立場で蓋をしていた母として心が揺れ動いた。
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