生まれた時から「お前が悪い」と家族から虐待されていた少女は聖女でした。【強火ざまぁ】

ラララキヲ

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番外☆オルドラン編

12>> 治療院 

           
        
       
       
       
        
 オルドランは治療院に居た。
 痛い場所の後遺症が残らないようにしてくれたのだと教えられた。説明されたことはなんとなくしか分からなかった。
 子供を作ることができなくなった、と言われたけれど、恋愛もしたことのないオルドランにはそれがどれほどの意味があるのかいまいち分からなかったから、どうでもよかった。

 そんなことよりも、周りに他の人が居るのにオデットが側にいて、そしてそのオデットを自分が母と呼んでもいいことにオルドランの心は震えた。

「母様」
「なぁに?」
「かあさま~」
「どうしたんですか?」
「あ! ほらまた!」
「あ、……ふふ、慣れないわね。もう貴族でも、貴方の乳母でもないのにね」
「ね!」

 二人だけの病室で、オルドランは母と何気ない会話を心の底から楽しんでいた。
 もう貴族ではない。オデットは乳母ではない。
 オルドランもオデットも、今はもうただの『平民の母子おやこ』になっていた。
 侯爵家は? 父は? 家族は? 使用人たちは? 気にならない訳ではなかったが、それらはオルドランにとってはどこか1枚壁を挟んだような関係で、ただ同じ屋根の下に居た同居人のような感覚だったし、何より皆が『自分と母の関係を邪魔をするかもしれない警戒すべき対象』だったこともあり、オルドランには今の『母との自由な時間』を壊してまで気にしたいと思えることではなかった。
 もう母との時間を誰にも邪魔されない。
 もう母を慕っても誰にも叱られない。
 もう誰の目も気にせずにオデットを母と呼べる……!
 そのことがオルドランにとってはとても重要なことだった。
 ……ランドルは、オデットに悲しい顔をさせるから……オルドランはいつの間にか父への信頼を無くしていたのかもしれない。オルドランは自分が全然父のことを心配していないことに少しだけ不思議に思った。だけど、だからといってそれ以上に何かを思うこともなかった。

 オデットの両親だと言う人に会った。
 二人の顔を見て、そういえば朦朧もうろうとした意識の中で一度見ているなと思い出したオルドランは、その時の二人の優しげな眼差しと今自分に向けられている愛おしげな瞳に、二人へ警戒心を抱くことはなかった。
 身分が違うから祖父祖母と呼べないけれど、今だけは……ということで治療院にいる間だけはオルドランはオデットの両親をおじい様おばあ様と呼ぶことができた。ビャクロー侯爵家ではオルドランが覚えている中で祖父母に会ったこともなかったので──ビャクロー家の祖父母が下位貴族の愛人に生ませた男児をいくら後継ぎとして必要だからと言っても受け付けなかったからだ──オルドランにとっては初めてできた祖父母だった。

 優しい母に抱かれながら祖父と祖母に母の子供の時の話を聞く。知らなかった母の思い出と母の家族の記憶をただ純粋にオルドランは楽しんだ。
 もう侯爵家の跡取りとしての義務は無い。怖い家庭教師も居ない。マナーを叱る家令も居ない。自分を嫌っている母や姉家族も居ない…………

 治療院に居た時間はとても短かったけれど、オルドランにとってはビャクロー侯爵家に居た時の記憶をかすめさせるくらい満たされた時間となった。

 そして、オルドランはオデットと二人で平民として生きるべく、見知らぬ土地へと送られて行った。
      
       
       
       
     
            
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