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番外☆オルドラン編
16>> 新たな関係
ワッツは真正面からアルの目を見て言った。
「一緒の家に住んだら家族だろ。
そしたら年下のお前は俺の弟になるじゃねーか」
何を当然のことをと言わんばかりに答えたワッツにアルは混乱と、そして少しの恥ずかしさを感じてムズカシさを覚えた。
家族。弟……、そんな風に考えたこともなかったからだ。
そんなワッツとアルのやり取りを後ろで見ていたガゼルが苦笑いを零してアルの前に来た。
「そうだぜ。お前があんまり甘えただと俺たちが恥かくんだからやめろよな。
今まで色々あってお前も大変なの分かるけど、オデットさんだけがお前の全てじゃないだろ? 不安があるなら俺たちにも頼れよ」
「つか母ちゃん離れした方がいいぜ?! 今のまんまじゃ他の奴らにもお前のこと紹介しずらいんだよ! オデットさん連れて皆んとこ行く訳にもいかないしな」
「みんな?」
アルはワッツとガゼルから出てくる言葉に驚かされるばかりだった。目をパチパチさせて聞き返すアルにワッツが逆に不思議そうに見返す。
「ダチだよ友達。村の奴ら」
「いつ会わせてくれるんだってすげぇ言われるんだぜ? 皆お前が気になって仕方ないんだよ」
「やべぇ奴じゃないとは言ってるんだけどな~」
「顔が貴族だからな~」
ワッツとガゼルのやり取りにアルの頭はついて行くのがやっとだった。『顔が貴族……』出てくる言葉のどれもに驚かされてアルは何とも言えない表情になっていた。
ただそのやり取りに出てきた言葉のどれにも悪意を感じることはなくてなんだか変な感じがする。
「僕は……」
「「ん?」」
何かを言わなければと口を開いて溢れたアルの声にワッツとガゼルが耳を傾ける。自分を見る二人の目には穏やかな感情しかない様だった。拒絶の感情など微塵も滲まないその二つの視線にアルの中の何かが緩む気がした。オデットしか居なかった場所に、違う空気が流れてくる様な……そんな変化……
「僕は……もう、貴族じゃない……」
アルの口から溢れた言葉はアルの意識外のものだった。言った後で、あっ、と思った。不満にしか聞こえないその言葉をワッツとガゼルがどう思うか。瞬時に焦ったアルの肩にワッツの手が置かれた。
「貴族とは言ってねーよ」
そのワッツの言葉にガゼルが続ける。
「“顔”が、って言っただろ? アルは顔が、貴族なんだよ」
ウンウンと頷きながらそう言ったガゼルにアルは困った顔を向けた。
「それって……どういう意味だよ……」
答えたのはワッツだった。
「意味も何もそのまんまだよ。顔“が”貴族なんだよなぁアルは」
「仕草も結構“貴族”だよね」
「そうそう、動きも“貴族”」
二人の言葉にアルは当惑して肩を落とした。そして溜め息と共に言葉を吐いた。
「そんなの……どうしたらいいんだよ……」
仕草など今まで培ってきたものだ。むしろ家庭教師から厳しく教え込まれたものだった。それを指摘されても今直ぐどうにかできるものではない。それにアルは『平民の仕草』など知らない。どうすればいいんだよと、思ったことがそのまま顔に出ていたのかアルを見ていたワッツとガゼルが面白そうに笑ってみせた。
「だから俺たちがいるんだろ」
「任せろ、兄弟。お前の母さんが知らないこと、いっぱい教えてやるからさ!」
そう言ってワッツとガゼルは左右からアルの肩に腕を回して並んだ。
え?、っと思っていたアルは二人に流されるままに並んで歩いた。初めて肩に感じる年齢が変わらない他者の体温にアルは戸惑う。そしてアルを挟んで交わされる楽しそうな会話にも不思議な感じがした。
ワッツとガゼルの会話は一方的でアルは話を聞き取るのがやっとだ。まだ言われた言葉をちゃんと理解できていない。弟。兄弟。戸惑うだけのその言葉に、でも全然嫌な気持ちにはならなくて。それどころかどこか気恥ずかしくなるそれらにアルの心は戸惑う。
「折角ここまで来たんだから孤児院に挨拶しとこうぜ」
「そうだね。教会にも寄っとこう」
アルの意見を聞かずに連れ回される行為に全く嫌だと感じないことがまたアルを戸惑わせた。
そのことがまた不思議だと思うのに全く二人に抵抗しようとも思わなくて、アルはワッツとガゼル兄弟のされるがままに孤児院へと行き、そこで新しい出会いもした。
驚きと新鮮さばかりのその時間を、アルはやはり一度も嫌だとは思わなかった。それどころか体の奥から温かくなるような、ソワソワとするような……次を期待するような『楽しさ』を感じていた。
アルは自分の口角が少し上がっていることにも気付かずに、ただ戸惑いのままに流された。
そして後から気付く。
その日、家に帰るまでオデットのことが頭から抜け落ちていた事に。そんなことはこの村に来てから初めて……いや、ここ数年で初めてのことだった。
「アル、おかえりなさい。
外は楽しかった?」
家に帰ってきたアルにオデットが声を掛ける。
その温かな表情と“帰宅の挨拶の言葉”と“帰ってきたと思う安心感”にアルはとても新鮮さを感じて、そして初めて、自分が『一歩外に出たんだ』と思った。
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