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しおりを挟む妹の為に建てられていたお城のような別邸は、母が趣味で建てたことになっていました。
そして母はそのお城の中に閉じ籠もって出て来ない『変わり者の侯爵夫人』として社交界では有名となっていました。
妹がいた時から、母から離れることを嫌がった妹の為に、母はあまり社交をしていなかったのも影響しているのでしょう。
妹が居た時は、母に構われなくて可哀想だと嫌味を言われていたわたくしでしたが、『妹という存在自体が無くなってしまった』今では、おかしな母親を持ってしまって可哀想だと逆に心配される立場となっていました。
そして、『元々おかしかった母親』と、『最近おかしくなってしまった父親』を持つわたくしを『他の大人たち』は心配して声を掛けてくれるようになりました。
父は侯爵家当主というプライドだけで仕事を熟していましたが、生気の戻らない顔では周りは直ぐに異変に気付きます。そしてそんな父が、『急いで一人娘に家督を譲るべく動いている』ともなると、周りの心配は当然でした。
わたくしは妹が居た時にはあまり関わることのなかった親族たちの手を借りて、急いで侯爵家当主としての心得や仕事の仕方を覚えていきました。
その流れの中で自然とわたくしの婚約者も決まりました。
遠縁の子爵家の三男。年が一つ上の笑顔が素敵な逞しい男性でした。
「俺、あ、いや……、私なんぞがベアトリーチェ様の伴侶に選ばれるなんて未だに実感がありませんが、選ばれたからには私の全てを掛けて貴女様を支え、守ることを誓いましょう!
どうぞこれから、宜しくお願いします!!」
声の大きさに驚き、そしてそんな彼の後ろでまだ婚約が決まっただけだというのに大泣きして手を叩いて喜んでいる彼の母親を見て、わたくしはなんだか心が温かくなるのが分かりました。
「こちらこそ……よろしくお願いします」
そう言って手を差し出したわたくしの手を取った彼の手の大きさと温かさに、またわたくしは心がふわふわとする不思議な感覚を感じるのでした。
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