8 / 34
8>>浮気女は現実を知る
しおりを挟む
-
コザックと想いが通じ合った時、リルナは本当に幸せだった。
平民の自分が侯爵家の令息、それも嫡男に愛される。こんな夢物語みたいな幸せがあっていいのかと思った。
平民の女子なら1度は夢に見るだろう。貴族の王子様が自分を見初めて連れ去ってくれる事を。遠くから見る事しか許されないドレスや宝石、それに華やかな夜会にダンス。貴族の世界に憧れない平民などいない。毎日美味しいものをお腹いっぱいに食べて、更に美味しくて甘いお菓子に囲まれる。自分では何もしなくていい。それらが勝手に目の前に運ばれてきて自分は人に指示するだけ。綺麗なお風呂に毎日入って身体をメイドに洗ってもらって髪を丹念に梳いてもらう。華やかに香る香油をふんだんに使って髪を整え、美しく化粧をしてもらう。そしてそんな自分を恭しくエスコートしてくれるのはお金に困ることの無い貴族の王子様……。
それが手に入ったのだと思ったのに…………
自分を選んでくれた王子様に捨てられた婚約者の貴族令嬢を心の中で馬鹿にして笑った罰が下ったのかもしれない……。
リルナは今、鉄格子の無い牢屋に閉じ込められている。
平民にとっては高級なベッドがあったナシュド侯爵家の別邸から連れ出され、連れて来られた場所は平民が住むには広いが貴族が住むには廃れた、屋敷とは言えないような家だった。やけに高く目につく塀が気になったが、ここで3年間我慢すれば侯爵家当主の夫人になれるのだと言われれば舞い上がった。
平民の自分が侯爵家当主夫人!
貴族ですら無かった自分が下位貴族から傅かれる存在となる。そんな夢みたいな事が現実となる!その為なら3年間なんて我慢できるに決まっている。たった3年我慢するだけで夢に見たお姫様になれるのだ!リルナは素晴らしい未来に胸躍らせた。
しかし現実がそんなに甘い訳がない。
リルナは直ぐに始まった“侯爵夫人となる為の教育”に全くついていけなかった。
それもそうだ。平民用の学校に通ったといってもそれは所詮読み書き計算一般常識を教える場所だった。貴族が必要とする知識やマナーや常識などをリルナは20歳になって初めて覚える事になったのだ。基礎すらない脳味噌に膨大な知識を詰め込むことなど無理以外のなにものでもなかった。しかしそれを言ってもリルナにあてがわれた教育係はリルナを冷たい目で見るだけで指導を優しくする事などなかった。
教育係はリルナに言った。
「貴女が望んだ事です」
「侯爵夫人となるのなら覚えなさい」
「貴族になるのなら常識です」
「侯爵家に恥をかかせる気ですか」
「貴女が選んだ選択です」
「貴女が」「貴女が」「貴女が」
リルナがどれだけ「違う!」「コザックが!」と反論したところで教育係たちの目が冷ややかになるだけだった。
メイドに助けを求めても同じだった。
「貴女が望んだ事です」
「貴女の為に時間もお金も掛けられているのですよ。何故喜ばないのですか?」
「貴女の為ですから」
「みんなが貴女の為に手を貸しているのですよ。平民の貴女の為に」
口元に笑みを浮かべながらリルナと会話するメイドはまさに貴族の令嬢だった。
そこで初めてリルナは“侯爵家のメイドが平民な訳が無い”という事に気付いたのだった。特にこんな場面を任せられる『口の堅いメイド』が平民な訳がなかった。
メイドだと下に見ていた目の前の女性が自分よりも身分が高かった事に気付いてリルナは絶望した。この人たちじゃ自分の味方にはならない!でもこの家には他に人が居ない!
門番や護衛の男の人に助けを求めたくて目を向けたところでその人たちは一切リルナと目を合わせようとはしなかった。それどころかリルナが庭に出ると姿を隠し、離れた所からジッとリルナの動きを観察していて怖かった。きっとリルナが近づいたら怒るのだろう。
リルナが娼婦であったならまた違ったかもしれないが、リルナは商家の手伝いをしていただけの娘だった。コザックが好きだからその身体に触れただけで、同じ事を誰にでも出来るような器用さなどリルナにはなかった。だがきっと、リルナが娼婦の様に門番に媚を売っても侯爵家に雇われている門番や護衛たちがリルナに手を出し心を許す事は無かっただろう。
下半身で物事を考える男は意外と少ないのだ。
3年間。
ただ3年間我慢すればいいと思っていたその3年間がリルナにとっては地獄なのだと、リルナはやっと気付いた。
当然リルナはコザックに助けを求めた。もうここから自分を助け出せるのはコザックしか居なかった。
しかし当のコザックはリルナの実状を理解しようとはしなかった。
リルナが何度「無理」だと言っても「たったの3年だから頑張って」と耳も貸さない。それどころか直ぐに身体に手を出してくる。
リルナはコザックと話をしたかったがコザックは会えない間に溜まった欲を発散したがった。リルナがどれだけ疲れていると心がツラいと言ってもコザックは「なら慰めてあげる」「癒やしてあげる」と言ってリルナを抱いた。リルナが泣いても勝手に『喜びの涙』だと勘違いしてコザックは喜んだ。
そんな事をされ続けてリルナの心がコザックから離れない訳がなかった。
一年も待たずにリルナの愛は死んだ。
だが「もうコザックを愛していない」と言ったところで誰もそれに耳を貸さない。最初から期限は3年間と決められている。今更リルナが騒いだところでその期限が無くなる事も短くなる事もない。
きっちり3年間、リルナはこの隠れ家に閉じ込められる。
それがリルナのした事の結果だった。
-
コザックと想いが通じ合った時、リルナは本当に幸せだった。
平民の自分が侯爵家の令息、それも嫡男に愛される。こんな夢物語みたいな幸せがあっていいのかと思った。
平民の女子なら1度は夢に見るだろう。貴族の王子様が自分を見初めて連れ去ってくれる事を。遠くから見る事しか許されないドレスや宝石、それに華やかな夜会にダンス。貴族の世界に憧れない平民などいない。毎日美味しいものをお腹いっぱいに食べて、更に美味しくて甘いお菓子に囲まれる。自分では何もしなくていい。それらが勝手に目の前に運ばれてきて自分は人に指示するだけ。綺麗なお風呂に毎日入って身体をメイドに洗ってもらって髪を丹念に梳いてもらう。華やかに香る香油をふんだんに使って髪を整え、美しく化粧をしてもらう。そしてそんな自分を恭しくエスコートしてくれるのはお金に困ることの無い貴族の王子様……。
それが手に入ったのだと思ったのに…………
自分を選んでくれた王子様に捨てられた婚約者の貴族令嬢を心の中で馬鹿にして笑った罰が下ったのかもしれない……。
リルナは今、鉄格子の無い牢屋に閉じ込められている。
平民にとっては高級なベッドがあったナシュド侯爵家の別邸から連れ出され、連れて来られた場所は平民が住むには広いが貴族が住むには廃れた、屋敷とは言えないような家だった。やけに高く目につく塀が気になったが、ここで3年間我慢すれば侯爵家当主の夫人になれるのだと言われれば舞い上がった。
平民の自分が侯爵家当主夫人!
貴族ですら無かった自分が下位貴族から傅かれる存在となる。そんな夢みたいな事が現実となる!その為なら3年間なんて我慢できるに決まっている。たった3年我慢するだけで夢に見たお姫様になれるのだ!リルナは素晴らしい未来に胸躍らせた。
しかし現実がそんなに甘い訳がない。
リルナは直ぐに始まった“侯爵夫人となる為の教育”に全くついていけなかった。
それもそうだ。平民用の学校に通ったといってもそれは所詮読み書き計算一般常識を教える場所だった。貴族が必要とする知識やマナーや常識などをリルナは20歳になって初めて覚える事になったのだ。基礎すらない脳味噌に膨大な知識を詰め込むことなど無理以外のなにものでもなかった。しかしそれを言ってもリルナにあてがわれた教育係はリルナを冷たい目で見るだけで指導を優しくする事などなかった。
教育係はリルナに言った。
「貴女が望んだ事です」
「侯爵夫人となるのなら覚えなさい」
「貴族になるのなら常識です」
「侯爵家に恥をかかせる気ですか」
「貴女が選んだ選択です」
「貴女が」「貴女が」「貴女が」
リルナがどれだけ「違う!」「コザックが!」と反論したところで教育係たちの目が冷ややかになるだけだった。
メイドに助けを求めても同じだった。
「貴女が望んだ事です」
「貴女の為に時間もお金も掛けられているのですよ。何故喜ばないのですか?」
「貴女の為ですから」
「みんなが貴女の為に手を貸しているのですよ。平民の貴女の為に」
口元に笑みを浮かべながらリルナと会話するメイドはまさに貴族の令嬢だった。
そこで初めてリルナは“侯爵家のメイドが平民な訳が無い”という事に気付いたのだった。特にこんな場面を任せられる『口の堅いメイド』が平民な訳がなかった。
メイドだと下に見ていた目の前の女性が自分よりも身分が高かった事に気付いてリルナは絶望した。この人たちじゃ自分の味方にはならない!でもこの家には他に人が居ない!
門番や護衛の男の人に助けを求めたくて目を向けたところでその人たちは一切リルナと目を合わせようとはしなかった。それどころかリルナが庭に出ると姿を隠し、離れた所からジッとリルナの動きを観察していて怖かった。きっとリルナが近づいたら怒るのだろう。
リルナが娼婦であったならまた違ったかもしれないが、リルナは商家の手伝いをしていただけの娘だった。コザックが好きだからその身体に触れただけで、同じ事を誰にでも出来るような器用さなどリルナにはなかった。だがきっと、リルナが娼婦の様に門番に媚を売っても侯爵家に雇われている門番や護衛たちがリルナに手を出し心を許す事は無かっただろう。
下半身で物事を考える男は意外と少ないのだ。
3年間。
ただ3年間我慢すればいいと思っていたその3年間がリルナにとっては地獄なのだと、リルナはやっと気付いた。
当然リルナはコザックに助けを求めた。もうここから自分を助け出せるのはコザックしか居なかった。
しかし当のコザックはリルナの実状を理解しようとはしなかった。
リルナが何度「無理」だと言っても「たったの3年だから頑張って」と耳も貸さない。それどころか直ぐに身体に手を出してくる。
リルナはコザックと話をしたかったがコザックは会えない間に溜まった欲を発散したがった。リルナがどれだけ疲れていると心がツラいと言ってもコザックは「なら慰めてあげる」「癒やしてあげる」と言ってリルナを抱いた。リルナが泣いても勝手に『喜びの涙』だと勘違いしてコザックは喜んだ。
そんな事をされ続けてリルナの心がコザックから離れない訳がなかった。
一年も待たずにリルナの愛は死んだ。
だが「もうコザックを愛していない」と言ったところで誰もそれに耳を貸さない。最初から期限は3年間と決められている。今更リルナが騒いだところでその期限が無くなる事も短くなる事もない。
きっちり3年間、リルナはこの隠れ家に閉じ込められる。
それがリルナのした事の結果だった。
-
452
あなたにおすすめの小説
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした
三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。
書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。
ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。
屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』
ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく――
※他サイトにも掲載
※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
Kouei
恋愛
私リサーリア・ウォルトマンは、父の命令でグリフォンド伯爵令息であるモートンの妻になった。
政略結婚だったけれど、お互いに思い合い、幸せに暮らしていた。
しかし結婚して1年経っても子宝に恵まれなかった事で、義父母に愛妾を薦められた夫。
「承知致しました」
夫は二つ返事で承諾した。
私を裏切らないと言ったのに、こんな簡単に受け入れるなんて…!
貴方がそのつもりなら、私は喜んで消えて差し上げますわ。
私は切岸に立って、夕日を見ながら夫に別れを告げた―――…
※この作品は、他サイトにも投稿しています。
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる