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賢人マーリン・ネ・ベルゼ・マルアハ
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「そしたら、ねえ、ヨホ。ヨーロッパを渡り歩いていた時はどんなだったの?」
「そうですねぇ…。もうずいぶんと昔のことなので、あまりよく覚えてませんが…。」
そう言って話し出したマーリンさん。僕も壁越しにだけど、聴き耳を立てて聴いた。それは一人の女性が生き抜いてきた、人の世界の歴史にも聴こえ、かと思うとあり大抵な日常であったり、子を想う親の物語であったり、とにかくものすごい人生を生きてきたんだなって、そう思える話だ。けどマーリンさんの話し方がわりと先生だったりして、ちょっとだけ歴史の授業みたいに聞こえるところも多かった。
「いろいろと、ありました。けれどここ数年はやけにコノハトの地が懐かしくて。最初にはじめて落ち着いた暮らしのできた場所ですから。冬は特に寒い土地でした。けど、一緒に過ごした家族の顔をね、夢で見ちゃったんです。ですので、今回の里帰りでは最後にと思って、アイルランドまで足を延ばしてきたんです。」
「何が最後によ。ヨホは私にとって家族なんだから、夢に見るなら私にしなさい。」
レイミリアさんの声に、少しだけ怒ったような響きが混じる。壁越しで二人の顔が見えてないので、いまどんな状況なのかわからない。何に引っかかって怒りだしたんだ?
「あらあら、ごめんなさい。ちょっと余計なことまで話してしまったわね。」
「何言ってんのよ!ヨホは私の家族でしょ!それともそう思っているのは私だけなの!」
「いえいえ、私もレイミリアのことは、実の娘かその孫のように思ってます。」
「だったら昔話をしながら悲しそうな顔をするのはやめて!その頃に戻りたいって顔で、話すのはひどいわ。何が最後なんだか知らないけど、『最後に』とか言うのも嫌。なんだかこれっきりでヨホとお別れになっちゃうって、そう思っちゃうから、そんなの嫌だから、そうなっちゃ嫌だから…。」
おっきな声でそう言って、レイミリアさんは言葉を詰まらせていた。まだ何かを言っているみたいだけど、だんだんと声が小さくなって壁越しだとほとんど聞き取れない。
僕は壁から離れ、ベッドにもぐりこんで先のことを考えはじめた。そうしてしばらく時間が過ぎ、その間は船内にかすかなエンジンの音以外、ほとんど何も聞こえなかった。
「ミラクーロ様、聞こえていらっしゃいますか?できれば、ジョジロウも呼んで、こちらまで来てください。大事な話がございます。」
少しうとうとしかけたタイミングで、マーリンさんの声が聞こえた。僕はベッドを出て客室の扉を開ける。開いた扉の前に、広いソファーの背中が見える。ソファーのすぐ後ろまで部屋を出ると、向かいの席に横を向いてレイミリアさんがうずくまっていた。膝を抱えるようにして座るその背中がわにマーリンさんが座ってて、左手を伸ばしてレイミリアさんの背中をさすりながら、軽く会釈をする。
「ジョジロウさんですね。今、呼んできます。」
「もう来ました。うっかり忘れてました。あの子も少しばかり特殊なのを。」
マーリンさんがそう言うと、目の前のソファーにジョジロウさんが既に座っていた。僕は「どうやって?」と言葉が出そうになったけど、さっきまでの会話やその後の様子から、今は黙って席に着くことにした。そこにベントスがトテトテトテっと歩いて現れる。
「お揃いですね。」
マーリンさんがそう言うと、ジョジロウさんが「はっ!」と小さく答えるのが聞こえた。
「今ようやく、この子が納得をしてくれました。ですので、皆さんにこの旅の本当の目的地と、そこでするべきことをご説明させていただきたいと思います。」
僕とジョジロウさんは二人して「はぁ?」っとなった。けれどそれにかまわず、マーリンさんは会話を続けていく。
「最終的な目的地は、オウニのシンの居場所です。その場所を見つけるために、四大元素の精霊をまずは見つけ出す必要があります。」
そう言うとマーリンさんは一息ついて、隣に座るレイミリアさんの頭を優しく撫でた。
「オウニのシンから、あなた方は『たそかれの世界』についての本当の知識を得ることが目的となります。…私は、ネ・ベルゼとの繋がりを解いてもらうのが目的。ネ・ベルゼは私を守護してきたはずの者なのに、繋がりの解き方は知らないと言うんです。なので私はこうしていつまでも、生き永らえていかなければいけない。」
レイミリアさんの肩が少し揺れた。泣いているんだろうか。
「この間少しだけ会いに行って、まだそんなふうに言うものだから、私ちょっとだけキレて少しきつく話をさせてもらいました。そうしたらネ・ベルゼは、私との繋がりがどうやって成って、そしてどうすればそれを解けるのか、その方法をオウニから聞き出せたら解いてもいいとそう約束したんです。それが私の目的です。」
マーリンさんの話に、僕らは返事ができないでいた。その繋がりというのが解けたら、どうなるんだろう?けれど、その問いの答えは、目の前で背中を丸めて泣いているレイミリアさんの様子から察することができた。
「そうですねぇ…。もうずいぶんと昔のことなので、あまりよく覚えてませんが…。」
そう言って話し出したマーリンさん。僕も壁越しにだけど、聴き耳を立てて聴いた。それは一人の女性が生き抜いてきた、人の世界の歴史にも聴こえ、かと思うとあり大抵な日常であったり、子を想う親の物語であったり、とにかくものすごい人生を生きてきたんだなって、そう思える話だ。けどマーリンさんの話し方がわりと先生だったりして、ちょっとだけ歴史の授業みたいに聞こえるところも多かった。
「いろいろと、ありました。けれどここ数年はやけにコノハトの地が懐かしくて。最初にはじめて落ち着いた暮らしのできた場所ですから。冬は特に寒い土地でした。けど、一緒に過ごした家族の顔をね、夢で見ちゃったんです。ですので、今回の里帰りでは最後にと思って、アイルランドまで足を延ばしてきたんです。」
「何が最後によ。ヨホは私にとって家族なんだから、夢に見るなら私にしなさい。」
レイミリアさんの声に、少しだけ怒ったような響きが混じる。壁越しで二人の顔が見えてないので、いまどんな状況なのかわからない。何に引っかかって怒りだしたんだ?
「あらあら、ごめんなさい。ちょっと余計なことまで話してしまったわね。」
「何言ってんのよ!ヨホは私の家族でしょ!それともそう思っているのは私だけなの!」
「いえいえ、私もレイミリアのことは、実の娘かその孫のように思ってます。」
「だったら昔話をしながら悲しそうな顔をするのはやめて!その頃に戻りたいって顔で、話すのはひどいわ。何が最後なんだか知らないけど、『最後に』とか言うのも嫌。なんだかこれっきりでヨホとお別れになっちゃうって、そう思っちゃうから、そんなの嫌だから、そうなっちゃ嫌だから…。」
おっきな声でそう言って、レイミリアさんは言葉を詰まらせていた。まだ何かを言っているみたいだけど、だんだんと声が小さくなって壁越しだとほとんど聞き取れない。
僕は壁から離れ、ベッドにもぐりこんで先のことを考えはじめた。そうしてしばらく時間が過ぎ、その間は船内にかすかなエンジンの音以外、ほとんど何も聞こえなかった。
「ミラクーロ様、聞こえていらっしゃいますか?できれば、ジョジロウも呼んで、こちらまで来てください。大事な話がございます。」
少しうとうとしかけたタイミングで、マーリンさんの声が聞こえた。僕はベッドを出て客室の扉を開ける。開いた扉の前に、広いソファーの背中が見える。ソファーのすぐ後ろまで部屋を出ると、向かいの席に横を向いてレイミリアさんがうずくまっていた。膝を抱えるようにして座るその背中がわにマーリンさんが座ってて、左手を伸ばしてレイミリアさんの背中をさすりながら、軽く会釈をする。
「ジョジロウさんですね。今、呼んできます。」
「もう来ました。うっかり忘れてました。あの子も少しばかり特殊なのを。」
マーリンさんがそう言うと、目の前のソファーにジョジロウさんが既に座っていた。僕は「どうやって?」と言葉が出そうになったけど、さっきまでの会話やその後の様子から、今は黙って席に着くことにした。そこにベントスがトテトテトテっと歩いて現れる。
「お揃いですね。」
マーリンさんがそう言うと、ジョジロウさんが「はっ!」と小さく答えるのが聞こえた。
「今ようやく、この子が納得をしてくれました。ですので、皆さんにこの旅の本当の目的地と、そこでするべきことをご説明させていただきたいと思います。」
僕とジョジロウさんは二人して「はぁ?」っとなった。けれどそれにかまわず、マーリンさんは会話を続けていく。
「最終的な目的地は、オウニのシンの居場所です。その場所を見つけるために、四大元素の精霊をまずは見つけ出す必要があります。」
そう言うとマーリンさんは一息ついて、隣に座るレイミリアさんの頭を優しく撫でた。
「オウニのシンから、あなた方は『たそかれの世界』についての本当の知識を得ることが目的となります。…私は、ネ・ベルゼとの繋がりを解いてもらうのが目的。ネ・ベルゼは私を守護してきたはずの者なのに、繋がりの解き方は知らないと言うんです。なので私はこうしていつまでも、生き永らえていかなければいけない。」
レイミリアさんの肩が少し揺れた。泣いているんだろうか。
「この間少しだけ会いに行って、まだそんなふうに言うものだから、私ちょっとだけキレて少しきつく話をさせてもらいました。そうしたらネ・ベルゼは、私との繋がりがどうやって成って、そしてどうすればそれを解けるのか、その方法をオウニから聞き出せたら解いてもいいとそう約束したんです。それが私の目的です。」
マーリンさんの話に、僕らは返事ができないでいた。その繋がりというのが解けたら、どうなるんだろう?けれど、その問いの答えは、目の前で背中を丸めて泣いているレイミリアさんの様子から察することができた。
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