赤い剣と銀の鈴 - たそかれの世界に暮らす聖霊の皇子は広い外の世界に憧れて眠る。

仁羽織

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聖霊たちの軌跡

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 波がザブンと大きな音を立てて僕らの周りを洗い流していく。巨大なビルの群れが、水の中で次々に破壊され、粉々になっていくのが見えた。渦を巻く水流が建物の基盤まで引きはがし、地面をすっかりと剥いで押し流していく。幻だとわかっていても恐ろしい光景だ。

 「こうして、主なモリトとハバキの街が、この星の上からなくなっていきました。モリトの一族も、ハバキの一族も、この時に全て消え去ったと聞いています。」

 僕はそこでゴクリと唾を飲んだ。では、今も『たそかれの世界』にいる僕らはいったい何なんだ?アイオリアに暮らすレイミリアさん達は、普通の人間だ。彼らは何なんだ?

 「モリトもハバキも、もともとは精霊のひとつです。」

 あたりがまたパッと変わり、さっきまでと同じように、宇宙に僕らはいた。しかし今度は目の前に、全体が水で覆われている惑星が見えている。その星には大きな衛星があった。

 「今から四十憶年以上の昔、この星に命は誕生しました。オウニはこの星を『ハバキ』と呼んだそうです。大気はあまり厚くはありませんが、そのぶん水が豊富に惑星の表面を覆っている青い惑星であったそうです。あるときここに命の精霊が生まれました。」

 青い星の上に、小さな輝きが集まっていくのが見える。するとそこにどこからか似たような輝きを放ち、けれど機械的なつくりの宇宙船のようなものが飛んできた。全体が球に近いその船は、しかしよく見ると二つのリングが×の字に交差して外殻を形作って。リングの中央には丸い形の船体が前後に三つ、左右にも二つ見える。

 「ネ・ベルゼの話では、あれは十字の船と呼ばれる宇宙船なんだそうです。『全ての命の生まれる源より飛来して、命の幼生を送り届け、命の守護を司り、そして命を巡らせる者』とか。どこまで本当なのかは知りませんが、あの船で現れたのがオウニ。はじまりの聖霊とネ・ベルゼは呼んでいました。」

 十字の船が、青い星の上で輝く光に近づいていった。すると輝きは不意に収束して、丸い球になった。

 「今生まれたのが、後にハバキと呼ばれることになる命の精霊です。オウニはあれに、ド・ルヴィドと名を付けました。名前の意味は、聞いてもわからないようでした。あの星で命を巡らせる核となる存在がこうして生まれたのです。」

 マーリンさんの手が、中空をなぞる。するとまた場面が変わり、青い星が少し遠くなった。

 「それから数万年の後、この星に転機が訪れました。」

 目の前で、青い惑星にいくつもの彗星が突き刺さるように落ちていくのが見えた。星の表面が揺れている。衛星にも大きな星が衝突した。その衝撃で青い星の衛星が二つに割れていく。

 「この時、この星から多くの大気と水とが宇宙へと放出されていきました。その水は宇宙では氷となり、あちらの惑星に降り注いでいきます。」

 その言葉に振り向くと、さっきの惑星よりも大きな星がそこに映っていた。惑星の周りをまん丸な衛星がひとつ巡っている。

 「これが、今私達が済むこの星です。オウニはこの星を『モリト』と呼んでいたそうです。今から四十億年以上昔のできごとです。」

 早回しで、目の前の星に氷の塊が落ちていく。しばらくして海が生まれた。僕は気になって振り返って見たら、火星の方では海が次第に減っていっていた。濃い茶色の大地が少しづつ見え始めている。

 しばらくそうして様子を見ていると、流れ星の衝突がやんでいき、最初の方の星、火星では、自転する惑星の北側半分だけに海が残っているのが見えた。割れた二つの月が火星の周りを巡りながらしだいに丸くなっていく。

 振り返り僕らの星、地球を見ると、ひとつの大きな大陸を囲んで広い海が拡がっていた。月がひとつ地球の傍を巡っていた。その地球の上に、さきほどの火星と同じように小さな輝きが集まりだしている。

 「あれが、モリトの命の精霊。オウニはあれにラ・ルシフと名を授け、地球の命を巡らせる核としました。」

 十字の船がまた輝きに近づいていき、光の球が生まれる。するとマーリンさんが優しい声でこう言った。

 「少し休憩をはさみましょうか。知っておいて欲しいことはまだまだあります。退屈な座学ですので、休みをはさまないと最後までもちっこありません。」

 あたりの様子が船の中へと戻っていった。壁が真っ白で少し目が痛く感じる。キャビンの窓から外を見ると、海は静かに凪いでいるようだった。船はエンジン音を響かせている。今も目的地へ向かって進んでいるはずだ。

 それから僕とジョジロウさんとベントスは、一旦デッキに上がった。レイミリアさんとマーリンさんはキャビンで休むそうだ。

◇◇◇

 船は測定装置につないで自動運転ができるようにしてある。ジョジロウさんがその具合を確かめるために操舵席に向かった。僕もその後に続くことにする。今聞いたいろいろなことをジョジロウさんと整理したいと僕は思っていた。

 「坊ちゃん、青い扉、一旦引っ込めるぜ?」

 操舵席でジョジロウさんはそう言って、浮かんでいる青い扉に手をかざす。その手に青い扉が吸い込まれるように消えていった。僕はそれを見ながら、ぼんやり思考を巡らせていた。

 「ミラクーロ様、どうかされましたか?」

 ベントスが僕の様子を気にして声をかけてきた。けれど頭の中がうまく整理がつかないままだったので、返事のしようがない。

 「びっくりしたんだろう。ベントス、ちょこっとだけほおっておいてやんな。」

 ジョジロウさんが何かごそごそと操作している。そうしてしばらくすると、船のエンジン音が止まった。

 「船のエンジンも少し休憩だ。ついでだから俺もちょっとだけここで休む。」

 操舵席でジョジロウさんが横になる音がした。

 僕は思考を巡らせながら、後方のデッキに降りていった。頭の中は相変わらず混乱していた。父上から教えられたことと、マーリンさんの話。どうしてこれほどまでに違いがあるんだろう。より具体的なのはマーリンさんの方だ。だけど父上には『緑の書』がある。一族の知識と歴史を記録しアカシックレコードにも通じているという道具だ。そこに嘘が記載されていたというんだろうか?

 いくら考えても答えが出そうにないので、僕はデッキにチェアを出し、その上に横になった。

 父上から聞いたモリの一族とその歴史は、マーリンさんが話してくれたモリトの歴史とは大きく異なっている。そもそも、僕らの住む『たそかれの世界』は、大災害から身を守るためのシェルターみたいなものだったはずだ。仮にその大災害を、さっき見たオウニによる四大聖霊を使っての復讐をさすものだとしたら。そしたらなぜオウニは、『たそかれの世界』を用意したんだろう。そもそも、モリトもハバキも地上から一掃されたというのは、どっちなんだ?

 仮に父が嘘を教えていたとした場合、いったい何のためにだろう。まだ幼い僕に教えるにはあまりにも衝撃的な内容だと考えたのか?ありえそうだ。僕の頭では理解できないと思われたんだろうか?これもありえそうだ。僕に真実を話すと自棄をおこすと心配したのか?ますますありそうだ。…だめだ、どう考えても父上が嘘をついている。そうしてその嘘がバレることも折り込み済みな気がしてきた。こうなることも『緑の書』で予見済なんだろうか?

 だけどマーリンさんの話が全部真実とは限らない。確かに今は一番有力な情報だ。ネ・ベルゼという存在も気にかかる。いったいどんな存在なんだろう。

 そもそも僕らは、『たそかれの世界』の仕組みを解明するために来てるんだ。そう言って僕らを送り出したのは、父上だ。その僕らがすでに消え去った存在って…。だとしたら父上はいったい何を僕にさせたいんだろう?自分たちは確か、新婚旅行で世界を回ったって言ってたよな。すると、かわいい子には旅をさせろ的なアレか?父上ならありえる。あの人の考え方は基本アレなので、いい経験だと言ってドラゴンの巣に幼い僕を置き去りにして遠くから眺めてたり、高い高いって言いながらはるか上空まで投げたり…。思い出したらなんかムカついてきた。

 僕がそんな考えを頭の中でこねくり回していると、キャビンの方からマーリンさんの呼ぶ声がした。僕は急いでチェアをしまい、キャビンへと向かう。今は父上のことは後回しだ。

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