赤い剣と銀の鈴 - たそかれの世界に暮らす聖霊の皇子は広い外の世界に憧れて眠る。

仁羽織

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聖霊たちの軌跡

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 「あ、気がついた。」

 あれから三十分ほどゴムボートの上にいた。ジョジロウさんもマーリンさんも、他にすることもないといった様子で海を眺めている。

 海面に上がってすぐ、ジョジロウさんはレイミリアさんの容体を確認した。レイミリアさんには潜水病の兆候もなく、頭部の外傷もかすり傷程度。それがわかってそれきりほったらかしになっていた。その後にマーリンさんもレイミリアさんの呼吸の状態と脈拍なんかを診ていた。そしてそのままレイミリアさんの頭を自分の膝にのせて、今はボートの外を眺めて時間をつぶしている。

 うっすらと目を開けたレイミリアさん。少しだけ驚いたようにあたりを目で探り、自分がマーリンさんの膝に頭をのせているとわかった途端に勢いよく起きて、僕らを見回して言った。

 「ここ、どこ?船は?」

◇◇◇

 「なんでこうなるのよ?私の気づかないうちにどんどん変わっちゃって、追いつかない私はどうすればいいって言うのよ!」

 レイミリアさんが狭いゴムボートの上でそう言ってわめきだしていた。気がついてからわずか五分。ここはどこかと聞くので、まだ太平洋あたりだと僕が答え、船はどうしたと聞くので、ジョジさんが爆破したと答えた。そしたら、わめきだした。

 今のうちに動けないようにして、口もふさいでおこうかとも思った。でもその前に確認しなきゃいけないことがある。

 「ジョジロウさん、青い扉は出せそうですか?」

 そう僕が言うと、ジョジロウさんはすぐにハッと気がついて、両の手を胸の前で合わせた。見ていると手の間に青い扉が出現していく。

 「そしたら、こっちも大丈夫かな?」

 僕もためしに、まずは自分の赤い剣を取り出してみた。苦も無くスッと右手に出てくる。赤剣をしまい今度は、銀の鈴を呼んでみた。ジョジロウさんのように両手を合わせ、スルッと出てくるのを確認した。

 「…どうしてだろう?レイミリアさんが気を失ってしまうと、僕らも道具が使えなくなってしまうみたいですね。」

 何が原因でそうなったのかは、はっきりとはわからない。けれど前は、こんなことはなかったと思う。砂漠でレイミリアさんが気絶していた時のは…、あの時気絶はしてなかったってこと?

 「前の砂漠の首長さんのところでお嬢ちゃん頭殴られて気絶してた時とかは、問題なく俺のは出せたのにな。」

 ジョジロウさんが覚えていたみたいだ。つまり、前はそうじゃなかった。

 「そうしたら、砂漠から帰ってから、こうなったということでしょうか?」

 「ん、その辺の細かいことはわからん。今はお嬢ちゃんが気を失っちまうと使えない。それでいいんじゃね?」

 ジョジロウさんの答えに少しだけ考えを巡らせて、その方がいいと僕も思った。考えても答えの出なさそうなことは、あとで時間ができてからじっくりと考えたらいい。今はそれよりも…。

 「今はとにかく、船ともろもろとを元通りにします。」

 そうして僕が銀鈴を使用した。沈んだはずの船を引き上げるよりも、一からもう一度出した方が手っ取り早い。銀鈴に願う。

 目の前に、沈んでしまった白いクルーザとよく似た大きさの、赤の帆船が現れる。帆船の帆は大きな三角帆をイメージして出した。我ながら勉強してきた甲斐がある、と思った。

 「なんかカッコいいな。今度は帆があるのか。」

 「はい。しかも帆の操作は操舵席から自動制御できるようにしてあります。」

 えへん。どうだ?

 「筏から進歩したのはいいけど、風がない時はどうする気よ。」

 レイミリアさんがふくれっ面を解いて口を開いた。もっともな言い分だと思う。

 「そこはほら、ベントスがいれば…。」

 そこまで言いかけて、ついさっき起こったできごとを思い出す。そうだ、ベントスはどこかへ飛んで行ってしまったんだ。

 「船を動かすくらいの風なら、私になんとかできると思います。とりあえず、乗船しましょう。」

 様子を見ていたマーリンさんがそう言って助け舟をだしてくれた。レイミリアさんがそれに反論することもなく、僕らは船へと上がる。ゴムボートは船首の広い上番にあげて空気を抜き乾かすことにした。

◇◇◇

 新しい船の上にあがり、僕らはこの後どう行動するかについて話し合うことにした。当初の目的である海の精霊を探しに向かうか、もしくはどこかへいってしまったベントスの行方を探すか。僕はそう思って意見を言おうとしたら、レイミリアさんの思いがけない提案が出た。するとみんなも思い思いに本音をぶちまけてくる。これはこれでレイミリアさんの、ある意味良い方の効果だなって僕はそう思った。

 「今日はもう帰りましょう。服もビショビショだし、髪も塩水につけちゃったし。」

 レイミリアさんはそう言って引かない。

 「このヨットでそこらを走ってからでいいだろ。こんな船なかなか乗れる機会なんてねえぞ!」

 ジョジロウさんはこんな感じ。

 「まだ来たばかりじゃないですか。それに私からの説明も途中ですし、今日の予定を最後までやり遂げましょう。」

 マーリンさんはこう。

 正直なところ僕の本音は、レイミリアさんのに近い。ジョジロウさんは遊び半分だし、マーリンさんの言う今日の予定って、僕はその予定について内容すらも聞いていない。

 不意なできごとで計画が頓挫した時、それに関わる人々の本音の意見は特に重要だ。ものごとが順調に進んでいるときには、たいした問題にもならない小さな不満が、進むのを停めたとき、大きく膨らむ可能性は高い。小さくとも不満は積みあがるからだ。それでも人は目的地があればその不安とうまく付き合っていってくれる。不意の頓挫はその付き合いに、横やりを投げ込む。

 レイミリアさんのおかげでこうやって、それぞれ思い思いに本音をぶちまけてくれた。…当のレイミリアさんにそんな気がないのは明白だ。いつもどおり、思ったことを思った通り、周りのことなんか考えもせず言っているだけ。そんなのは別にどうでもいい。でもこのタイミングでこの場所にいることの重要性がある。この人といると誰だって、本音を隠して追従するのは不利だって感じられるだろう。本音を出すのが苦手そうなジョジロウさんが、この旅の間にどんどんと接しやすくなっていったのも、多少はレイミリアさんのおかげだと思う。

 しかし、と考えた。レイミリアさんの良いところを見つけられたのはともかく、こうやって三者三様の意見がバラバラな時は、あまり即決をするものじゃない。…小さなころに父上から教わったことなんだけど。とにもかくにも三者三様に意見がバラバラだ。
 
 まず向かう先について考えてみる。今までのままでいいのか?さっきベントスがおかしくなったとき、マーリンさんの創り出す周辺変更の景色がずいぶん様変わりをしていた。はじめは、まるで宇宙な風景だったのが、その後は、まるで深海みたいに感じた。あれってもしかして水の精霊に関係があるのだろうか?

 僕はその考えを口に出してみることにした。

 「ベントスがおかしくなった時、周りの景色が海の中みたいに変わりませんでしたか?」

 するとマーリンさんが同じことを感じていたと答えた。

 「そんな感じでしたね。太陽光は届いているのだけど、それなりの深さがある海、みたいに感じました。」

 「さっき海から上がってくる途中の色合いに似ていたように思うな。」

 ジョジロウさんも同意してくれた。レイミリアさんは気を失っていたんだから聞くのも可愛そうだ。

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