赤い剣と銀の鈴 - たそかれの世界に暮らす聖霊の皇子は広い外の世界に憧れて眠る。

仁羽織

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聖霊たちの軌跡

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 「えーと、あらためて挨拶をさせていただく。余の名はミカエラ・アイオリア。モリトの全権委任公司として仲間たちとと一緒にこの星の管理を任されていた者だ。でいい?二回目なんだけど…。」

 そう切り出したミカエラはずいぶんと威厳のある姿に見えた。でもその後をまたチャラい様子で話を続けていく。どっちが本当なんだかわかりゃしない。

 「って言ってもさ、たいしたことない奴なんだ俺。結局誰も守れなくて終わっちまって。はぁ、ホント。残念な奴なんだわ俺って…。」

 なんかいろいろと不安定な感じだ。大丈夫なのかな。

 「聞いてもいいかしら。」

 マーリンさんが手をあげて、僕とミカエラに目を向ける。僕はコクンとうなづき、ミカエラはブンブンと頭を振るようにうなづいた。

 「ミカエラさんて、モリトの方なの?ネ・ベルゼにたずねても何も答えがないのだけど。」

 マーリンさんの質問に、ミカエラが答える。わりと真面目な顔で。

 「ネ・ベルゼって言ったか?あの野郎、まだ外界に関わっているのか。オウニの腰巾着め!」

 「なるほど、今の言葉を聞いてネ・ベルゼが卑屈に文句を言いはじめたわ。お二人とも知り合いなのね。」

 「知り合いって言ったら、そうかな。お互いに見知ってからはずいぶんと長い付き合いだ。」

 ミカエラがそう言うと、マーリンさんの様子が変わった。ガクンとうなだれたかと思うと、急に顔を上げて甲高い声で騒ぎ出した。

 「この、うそつき!ラ・シルフはそうやって嘘ばっかり言うから、モリトに生まれた人間も嘘ばっかりじゃない。あんたが全部悪いんだからね。だから私だけ残ってやりたくもない仕事をしなきゃならなくなったんじゃない!」

 「ふん。余を誰かと勘違いしているようだが、余は余である。ミカエラ・アイオリア。決してラ・シルフなどという精霊なんぞではない。」

 どっちも不安定なのが出てきちゃって、レイミリアさんが思いっきり引いている。ジョジロウさんはマーリンさんの変わりように口をあけっぱなしだ。

 「あの…どういうことでしょうか?これって…。」

 僕は恐る恐るたずねた。何かよくわからないことが起きているのは理解している。けど、ここで大暴れされてまた海に沈められるのはできれば避けたい。

 「仕方ない。余が説明しよう。その前に、そこの銀の鈴の使い主よ、そなたの力でこの騒がしい騒霊に実体を与えてやってはくれまいか?」

 ミカエラはそう言ってレイミリアさんに頭を下げる。かなり引いていたレイミリアさんは、何をお願いされているのかわからないといった顔をして聞き返す。

 「何をどうしたら、いいわけ?」

 「ネ・ベルゼの奴に、もっとこうわかりやすい姿形をだな。…ふむ、例えば。」

 ミカエラがそう言うと、その手にポンと黒い兎の人形が現れた。

 「こちらの中に、そちらの淑女の内に巣くう小悪党のネ・ベルゼを移し替えてくれないか。余ができれば自分でするのだが、どうも銀鈴を変に変調した奴がおるようでな。カムイの阿呆め!そ奴のせいで余は自分では自身の力を操れぬようにされておるのよ。なので頼む。見苦しくてかなわんから、淑女よりネ・ベルゼを引きはがし、この中へ収めよ。」

 なんかサラサラっといろいろな核心みたいなことを言ってるけど、どこまでが本当なんだ?実はこれ、また海の精霊がなんか仕掛けてきたことじゃないのか?それともみんなで集団幻覚か?

 僕はすっかり混乱していた。

 「とりあえず、ネ・ベルゼってのをこっちへうつせばいいのね。」

 レイミリアさんがそう言って、銀鈴を使おうとしている。でもレイミリアさん、それやったらマーリンさんが…。

 「ヨホ、私のお姉さんとしてこれからも傍にいつづけてね。」

 そう言って銀の鈴を出すレイミリアさんの表情は、いつになく真剣なものだった。白い輝きが増していく。ミカエラが黒いサングラスをかけるのが見えた。

 「これでよし。次は、ほら、その人形をしっかりと持って。」

 レイミリアさんの気迫が、これまで見た中で最高潮の時よりもずっと真剣だ。ミカエラは両手で兎の人形を持ち、サングラス越しにレイミリアさんをじっと見て微笑んでいる。

 「銀鈴!お願い!…ヨホの中から出ていけ!ネ・ベルゼ!」

 白い輝きがこれまで以上に強く広がる。僕は後ろを振り向き両手で目を抑えた。

 輝きが消え、ソファーに座るみんなを見た。いつの間にかジョジロウさんも目に何かをかけてる。アイマスクか?白いアイマスクをした黒いジョジロウさんは、右手の親指をあげて僕に笑いかけてきた。レイミリアさんは、ソファーに深く腰かけて肩で息をしている。銀鈴に願うとき、願いの一途さが大事なので集中力はかなり必要だ。頭がどっと疲れたかな?普段はあんまり使ってなさそうだもんな…。

 マーリンさんを見ると、レイミリアさんのすぐ横でソファーにうなだれて倒れていた。ネ・ベルゼは、マーリンさんの不死の元になっていたモノのはずだ。それを引きはがしてしまえば当然だけど、不死も消えてなくなる…。

 ミカエラがサングラスを少し下にずらしながら、レイミリアさんに見惚れているみたいだった。感嘆の顔を表情に出して、驚きと称賛の目でレイミリアさんを見つめている。

 「ブラヴォー、素晴らしい。そのような使い方を思いつき、さらにその通りに使える、その方の心根の一途さ、清々しさ。慈しみの心も申し分ない。このようなものに情けをかけられるというのも素晴らしい。」

 ミカエラがそう言うと、その手に持たれている黒兎が騒ぎ出した。

 「ふざけないでよ!なんでこんな姿なのよ!それになに、これ!出られないじゃないの!なによこれ、ラ・シルフ!いい加減にしなさいよね!せめて動けるようにしなさいよ!ちょっと、聞こえてる?ラ・シルフ!聞こえてる?」

 「動けぬのはそなたがあれもこれもと一度に欲張るからだ。かつてもそうであったろう。その義体は、義体初心者用にとオウニのシンより譲り受けたものだ。遠い昔にな…。」

 「そんなの知らないわよ!とっとと出して!そうでなきゃ自由に動けるようにして!マーリンの中に帰して!」

 「それはダメ。ヨホは私達の仲間だから。あなたはもう二度とヨホに手出しはできない。」

 話を聞いていたレイミリアさんが、キリっとした目で黒兎のぬいぐるみを睨んでる。ミカエラが、その様子が見えるように黒兎のぬいぐるみをレイミリアさんに向けた。

 「だ、そうだ。この娘、たぶんおぬしよりも心根が強いぞ。それに逆らう愚をおぬしもするか?我らと同じように…。」

 「…ちぇ。自分より強い奴を敵に回すなんて、そんな馬鹿なことするわけないでしょ。」

 「だよなぁ…。そこがおぬしの限界。」

 そう言ってミカエラが黒兎のぬいぐるみをポーンと上に投げた。そのまま落ちてくる兎をお手玉のように何度も何度も上に投げる。ときどき「ギャ」とか「グエェ」とかの音がしている。それって、中に何かが入っているってこと?その何かって話の流れからして、ネ・ベルゼってのだよね?

 僕はこの急展開にすっかり取り残された。何が起こってて、何がどうなったんだか全然わからない!

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