赤い剣と銀の鈴 - たそかれの世界に暮らす聖霊の皇子は広い外の世界に憧れて眠る。

仁羽織

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聖霊たちの軌跡

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 レイミリアさんは、それでもまだ警戒した様子で、黒兎のぬいぐるみとミカエラを見ている。すると、ぐったりとしていたマーリンさんが、ゆっくりと体を起こした。レイミリアさんが飛びつくようにマーリンさんに駆け寄るのが見えた。

 「ヨホ!気がついた?」

 レイミリアさんはそう言いながら、けれどミカエラとその手にあるものからは目を離さない。

 「私は大丈夫です。けれどどうして…。」

 「その娘が思い切った決断をしたようだ。おぬしの、今生を最後の生としたいという願いを叶え、それからおぬしの中から不純物を取り去った。取り去った不純物はこちらの可燃不可な入れものに移し替えてある。これでこやつも今で言うところの、不燃物というモノに成り下がったわけだ。」

 わっはっはっは、と不燃物を手に不審者が笑っている。このまま海に不法投棄してしまおうか?けれどその前に確認しておかなきゃいけない事実がある。

 「おい、ミラクーロ・フィリオス・アイオリア。余とこの不燃物を今王の元へ連れていけ。間違っても海中へ捨てたりはしないようにな。特に不燃物は海洋生物にとって甚大な被害を及ぼす。この不燃物を喉に詰まられてもだえ苦しむウミガメなんぞ、決して生み出そうなどと思ってはならん。いいな。」

 ミカエラの手の中で黒兎のぬいぐるみがぐったりとしていた。確かに、このちょっとキモいぬいぐるみのせいで、海の生き物が苦しむのは見たくない。

 「わかりました。アイオリアの施設で処理することにします。」

 そう言って僕は、銀の鈴を使った。行先はアイオリア城。せっかく出した船はもったいないのでこのまま海上に放置だ。僕らがいない間にまた壊れてしまうかもだけど、緊急措置だ、仕方ない。

 両手を胸の前で合わせ、左右に広げる。その間に鈴が出てくるのを見ながら、願いを伝える。足に力が入りすぎたのか、膝がガクガクと揺れていた。銀の鈴がいつもより出てくるのが遅い気がした。

 白い輝きが力強く広がっていく。ふと横を見ると、レイミリアさんも同じ姿勢だ。どうやら同じタイミングで銀の鈴を使用しているみたいだった。

 「レイミリアさん、何を?」

 僕は驚いてそう叫んだ。同じことを願ったのか?それとも別の何かなのか?けれど輝きは今更おさまらない。そうしてあたりが真っ白になり、その光が晴れると、僕らはアイオリア城の王の間にいた。

 質素なつくりの間だと、僕はいつも思っていた。石造りの城なため、この部屋も周囲を切り出した石で囲ってある。少し大きめのレンガ塀みたいな壁は、あちこちに明り取り用の窓が開けてあり、風はよく通るつくりだ。

 「何事だ?ミラクーロ。友達と城内見学かな?だとすると少々タイミングが悪いね。」

 王座が、王の間の少し高くなっているところに設置されている。そこに王である父上がいた。着替えをしている最中だったらしい。普段家で着ているようなラフな洋服が王座にかかっていた。そして手には、礼服のズボンだろうか?それを両手で持ち、今まさに履こうとしている最中だった。

 「…どうしてこんな所で着替えなんてしてるんですか?」

 いい大人が、パンツ一枚で片足をあげて今からまさに履こうとしている。その残念さはもはや言葉では言い表せない。着替え用の部屋が確かあったはずだ。それにお付きの者はどうしたんだ。護衛なんかは要らなくなって久しいらしいけど、それにしたって王様が他人に見せる姿じゃあない。

 「いや、グランスマイル家の主人と遊んでてね。そしたら今日は大事なお客さんがあるって忘れてて、慌てて戻って準備していたところなんだよ。」

 そう言って父上が手馴れた様子で正装に着替えていく。僕は思い出して他のみんなの様子をうかがう。マーリンさんとレイミリアさんは顔の前に手をあてて見ないようにしていた。ジョジロウさんは、アイマスクを外してしまおうとしている。ミカエラが、いない?黒兎の人形が床に置かれていて、あの真っ白な不審者の姿が見えなかった。

 「ミカエラは?誰か見ませんでしたか?」

 そうたずねた僕の問いに、答えたのはレイミリアさんだった。

 「あの調子のいいおかしな人なら、その兎の中に入ってもらったわ。」

 海から戻ってきた一同が、パッと兎のぬいぐるみを見る。

 「そんなことして大丈夫なのか?」

 ジョジロウさんが、少し緊張した様子でそう言って構える。手に一握りの武器が握られていた。

 「レイミリアさん、なんて無茶なことを…。」

 僕はそう言って、黒兎のぬいぐるみを注視することにする。

 王座は僕らの後ろ側にある。だから何かあっても父上に被害が及ぶのは免れる。というか、後ろに被害を生じさせるつもりはない。そして僕と黒兎の間に、ジョジロウさんとレイミリアさんがいる。マーリンさんはレイミリアさんの少し後ろでしゃがんでいた。

 全員で黒兎を注視していると、そのぬいぐるみからミカエラの声が響いてきた。

 「まったくもって、素晴らしい。今回の銀鈴所持者は、我が願い通り!」

 とびぬけるように明るくそう言って、二歩足で立ち上がる黒兎のぬいぐるみ。そして器用に前足で自分の右耳を引っ張りはじめた。「うんしょ、うんしょ」と声が聞こえる。僕らは一様に驚いてその様子を見ていた。すると次の瞬間に「ハイ!」っとミカエラの元気な声が響きわたる。

 目の前に、白兎と黒兎、二兎のぬいぐるみがポーズを決めて立っていた。

 「しかしまあ、なんだな。この方が確かに、モリトの坊主くんにいちいち許可を出してもらわずにも済む。それに干渉にも強い。素晴らしい。」

 白兎のその声に、前に進み出て膝を着く父上の姿があった。

 「ご無沙汰をしております。モリトとハバキの合作、ルミネ・アイオリアでございます。覚えておいでですか?」

 「やはりしらばっくれておったな。久しいの、ルミネ。」

 ぽてっと転がり口をあんぐり開けている黒兎のぬいぐるみ。レイミリアさんとジョジロウさんは、まだ緊張が解けないまま、僕と同じように何が起きたのかわからずにいる。

 「それと、ヨホ・マジノ。ずいぶんと久しぶりだね。憑き物もとれたみたいで、心から嬉しいよ。」

 父上は片手に白兎を抱え立ち上がると、振り向いてマーリンにそう言って笑った。

 「あと、ミラクーロ。城への出入りはちゃんと表からしないと駄目じゃないか。門番や衛兵にだって、仕事をちゃんとさせてあげなきゃやる気が失せていくだろう。」

 父上はそう僕に言うと、頭にポンと手をのせてゴシゴシと撫でた。その力具合で僕は、父上がとくに機嫌を悪くしてはいないことに気がついた。いつもなら、来客前にゴタゴタなんかを起こすと血相を変えて怒る。そして地の果てまで追いかけてきてどうしようもなくなる。

 「お二人も、お疲れさま。服がびしょ濡れだね。着替えを用意させるから、風邪をひく前に着替えておいで。それと、よくやった。」

 父上にそう声をかけられたレイミリアさんとジョジロウさんが、二人して首をひねっていた。その間に父上は王座まで歩いていき、手にした白兎のぬいぐるみをその席に座らせた。

 「おーい、誰かいないか!予定していた来客だ。あと男子一名、男性一名、それと女性二名を城の大浴場に案内しておくれ。着替えも頼む。」

 王座の脇に備え付けられた城内用インターフォンに向かって、父上の声が響いていく。インターフォンは銅製のパイプが城内中に張り巡らされていて、各所と連絡がしやすくなっている。今ではもっと機械式のいい物があるのに、いつまでも古臭いつくりだなって僕はここへ来るたびいつも思う。

 ふと見ると黒兎のぬいぐるみをマーリンさんが抱えていた。そういえばさっきからずいぶんと静かだ。船の上ではあんなにうるさかったのに、どうしたんだろう、ネ・ベルゼは?

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