赤い剣と銀の鈴 - たそかれの世界に暮らす聖霊の皇子は広い外の世界に憧れて眠る。

仁羽織

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聖霊たちの軌跡

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 しばらくして案内の者が王座の間にやってきた。僕らはその者たちに案内されて、城の裏手にある大浴場にいる。マーリンさんとレイミリアさんは、離れにある女性用の大浴場へと案内されていった。

 「ふいー、生き返る。海に沈められたときは今度こそヤバいって思ったもんなぁ。」

 湯船に顎までつかり、ジョジロウさんが話しかけてきた。
 
 「しかしベントスの奴、なんで急に言うことを聞かなくなったのかね?それとなんだか変な喋り方じゃなかったか?なんかこう、頭悪そうな感じの。『そだよ』とか『なりゆき』とか言っちゃってな。」

 確かにあの時のベントスは、普段と違った喋り方をしていた。それと、「私の名は、はるか遠い昔に賜った名なのです。」と言っていたのが気になる。

 「ジョジロウさん、確かあれが起きる少し前に、青扉を一旦引っ込めたんですよね?」

 青扉の機能と性質を思い出して、ジョジロウさんに確認する。

 「ああ、エンジンも休めたかったしな。あれが原因か?」

 「いいえ、原因は別だと思います。ですが、青扉は使用者が意識する場所の時空間を隔離することができる道具です。隔離された場所の中と外は、それぞれが干渉不可になるはずなんです。」

 「てことは、…どういうことだ?」

 ジョジロウさんは首をひねって僕の方を見た。真剣な顔で聞いてきているその様子をみて、僕はジョジロウさんがこの話にはもう興味がないって思った。顔はものすごい真剣なんだけど、目の焦点がどこかに行ってる。

 それでも自分の考えを精査するために、僕は続けて考えていることを言葉にした。

 「青扉は、ありたいていに言ってしまえば、タイムマシンのようなもの。意識して固定した座標内の物体気体液体を問わず、素粒子レベルの変化要素を早めたり遅らせたりすることができます。変化する速さをコントロールできる、というわけです。」

 ジョジロウさんはぶくぶくっと、湯の中に顔を沈めていった。僕はかまわずに続ける。

 「僕の赤剣は、対象にできる範囲が狭い。剣で切り出す空間を限定にして代わりに青扉よりも精密な時空間の移動を可能にするもの。でもまだ僕の腕だと十分な結果が得られないため、より高度で精密な効果を得たいと思う場合には銀鈴の補助が必要です。」

 その補助のおかげで、以前にジョジロウさんを過去へ送り返すことができたんだ。

 「あの時、僕らはマーリンさんからの話を聞きながら、けれど海に出てすぐ青扉で船ごと結解を張ったような状態になっていた。そして、休憩の時にジョジロウさんが青扉をしまって、そのままマーリンさんの話に戻った。」

 僕のすぐ横、ジョジロウさんが潜っているあたりから、ぶくぶくぶくっと空気の泡が昇ってきている。

 「結解がとけたから?そうなると相手は?海の精霊かな?でも名前は?ベントスの以前の名は…まさか?!」

 僕は思いがけずも新しい意外な可能性に気がつき、風呂場を飛び出した。脱衣場に駆け足で飛び込んで、下着やズボンを大慌てで着こむ。用意された着替えはお城の制服だった。緑色を基調にした落ち着いたデザインの制服だ。

 「おいおい、坊ちゃん。そんなに急いでどこ行くんだ?」

 シャツに袖を通していると、タオルを腰に巻いたジョジロウさんが風呂場との境に立っていた。

 「母がひょっとしたら何かを知っているかもしれないんです。僕、急いで行って聞いてきます。ジョジロウさんはどうぞのんびりと温まっていってください。」

 ジョジロウさんは僕の言葉を聞くと、隣にきて服を着だして言った。

 「それならもうたっぷり温まった。んで、家の方か?」

 「はい。母はたぶん家にいると思います。」

 「無駄足になると時間のロスだろ。そのくらい銀の鈴つかってちゃちゃっと調べちまえよ。」

 ジョジロウさんは用意された城の服ではなく、海でびしょ濡れの服を持ち上げて振り回している。どうやら黒い服でないと嫌なのかもしれない。

 そんなことを考えながら、僕は言われた通りに銀鈴を呼び出そうとした。いつもどおりに、胸の前で両手を合わせ、銀鈴が出てくるのを待つ。

 ポンっと、両手の間から聞きなれない音がした。そしてその下に、白兎のぬいぐるみが両手両足を組んでむすっとした顔で転がっていた。

 「え?」

 「あのなぁ、今ちょうど核心に当たるところを今王と話してたのに、なんでこうなる?」

 「は?」

 僕とジョジロウさんは開いた口がふさがらない状態だ。足元に転がったままのミカエラは、ぶつぶつと文句を言いながら立ち上がると、僕の肩に飛び乗ってくる。

 「思うに、あれだろ。銀の鈴を用いようとしたら、余が呼ばれて出た。合ってるか?」

 「は、はい。」

 「くぅー!どっちだ?オウニが悪いのか、カムイの阿呆のせいか?そもそもこの初期用義体では道具となった意識体の分離が不可能なのか?どっちにしろ、くぅー!」

 なんか、よくわからないけどとっても悔しそう。

 「美味そうな海産物が!話済んだら食おうと思ってたのに。くぅー!」

 あ、そういうことか…。

 「そんで?銀の鈴で何したかった?余に言うてみ。」

 「あの、えっと。」

 状況が状況なだけに答えに詰まっていると、ミカエラは僕の肩でつづけて言った。

 「なるほどな。お前さんの母どのが、大気の精霊のもともとの名付けか。」

 「え?」

 「それで今何処にいるのかを知りたいと。ほぉ…。そんな誰かに聞くか行って確かめりゃいいレベルのことで、余を呼び出して使おうとな。」

 肩の白兎からゴゴゴゴゴゴゴっという音が聞こえそうだ。なんで僕の考えていることがわかったんだろう?ジョジロウさんは黒いパンツを膝まで履きかけた状態で、片足をあげてこっちを見ながら固まっていた。…っていうか、着替えるの遅!

 「坊主の母どのは、銀鈴の前の持ち主だな。ミゼリトか。うーん、今はこの辺りにいるみたいだぞ。」

 ミカエラがそう言うと、僕の頭の中にパッと母の様子が浮かんできた。ジョジロウさんの奥さんと立ち話をしている。街中の雑貨屋前の通りだ。

 「どうだ、用は済んだか?」

 「…はい。あ、ありがとうございます。」

 ミカエラは僕の言葉を聞いて、肩から床に飛び降りた。そしてあたりを見回している。

 「風呂か…。そう言えばこの義体、以前に洗ったのはいつだったかの。」

 トコトコっと器用に二足歩行で、脱衣所と風呂場の境まで進んでいく。そして僕らの方に振り返って言った。

 「母どのに会って聞くもいいが、大気の精霊については知らんと思うぞ。四大精霊は最初に名付けられた名が優先だ。以後の名称はいわば呼び出し用のエイリアスでしかない。加えて並列処理ができんように制御されておるから、最初の名で呼びだされてしまえば以後の名はキャンセルされる。」

 「ど、どういうことですか?」

 僕が慌ててそう聞くと、風呂場に消えていったミカエラの声が、遠くから聞こえた。

「要は、お前さんが名付けた後にミゼリトが以前の名で大気の精霊を呼んでも、聞くわけがないって意味だ。それと、それが可能なのは最初に名付けをした者だということだ。」

 そしてその声のあとに、ドッボーンと何かが水に飛び込む音がした。

 僕はジョジロウさんに意見を求めようと振り返って見ると、ジョジロウさんがさっきと同じ格好のままで固まっている。

 「どうしたんですか?ジョジロウさん。」

 「どうもこうも、隙をみてあのぬいぐるみを押さえつけようって思ったら、そう考えただけで金縛りみたいにされやがった。ちょっと、なんとかしてくれ。せめてパンツを最後まで履かせてくれ!」

 僕は驚いて目が点になってしまった。すぐハッと我に返って、仕方ないのでジョジロウさんのパンツを上まであげると、風呂場の中にいるミカエラに声をかけた。

 「ミカエラ様、できればジョジロウさんの金縛りを解いてくれませんか?」

 「もう解けてるよぅ。」

 湯気が立ち込める風呂場の中からそう声がしたかと思うと、背後でドサッと床に倒れる音が響く。

 「バランスとるのに無理してたら、足がつった。」

 そう言いながらジョジロウさんが、黒パンツ一丁で脱衣場の床に倒れこんでいた。

 
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