赤い剣と銀の鈴 - たそかれの世界に暮らす聖霊の皇子は広い外の世界に憧れて眠る。

仁羽織

文字の大きさ
27 / 41
聖霊たちの軌跡

27

しおりを挟む
 僕とジョジロウさんは、ジョジロウさんの足が治ってすぐ、念のためということで僕の母の元へ向かった。しかし結局、ミカエラの言うとおりだった。母はベントスを呼び出してはおらず、そもそも自分が昔つけた名前さえ覚えていなかった。

 「猫ちゃんって呼んでたから。それに名前つける時も、ルミネさんがなんか難しい名前にしてって言って、一回だけしか呼んでないから。」

 だそうだ。

 しかたなく城に戻り、僕らは王の間へと向かう。部屋の前までついたときに、レイミリアさんとマーリンさんにバッタリと会った。

 「ミラク、聞いてよ。ネ・ベルゼって泳ぎ上手なんだよ。」

 レイミリアさんはそう言って黒兎のネ・ベルゼを両手でだきしめて言った。すると少し苦しそうにネ・ベルゼが言う。

 「いい加減にしなさいよ!私はお湯とか水とか、そういうのにつかりたく無いんだって!」

 クスッと笑ってマーリンさんが言った。

 「はじめてお風呂に入った時も、そう言うからすぐ出なきゃいけなかった。これでようやく、のんびりとお風呂に入れます。ローマで過ごした時もせっかくのいいお湯が、ネ・ベルゼのせいで少しも楽しめなかったわ。」

 「そんな千年以上前のこと今更よ!それよか早く私をこれから出してよ!」

 そんなふうに王の間の前で大騒ぎしていると、中から父上が顔を出してきた。

 「なんだか楽しそうだね。そういえば、レイミリアさん、風呂で銀の鈴使った?」

 僕とジョジロウさんが二人してハッと目を合わせる。その間にレイミリアさんが父上に首を傾げて返事をしていた。

 「いいえ。ネ・ベルゼが『今、銀の鈴なんか使うとアイツが来る』って言うので。」

 それを聞いて父上は満足そうにうなづいてた。僕は少し困ったなって思って、銀鈴つかってミカエラを呼んじゃった事、なんて言ってごまかそうかなって考えていたら、ジョジロウさんがあっさりと父上に言ってしまう。

 「それならミラクーロ坊ちゃんが呼び出して、今頃はまだ風呂に入ってると思いますよ。」

 怒り狂う父上の形相を予想して、僕は小さくなって頭を抱えた。すると、

 「ではちょうどよい。みんな中に入ってくれないか。ちょっとだけ内緒で話をしよう。」

 と父上は言う。そして僕らは王の間に入り、おそらくはミカエラのために用意されただろう食事を囲んで話をすることになった。

◇◇◇

 「このお魚すっごく美味しい!」

 レイミリアさんが、ジョジロウさんがおろす魚の刺身を食べながら言った。父上からの話がはじまる前に、どうしても我慢できなくなったレイミリアさんが目の前に並んだ海鮮料理をこっそりと食べ始めてしまったため、それに気がついた父上が、そんなにお腹がすいているのならばと、ミカエラのために用意した食事を食べてもいいと言いだし、追加で調理場に料理を頼んだ。その注文に生の魚も食べたいとレイミリアさんが言い出し、城の調理人では生魚の調理になかなか手が回らないということで、ジョジロウさんがこの場で調理をすることになった。

 「なるほど、これは確かに美味い。」

 父上も満足した顔で魚の刺身を頬張っている。

 「こいつは、生で食べても味がスカスカであんまり美味しくないんで、そういう時はこうやって昆布に巻いて少しおいとくんです。」

 黒い割烹着をいつの間に用意したのか、ジョジロウさんがどこから見ても調理人といういでたちで、みんなの食事するテーブルの一角をつかって魚を三枚におろしながら言う。

 「なるほどなるほど。ヨホの里から来た子だろう。なかなかいい料理人だね。」

 父上の言葉にマーリンさんは少し首を傾げて、そしてコクンと頭を下げる。

 「いろいろあったが、ヨホ・マノジ、ありがとう。おかげで青い扉の契約者も現れた。銀の鈴までついてきた。そしてミカエラ・アイオリアが登場し、ここまで順調にこれたよ。ネ・ベルゼまで付いてきたのはビックリしたがね。」

 父上が笑ってマーリンさんにそう言うと、マーリンさんがかしこまって答える。

 「フィリオス様を誤って封じようとして、返り討ちにあったところを救われた魂です。その恩を返せるなら、できるかぎりをさせていただきます。」

 「それはありがたい言葉だね。おじい様にも感謝しなくては。これからもっと大変なことが起きると思うけど、できればこの者達の助けになっていただきたい。伝説の賢人と呼ばれたマーリン殿がヨホであったのであれば私も大変心強いよ。」

 「ヨホ・マノジで結構ですよ。どうせおじい様から譲られた緑の書でお知りになられたんでしょうけど。ルミネ様にどのをつけて呼ばれると、なんだかまた大騒ぎが起きそうな気がして足がすくむ思いですわ。」

 そうしてわははと笑いあう、父上とマーリンさん。仲がよさそうで、僕なんかが会話に入っていける感じじゃない。なので僕はその隣に座っている黒兎のぬいぐるみとレイミリアさんの話に耳を傾けることにした。

 「でもさ、そうするとそのラ・シルフってモリトの精霊?そもそもモリトの精霊ってのが意味わかんないんだけど。」

 「あんた、本当に物知らずなのね。モリトって言ったらモリトでしょ。ハバキとモリトがあるのは知ってるの?」

 「それなら前にミラクにも聞いたし、ヨホからも聞いて少しは知っているよ。」

 「だったら簡単じゃない。そのモリトの精霊がラ・シルフで、ハバキの方がド・ルヴィドよ。」

 「だから、そこがわかんないんだって。モリトって何よ?」

 「あなたさっき知ってるって言ったじゃないの?」

 「ごめんごめん、聞いたことがあるって意味で知ってる。」

 「もう、話にならないわ。知らない!」

 なんだか、レイミリアさんがものすごくすごい人に思えてくる。ほんと、興味ないことだと頭に少しも残さないんだな。

 「さて、それでは。そろそろお腹もいっぱいになりかけたころだろう。これ以上いっぱいになると今度は眠くなってしまうかもしれない。なのでそうなる前に、私の話を聞いてくれたまえ。」

 父上がそう言って席を立ち、僕らを見た。心なしかいつもより真面目な顔をしている。

 「まず最初に、礼を言っておこう。君たちが連れてきてくれたネ・ベルゼ殿こそが、私が長い間待ち望んでいた『たそかれの世界』とモリトを救う最後のピースだ。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...