赤い剣と銀の鈴 - たそかれの世界に暮らす聖霊の皇子は広い外の世界に憧れて眠る。

仁羽織

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聖霊たちの軌跡

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 どういうことなのかわからず、場が少しざわついた。マーリンさんも聞いていなかった話のようで、驚いた顔をしている。すると父上が、ネ・ベルゼを見た。黒兎のぬいぐるみに入ったままのネ・ベルゼは、少し飛び上がって「ひっ!」と声をあげた。

 「ネ・ベルゼ殿、お会いするのは初めてだが、お名前は祖先より聞いております。前史時代までの人類の滅びの嘆きから生まれたと伺っておりますが、お間違いないでしょうか?」

 そう言われて、黒兎が席に立ちあがり父上を睨みつけるように言った。

 「その通りさ。私は嘆きと祈りから生まれた。お前らが滅ぼしてきた四つの種。今の人類が生まれるまでの間に、適当な知恵を与えて、都合よく力も持たせて、そうして争いが絶えぬまま滅んできた種の、悲しみや怒りや苦しみや絶望、それと祈り、そうしたものが積もり積もって私になった。」

 「やはり、そうでしたか。礼を欠き申し訳ございません。救いの聖霊、ネ・ベルゼ様。あなたとミカエラが私達にとって最後の頼りの綱となります。」

 「へ?」

 父上の言葉に、ネ・ベルゼもだが、僕らも驚いて声があがる。

 「救いの聖霊って、どういうこと?」

 レイミリアさんが思わずそう聞くと、父上が答えた。

 「星が生まれ、そこに我々のような生命が生まれると、最初のうちは何代にも渡り生命の滅びが繰り返されていく。それでも命は巡るのだ。滅びてのちも、命の精霊を核に、幾度となく生まれ、そうしてまた滅びの道を歩んでいく。」

 父上の話し方が、少し重い感じに変わった。そのせいか、席に着いたみんなは、黒兎のネ・ベルゼまでもが、息をのんで後の言葉を待つ。

 「その滅びが繰り返されるのは、仕方のないことだ。命の循環の中で命は少しづつ、学び、成長していく。そうして繰り返すことでいつか、救いへの道を見つけ出そうとしはじめる。そうなるために悲しみを知る必要があり、そうなるために苦しみにおかれる。そうして苦しみの中で絶望も知り、怒りも知る。希望を見出し、祈ることを覚え、届かぬ祈りにまた絶望し、いつしか争いそのものを憎めるようにもなる。」

 父上はそこで一息ついた。

 「滅ぶのはなんでだと思う?多くの場合、天災によるものだ。空から星が落ちてきたこともある。地上から酸素が全て燃え尽きたこともある。多くの氷が大気へと降り、そのせいで星中が大雨に見舞われ、そうして滅んだものもある。」

 僕はゴクンと唾を飲みこむ。

 「そうした滅びは仕方のないこと。そう、私は教わってきた。」

 父がそう言った時、黒兎のネ・ベルゼが吠えるように話しだした。

 「何が仕方のないことだい!天災で滅んだ?馬鹿を言うんじゃないよ!どれもこれもあんた達がやったことだ。水多き美しきハバキに、小惑星をぶつけたのはいったい誰だい?直接そうとしなくても、いつもなら飛んでくる天体をぶっ壊して被害なしってしてきたものが、なんでその時だけ星が落ちてくるのを見逃すのさ?おかしくないかい?意図してそうしたと思う他ないだろう。そうしてあんたたちは、水の惑星ハバキの命を滅ぼして楽しんだ。そうだろう。」

 一息に言い切って苦しくなったのか、そこでネ・ベルゼはテーブルにあった水を飲んで一息つく。父上は何も言わず、その様子を見て、少し悲しそうな顔をしている。そうしてまた、少し落ち着いた声でネ・ベルゼが話しをつづけた。

 「私はね、結局全部を見てきてる。私が私のことを私だって意識する前から、すでに私はいたんだ。いったいどれだけ悲しんだと思う?目の前で滅んでく命の嘆きに。どれだけ苦しんだと思う?それをただ見続けるしかない自分に。どれだけ憎んだと思う?滅ぼす側の者たちを。悲しんで苦しんで憎んで、そうして私は自我が目覚めた。たぶんそう言うことなんだろうと思ってる。」

 父上は、ネ・ベルゼの言葉をただ切なそうに聞いていた。

 「ハバキの上に生まれた命は、精一杯に星に適応して暮らしていた。水しかないところで、互いを食らいあうしかない命だったけど、星そのものに何か害を及ぼしたりだとか、今どきのこの星の人間みたいに自分たちだけが滅ぶのならともかく、自分たち以外の命に対しては無関心で、ましてや星に対して何の思いもなくぶっ壊しつづけている、そんなふうじゃなかった。ただ、生きて、ただ、幸せになりたかっただけ。それなのにあんたたちはオウニの言いつけをやぶって、あそこに住む生き物を無理矢理に進化させようとした。」

 ハバキってことは、マーリンさんが言ってた話を元にすれば、火星ってことか。確か火星は四十三億年前くらいまでは水が豊富にあったとされている。星自体が生まれたのは四十六億年前のことだから、それから三億年の間にあったできごとなんだろうか?

 「ネ・ベルゼ、ひとつ聞いてもいいかしら?」

 「なによマーリン!余計なちゃちゃならお断りよ!」

 マーリンさんが話しに参加しはじめた。父上はその様子を静かな面持ちで眺めている。少し遠目にも泣いているような顔をしていた。

 「別に余計なちゃちゃなんかじゃないわよ。でもね、知りたいの。この外の、モリトの人類が今までに研究してきた話によると、この星の生命は今から四十億年前に生まれたってことになってる。星が生まれてから約六億年。それくらいかかったろうってことになっているの。それなのに、あなたの言葉を信じるならば、火星では星が生まれて三億年程度で命が生まれたっていうの?」

 「命の誕生なんて、オウニの気分次第なところがあるのよ。もともとハバキ、…って、今は火星って呼んでるの?なんかセンスないわね。で、その火星って星には大量の水があったの。大きさも今よりだいぶ大きかった気がするわ。…なんて、もうずっと昔のうろおぼえな記憶だからあんまり自信なんてないけどね。」

 「水が大量にって、火星に?」

 「そうよ!ぐるっと一面に水で覆われた星だったのよ!こっちのモリトより一回り小さい星だったけど、見た感じはずっと綺麗だったわ。岩だらけでゴツゴツしてて、あちこちで吹き出物みたいに火を噴いてて。モリトなんて今にも怒りだしそうなオヤジみたいでさ、ハバキがとっても綺麗な少女みたいだった。」

 あ、だめだ。ジョジロウさんが今のネ・ベルゼが言った言葉で話から離脱した。新しく魚をおろしはじめてる。

 「ではその火星に生まれた命を、こちらのルミネ様が無理矢理に進化させたというのはどういう意味なんですか?そんな昔にはまだルミネ様はいらっしゃらなかったはずですが。」

 「だから!こいつらはそれぞれ別個の生き物に見えるけど!実はそうじゃなくてもともとが私と同じような精霊なんだって、一緒にいる時に何度も説明してあげたでしょう!もう忘れたの!」

 「いいえ。ですがここにいる他の皆様はそのことを知らないんです。ですから、そういった自分だけが知っていることをちゃんと説明しながらでないと、誰一人あなたの話には耳を傾けることも同意することもできません。私はずっとそう説明してきました。」

 「そんなのはこいつらが物知らずだからでしょ!少し調べてじっくり考えたら答えの出てくることじゃないのよ!」

 「何を調べればいいというのですか?どう考えたらわかるというのですか?それすらも提示しようとしないで、一方的に感情的で攻撃的な言葉をぶつけて。まったく、どこの我儘なお子様ですか。」

 「誰がお子様よ!これでも四十億年以上前からいるのよ!あんたなんてまだたかが二千年ちょっとじゃない!そんな程度で私にものを言わないでよ!あんたなんて、嫌いよ!」

 あ、レイミリアさんがため息をついた。父上も少し顔をそむけてる。ジョジロウさんがもう一皿、お刺身の盛り合わせをつくりおわってテーブルに置いた。

 「…あんたなんか嫌いよって。なんか親近感ありすぎてちょっと微妙だわ。」

 レイミリアさんがそう言って、すぐ隣の席で飛び跳ねながら怒りをあらわにしていたネ・ベルゼを、…黒兎のぬいぐるみを、両手で抱きしめて膝の上に置いた。ネ・ベルゼはフーフーと息を荒げている。マーリンさんはすました顔で、新しく出てきたお刺身の盛り合わせに箸を伸ばしている。

 「まあ、いいわよ。マーリン!今日の所は許してあげるから、ちょっと私にも食べさせなさいよ。」

 レイミリアさんの膝の上から、すぐ隣に座っているマーリンさんに向かって黒兎がその手を伸ばす。レイミリアさんが口元に手をあてて笑いながらネ・ベルゼをつついた。そのバランスを崩したところに、マーリンさんがお刺身を箸で持ってきていた。ネ・ベルゼの顔にベトッっと赤身の刺身が張り付いてる。…あーあ。

 「コホン。えー、脱線が落ち着いたみたいかな?」

 父上がその様子を見て、また口を開いた。

 「では、続きを話したいのだが。…大丈夫?みんな?」

 なんか、始まった時の重厚な雰囲気がどこかにいっちゃった。っていうか、ここまでの話もなんだかわけわかんないや。

 「ミカエラがいないうちに、ひとつだけ。ここにいる君らで、オウニの探索をしてきてほしい。ミカエラが知ると反対されるだろうからなんとか内緒でな。」

 父上がいつもどおりの少し軽い感じに戻ってる。けど、ミカエラに知られないようにって…。僕がそんなことを考えていると、声がした。

 「ふははははははははははははははははははははっはっは。とぅ!」

 大笑いのち掛け声とともに、テーブルにのせられた刺身の盛り合わせの、その横に大量に盛られた大根の細切り?たしか桂剥きって手法で薄く削いだ大根の反物みたいなのを更に細かく細切りにしてのせたもの。の中から、何かが飛び出して僕らの頭上を舞った。

 「ふっはーっはは!我こそはミカエラ・アイオリア。モリトの守護者にしてこの星の帝王!いまここに、見参!」

 ちょうど父上の前のテーブルに、白兎のぬいぐるみに入ったミカエラが着地してポーズを決めている。その後ろからにゅっと手が伸びて、そのまま持ち上げられてちょこんと父上の膝の上に収まった。テーブルからはミカエラの顔だけが出て見える。

 「おい、こら。ルミネ!離せ!まだポーズが最後まで決まっておらん!余を離せ!」

 父上の膝の上でじたばたするミカエラの様子に、その場にいた一同で大きくため息をついた。なんだか話が進まない。どうなるんだ?これから。


 
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