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裏切りと誤解と優しさの偶然
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そう言うとお父さんは右手の指をパチンと鳴らす。するとその手には小さなお花が咲いていた。私は、なんで?と思ってビックリはしたけどキョトンとしてしまって、そうしたらお父さんの期待に満ちた目がそれを許してはくれそうもなかった。その目につられてパチパチっと拍手をして、無理矢理にだけど頑張って笑顔をつくってみる。するとお父さんは片膝をついて、その花を私の手に握らせてこう言った。
「君はなかなか聡明なところがあるね。」
言い終わると同時に、目の前でスーッと消えた。そっちの方が驚いた。
「なんだったんだろう、いったい…。」
まったくもって見当がつかない。ミラクのお父さんて、なんかうちの父に似たところがあるかもしれない。ちょっとお茶目で、どこか抜けてて、でも本当は抜かりなくて。見た目は全然だけど、服装の趣味なんかはものすごく気が合いそう。ふたりで話でもしたらけっこう盛り上がって、あの変な服でブランドとか立ち上げちゃわないかな。そんんでそのブランドが思いのほか大当たりして、気がついたら今よりもっと大金持ちになっちゃったりするの。
そんな妄想でとりあえず気持ちを落ち着けて、とりあえず今は一息つこう。このところ色々なできごとが多すぎ。早いところなんとかしないと。って、自分じゃどうしようもないんだけど…。
そうしてあれから一時間が過ぎた。なんて言ったらなんかそれっぽい物語みたいに思えて、今この現状から逃避できるかな、って思ったんだけど。無理だよね、やっぱり…。
私は生まれてこの方、お父様とお母様の庇護のもと、じいやとばあやとも呼べる御者のロイや教育係のヨホなんかもいて、従兄のジケイと一緒に由緒正しく甘やかされて育った。だから、こんなのはハッキリ言って耐えられない。
まわりに誰もいないんだよ。せめて猫ちゃんでもいいからいて欲しいのに。
淡いクリーム色の壁が窓から差し込んでくる夕方の光で優しい色に見える。本当ならこういう時は、給仕のマニちゃんとお茶タイムのはず。ついこの間までは間違いなくそうだった。私と同い年のマニちゃんは、茶色に染めた髪の毛をクルクルと立て巻きにしていて、メイクすれば私より可愛い。ときどき彼女が着ている給仕服の予備を借りて、一緒になって館中をメイドごっこと称して練り歩いたりもした。すると、彼女のお父さんでもある料理長が出てきて、これでもお食べって、夕飯に用意していたデザート用の生クリームと果物なんかを貰えた。
一面がガラス窓になっているあっちの方へ行けば…。ううん、仮にもしそこからうちの館が見えたとして、今はそこへ戻る手立てが…。手立てが?!ある!
両手をパッと広げて手のひらから「出てこい、出てこい」って念じる。別にそこまで気合い入れなくても、本当はスッと出てくるんだけど。でも今は、カードで占いをするときみたいに一生懸命に念じながらそれを出した。
考えてみればこれが始まりだったのかもしれない。従兄にそそのかされてあんな洞窟に行かなきゃよかったとか、ジョジさんに最初に会った時にひとりだけ逃げなければよかったとか、色々と後悔したけど。
手の上にコロンと転がった銀の鈴は、私をこんな不可思議な日常に巻き込んでおいて、何を言うでもない。…ごめんとか言ったらかわいいのに。…いや、鈴がごめんとか言い出したらそれこそ不可思議すぎるわ。
そうして私は、鈴を手に取って願った。
ミラクがいるところへ、私を連れてって、と。
甘やかされて育った私は、だからだろうか、とても負けず嫌いだ。因果関係がわかっている状況で、何をどうしたらいいか自分でわかっていたなら、決して負けを認めようとは思わない。
学校のいじめ問題は、そこへいくと因果関係がわかりづらい。誰がそれを仕掛けているのかも、誰が本気でいじめたいと思っているのかも、いじめられる側になってしまうとまったくと言っていいほどわからない。ミラクはそういう意味では運がよかったのかもしれない。リーダーが誰だとはっきりわかれば、そこに対処していきさえすればいずれは問題もなくなっていく。
「君はなかなか聡明なところがあるね。」
言い終わると同時に、目の前でスーッと消えた。そっちの方が驚いた。
「なんだったんだろう、いったい…。」
まったくもって見当がつかない。ミラクのお父さんて、なんかうちの父に似たところがあるかもしれない。ちょっとお茶目で、どこか抜けてて、でも本当は抜かりなくて。見た目は全然だけど、服装の趣味なんかはものすごく気が合いそう。ふたりで話でもしたらけっこう盛り上がって、あの変な服でブランドとか立ち上げちゃわないかな。そんんでそのブランドが思いのほか大当たりして、気がついたら今よりもっと大金持ちになっちゃったりするの。
そんな妄想でとりあえず気持ちを落ち着けて、とりあえず今は一息つこう。このところ色々なできごとが多すぎ。早いところなんとかしないと。って、自分じゃどうしようもないんだけど…。
そうしてあれから一時間が過ぎた。なんて言ったらなんかそれっぽい物語みたいに思えて、今この現状から逃避できるかな、って思ったんだけど。無理だよね、やっぱり…。
私は生まれてこの方、お父様とお母様の庇護のもと、じいやとばあやとも呼べる御者のロイや教育係のヨホなんかもいて、従兄のジケイと一緒に由緒正しく甘やかされて育った。だから、こんなのはハッキリ言って耐えられない。
まわりに誰もいないんだよ。せめて猫ちゃんでもいいからいて欲しいのに。
淡いクリーム色の壁が窓から差し込んでくる夕方の光で優しい色に見える。本当ならこういう時は、給仕のマニちゃんとお茶タイムのはず。ついこの間までは間違いなくそうだった。私と同い年のマニちゃんは、茶色に染めた髪の毛をクルクルと立て巻きにしていて、メイクすれば私より可愛い。ときどき彼女が着ている給仕服の予備を借りて、一緒になって館中をメイドごっこと称して練り歩いたりもした。すると、彼女のお父さんでもある料理長が出てきて、これでもお食べって、夕飯に用意していたデザート用の生クリームと果物なんかを貰えた。
一面がガラス窓になっているあっちの方へ行けば…。ううん、仮にもしそこからうちの館が見えたとして、今はそこへ戻る手立てが…。手立てが?!ある!
両手をパッと広げて手のひらから「出てこい、出てこい」って念じる。別にそこまで気合い入れなくても、本当はスッと出てくるんだけど。でも今は、カードで占いをするときみたいに一生懸命に念じながらそれを出した。
考えてみればこれが始まりだったのかもしれない。従兄にそそのかされてあんな洞窟に行かなきゃよかったとか、ジョジさんに最初に会った時にひとりだけ逃げなければよかったとか、色々と後悔したけど。
手の上にコロンと転がった銀の鈴は、私をこんな不可思議な日常に巻き込んでおいて、何を言うでもない。…ごめんとか言ったらかわいいのに。…いや、鈴がごめんとか言い出したらそれこそ不可思議すぎるわ。
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