青い扉と銀の鈴 - 世間知らずのお嬢様と魔王討伐の生き残りと魔王の息子とが出逢った頃の物語

仁羽織

文字の大きさ
60 / 62
期待と尊敬と残念さとが重なる偶然

6

しおりを挟む
 「父は、あれですから。息子として謝ります。危険なところへ来させて申し訳ありません。」

 ミラクはそう答えると、フォークを皿において同じように右手を挙げた。そして、私とミラクの手がパチン!と音をたてて交差する。

 「でもおかげで、本当に助かりました。このお二人がどうしても本音を明かしてくれませんでしたので、ベントスの力だけじゃどれくらいかかるかわからなかったんです。」

 ミラクはそう言うと、少し離れたところに座り込んでいるあの二人の登山客みたいな人を見た。

 「あちらにいるジョジさんの妹さんみたいに、弱みにつけこむような洗脳とでも言うんでしょうか、そんなものがされてました。僕と母を倒すことが正義って、それって何なんでしょう。なんだかこの方たちと話をしていて、そうさせた人がいるって知って、それがとても怖かったです。」

 お母さんの手から皿を受け取り、そう言いながらミラクは地面に座り込んだ二人のところまで近づいていった。そうして二人にお皿とフォークを差し出すと、そのまま戻ってきてこう言った。

 「そしたら、父のところへ行きましょう。話すと言ったのは父なんですから、責任をもってちゃんと全部を話してもらって来ましょう。」

 その言葉に、私は異議はなかった。

 「それが終わったら、レイミリアさん、遅くなりましたけど道具のクーリングオフ、手続きにのっとって責任もって解約をさせていただきます。」

 ミラクはそう言うと、お母さんのもとへと行き、何かいろいろと話しているようだった。

 そして帰り支度がはじまった。争っていた登山客ふうの二人と、ジョジさんの妹さんにも手伝ってもらえて、思いのほかその作業は早く済んだ。ただその間ずっと、私は思い悩んでいた。どうしようって…。

 そうこう思い悩んでいるうちに、ミラクが銀鈴の力で全員を移動させはじめる。辺りがだんだんと白く輝いて見えて、ついたのはだった。


 「私はね、あなたのお父さんに、『何をすればいいのか、何のためにそれをするのか、どうやってそれをしたらいいのか』を説明してもらってから決めるって言ったのよ!なのになに?あの人。あの人ってアレなの?ねえ、ミラク!聞いてるの!?なんでこうなるのよ!」

 大広間で一同が揃ってすぐあと、そこにミラクのお父さんも現れて、ちょっとしたパーティーみたいなのが開かれた。うちのお父様とお母様は私が無事に戻ったことに狂喜おおよろこびし、そこに従兄のジケイが帰ってきてまた大喜びをされ、御者のロイも教育係のヨホも、料理長もマニちゃんもみんなみんなが大喜び。そうしたら居合わせたジョジさんの妹さんも、錬金術士だか法術士だかわからないあとの二人も無理矢理に参加させられて、ミラクのお母さんもジョジさんまで、飲んで食べて歌って笑ってと、とにかくお祭りのような騒ぎになった。

 さらにその騒ぎを聞きつけて、近くに住む人達が苦情でも言いに来たんだと思う。なのにそれをうちのお父様ったら、家にどんどんあげて食べ物飲み物をこれでもかって振舞うふるまうものだから…。夜になるころには噂が噂を呼んで、街中で本当のお祭りみたいになっちゃった。

 そんなだったから、約束していた話はミラクのお父さんからは聞けそうになかった。夜がふけ始めたころになって、ジョジさんは更に酔っぱらって妹さんに説教をしはじめていたし、うちのお父様とミラクのお父さんはふたりして仮装みたいな趣味の洋服を自慢し始めて、近所のおじさんやおばさんも似たような服を家から持ってきたり着てきたりして、そしたらみんなで庭に大きな舞台みたいなのを作り始めて、ついにはそこでファッションショーが始まってしまったりもした。

 こうした大騒ぎの中で、私はこれからどうするかをまだ悩んでいた。本音は、今までどおり、このまま何事もなく、つつがなく平穏な日常の中で甘えていたい。それは確かだ。けれど、家の人じゃない他の人達と会って、いろんな意見を聞いて、いろんなできごとを見て、いつもと違う世界を見てこれた。それはそんなに嫌なことじゃなかった。だから、どうしたらいいか悩みが終わらない。それに、私、というかこの国に住む私達って本当は人間じゃないのっていう疑問だって残ってる…。たそかれの世界って何?ってのも棚に上がったまま…。

 そんな私の悩みなんかはお構いなしに、夜が完全にふけ切ったころになると地元のテレビ局までこの大騒ぎを聞きつけたらしくて、更に祭りが盛り上がりだしていった。こうなるとこれはこのまま、朝まで大騒ぎだなと思った。なので私はお母様にだけ言って、自分の部屋に避難することにした。

 部屋に戻ってみると、窓の外に大きな月が見えた。まんまるでとても気持ちが落ち着く。そこでこっそりと銀鈴を出して、手のひらで包みながら小さくお願いをしてみた。

 「ここでずっとこんなふうに、みんなと一緒に楽しく暮らせますように。」

 すると銀鈴は、何の反応も見せず、ただ黙って私の手の中で転がったまま…。たぶん純粋な願いじゃあなかったみたいだ。それなら、と思い、別のことを願ってみた。

 「お父様とお母様と、従兄のジケイ、教育係のヨホ・マノジ、御者のロイ・スティ、料理長のビシュス・フランク、給仕のマニ・エステバン、馬車引き馬の、セロリ、パセリ、キャロット、レタス、愛猫のクラウス。みんながいつまでも幸せを感じられて、ずっと元気で過ごせますように。」

 すると今度は、銀鈴が小さく光って、私の手のひらの中で浮かびあがった。

 「そっか、そういうことなんだ私…。」

 最後にもうひとつ、小さな声でお願いをして、銀鈴がさっきよりも強く光るのを確かめてから、私はお風呂へと向かった。これまでの汗や汚れをすっかりと綺麗に洗い流して、明日に備えてぐっすり寝よう。そう考えたからだ。なんだかいろいろ頭の中がスッキリとしたからかもしれない。

 こうして一晩、懐かしい自分のベッドで久しぶりにのんびりと眠った。そして起きたら…そこはまた見たことのない場所。海って言ったろうか、テレビでしか見たことがなかったけど、目の前いっぱいに広い大きな水面が見える。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...