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僕たちは神社の奥へと移動する。
社の裏側が戦いの舞台となった。
ここは変質者から春菜を守った場所。まさかその場所で中二病の男子小学生と戦うことになるとは。
僕と前田少年は対峙する。
前田少年は構える。その構え方が様になっている。
僕も構える。構えないのは相手を舐めていることになるからだ。それは相手に対して失礼だ。そんな礼儀に反することを前田少年にしたくなかった。
彼は真剣に僕と戦おうとしている。それは目を見ればわかる。そんな真剣な人に対して礼儀に反することをしたくなかった。
そんな自分を心の中で笑う。僕の中にもまだ中二病な部分が残っているじゃないか。それが恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
「行くぞ」
前田少年が攻撃を仕掛けてきた。中段蹴りだ。良い蹴りだ。小学生にしては良い蹴りだ。
僕が小学生だったらその蹴りを避けられなかったかもしれない。
でも僕は高校生だ。前田少年よりも体格や筋力に勝っている高校生なのだ。だから僕は少年の蹴りを余裕を持って躱すことができた。
もちろん少年の攻撃を躱せた理由は肉体的な差だけではない。鍛錬を止めていたとはいえ、僕自身の中には武道の技術はしっかりと残っている。全国レベルの技術は残っていないが小学生に負けるほど技術は衰えていない。その技術もあったから少年の攻撃を躱せたのだ。
僕は少年の攻撃をすべて交わしたり、受け止めたりした。
「どうして攻撃してこない。俺を舐めてるのか?」
「違う。キミの実力を計ってるんだ。前田くん。キミは強いよ。でも僕には勝てない」
「俺は勝つ。勝つまで諦めない」
「勇者だから諦めないのか?」
「そうだよ。勇者はどんな強い敵と出会っても決して諦めないんだ」
「確かに勇者には諦めない強さも必要だよ。でも勇者でもときには諦める強さも必要だ。負けて死んでしまったら意味ないだろう。これはゲームではないんだ。現実なんだ。現実の勇者は諦める強さも必要なんだ」
「うるさい。勇者でもないお前が勇者を語るな」
「僕もかつては勇者だったんだ」
僕はカミングアウトする。
前より恥ずかしいと感じなくなっている。春菜のおかげだろう。
「嘘だ」
「本当だよ。その勇者だった頃、春菜を救ったんだ」
「本当だよ」春菜が言った。「誠さんは本当に勇者だったの。勇者だった頃に私を救ってくれたの」
「勇者だっただろう。今は勇者ではないんだろう。勇者になることを諦めたんだろう。そんな奴の言葉俺は聞き入れない。この生命尽きるまで戦い続ける。高梨にふさわしい男は勇者を諦めてない俺だ。お前ではない」
「一度は諦めたよ。でも今の僕は再び勇者を目指している」
「嘘だ」
「本当だよ。春菜が僕に再び勇者になることを決意させてくれたんだんだ。だから僕は勇者を目指す。本気でね。キミも春菜のおかげで勇者を目指し続けようって思ったんじゃないのか?」
「そうだよ。みんな俺のことを中二病だって笑ってた。でも春菜だけが俺のことをカッコいいって言ってくれたんだ。諦めずに頑張ってと言ってくれたんだ。だから俺は春菜を好きになったんだ」
中二病の僕に救われた春菜なら中二病の前田少年にそう言うだろう。
元中二病の僕には前田少年が春菜を好きになった理由も容易に理解できた。もし僕が中二病だった頃に春菜のように自分を肯定してくれる少女がいたら僕はその少女を好きになっていたと思う。孤立無援の中で私だけはあなたの味方よと言われたようなものなのだ。好きになるのは自然なことだ。
「前田くんの気持ちは嬉しいよ。でも私は誠さんが好きなの」
「俺は認めない。こんな男が高梨の彼氏だなんて認めない。一度勇者を諦めたような奴を俺は認めない。きっとまた諦めるはずだ。そして高梨を失望させるはずだ。そんな奴を俺は認めない」
「僕は諦めないよ」
もちろん、子供の頃に目指した勇者と今目指している勇者の概念は違う。それでも勇者は勇者だ。その勇者になることを僕は諦めるつもりはない。
「口ではなんとでも言える。俺は戦う。勝つまで戦い続ける。諦めずに戦い続ける。そして俺が高梨にふさわしい男だと証明する」
これは・・・口で言ってもダメな気がする。どうする?勝負に勝つのは簡単だ。でもそれでは問題の解決にはならない気がする。どうすればいいんだ?
そのとき、「何してんだ?」という声が聞こえてきた。
社の裏側が戦いの舞台となった。
ここは変質者から春菜を守った場所。まさかその場所で中二病の男子小学生と戦うことになるとは。
僕と前田少年は対峙する。
前田少年は構える。その構え方が様になっている。
僕も構える。構えないのは相手を舐めていることになるからだ。それは相手に対して失礼だ。そんな礼儀に反することを前田少年にしたくなかった。
彼は真剣に僕と戦おうとしている。それは目を見ればわかる。そんな真剣な人に対して礼儀に反することをしたくなかった。
そんな自分を心の中で笑う。僕の中にもまだ中二病な部分が残っているじゃないか。それが恥ずかしくもあり、嬉しくもあった。
「行くぞ」
前田少年が攻撃を仕掛けてきた。中段蹴りだ。良い蹴りだ。小学生にしては良い蹴りだ。
僕が小学生だったらその蹴りを避けられなかったかもしれない。
でも僕は高校生だ。前田少年よりも体格や筋力に勝っている高校生なのだ。だから僕は少年の蹴りを余裕を持って躱すことができた。
もちろん少年の攻撃を躱せた理由は肉体的な差だけではない。鍛錬を止めていたとはいえ、僕自身の中には武道の技術はしっかりと残っている。全国レベルの技術は残っていないが小学生に負けるほど技術は衰えていない。その技術もあったから少年の攻撃を躱せたのだ。
僕は少年の攻撃をすべて交わしたり、受け止めたりした。
「どうして攻撃してこない。俺を舐めてるのか?」
「違う。キミの実力を計ってるんだ。前田くん。キミは強いよ。でも僕には勝てない」
「俺は勝つ。勝つまで諦めない」
「勇者だから諦めないのか?」
「そうだよ。勇者はどんな強い敵と出会っても決して諦めないんだ」
「確かに勇者には諦めない強さも必要だよ。でも勇者でもときには諦める強さも必要だ。負けて死んでしまったら意味ないだろう。これはゲームではないんだ。現実なんだ。現実の勇者は諦める強さも必要なんだ」
「うるさい。勇者でもないお前が勇者を語るな」
「僕もかつては勇者だったんだ」
僕はカミングアウトする。
前より恥ずかしいと感じなくなっている。春菜のおかげだろう。
「嘘だ」
「本当だよ。その勇者だった頃、春菜を救ったんだ」
「本当だよ」春菜が言った。「誠さんは本当に勇者だったの。勇者だった頃に私を救ってくれたの」
「勇者だっただろう。今は勇者ではないんだろう。勇者になることを諦めたんだろう。そんな奴の言葉俺は聞き入れない。この生命尽きるまで戦い続ける。高梨にふさわしい男は勇者を諦めてない俺だ。お前ではない」
「一度は諦めたよ。でも今の僕は再び勇者を目指している」
「嘘だ」
「本当だよ。春菜が僕に再び勇者になることを決意させてくれたんだんだ。だから僕は勇者を目指す。本気でね。キミも春菜のおかげで勇者を目指し続けようって思ったんじゃないのか?」
「そうだよ。みんな俺のことを中二病だって笑ってた。でも春菜だけが俺のことをカッコいいって言ってくれたんだ。諦めずに頑張ってと言ってくれたんだ。だから俺は春菜を好きになったんだ」
中二病の僕に救われた春菜なら中二病の前田少年にそう言うだろう。
元中二病の僕には前田少年が春菜を好きになった理由も容易に理解できた。もし僕が中二病だった頃に春菜のように自分を肯定してくれる少女がいたら僕はその少女を好きになっていたと思う。孤立無援の中で私だけはあなたの味方よと言われたようなものなのだ。好きになるのは自然なことだ。
「前田くんの気持ちは嬉しいよ。でも私は誠さんが好きなの」
「俺は認めない。こんな男が高梨の彼氏だなんて認めない。一度勇者を諦めたような奴を俺は認めない。きっとまた諦めるはずだ。そして高梨を失望させるはずだ。そんな奴を俺は認めない」
「僕は諦めないよ」
もちろん、子供の頃に目指した勇者と今目指している勇者の概念は違う。それでも勇者は勇者だ。その勇者になることを僕は諦めるつもりはない。
「口ではなんとでも言える。俺は戦う。勝つまで戦い続ける。諦めずに戦い続ける。そして俺が高梨にふさわしい男だと証明する」
これは・・・口で言ってもダメな気がする。どうする?勝負に勝つのは簡単だ。でもそれでは問題の解決にはならない気がする。どうすればいいんだ?
そのとき、「何してんだ?」という声が聞こえてきた。
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