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本編
魔法誓約とマルサの心配
しおりを挟む「はいは~い、私、チリめに、な、何かご用で?」
「チリさん!魔法誓約書を書いてもらいたいんだよ。この人たちと、この赤ちゃんと、俺との間でね。いきなり頼んで書けるものかな?」
竜樹がチリに頼むと、ニコ!とチリは笑って。
「おお!こ、こんな事もあろうかと、誓約書用の紙を持ち歩いております!まぁ、他にも色々持ち歩いているんですがね!すぐにも書けます!仮に作った、工事用の事務所での誓約にしましょうかね。赤ちゃんは、お名前ありますかね?名前が必要なんですが。」
「名前は?」
男と娘にみんなの顔が向く。
「ね、ねぇよ!」
「名前ないし、今日は日が悪いから、連れて帰ります!」
何の日だよ。呆れてみんなが半目になる。
「連れて帰って、面倒みられるの?邪魔にするんじゃないの?途中で嫌になって、今度は街に捨てるんじゃないの?育てた所で、自分が面倒見て欲しいからだけなんじゃないの?名前は俺がつけます。一度手にした赤ちゃんを、あやふやな所になんかやれないよ!」
竜樹は、赤ちゃんをよいよいしながら、男と娘から遠ざけた。あう、あう、と、粗雑な布のおくるみに包まれた赤ちゃんは竜樹を見上げて、布の中から出した手を動かして。口がちゅむちゅむしている。気温は寒くはないが、布の中は裸で、なんだか心もとない。
王子達とジェム達は、竜樹を取り巻いて、赤ちゃんを守る。だって街になんか赤ちゃんを捨てさせられない。エフォールだって車椅子で、竜樹の前へ出た。
「魔法誓約書なんて嫌よ!何をさせられるっていうのよ!」
「そ、そうだぜ!ただアンタは、子供を貰ってくれりゃそれでいいだろ!俺は帰る!」
騎士達が帰ろうとする男を剣で押し留める。威圧に押し負けて、男は地団駄を踏んだ。
「名前は何にしようかな?」
「アレキサンダー二世!」
またそれか。
ワハハと笑って、う~んう~んと考えながら、工事の事務所へ向かう。
男と娘も、騎士に押しやられて、ぐちゃぐちゃと文句を言いながら、ついてくる。
「人と仲良しの名前、縁起のいい、自由自在にカッコよく飛ぶ鳥、ツバメなんてどうだろう?」
「ツバメ?」
「竜樹のいた国の鳥か?」
「そうだよ。ツバメは、人の家の軒下とかに巣を作るんだ。巣を作られた家は、縁起がいいって喜ぶ。俺の所に、よく来てくれたね、って事だ。」
「ツバメ!ツバメくん!」
「おーい、君の名前は、ツバメだよ!」
ちゅむ、と口を動かす赤ちゃんに、子供達が名前を呼びかける。
ツバメ、と名付けられた赤ちゃんは、知らぬげに、まだはっきりとは見えないだろう目を、くりくりした。
「タカラ、赤ちゃんのお乳と、おしめと、服を用意できる?あと夜までに、子育て経験のある、信頼できる侍女さんを一人、見つけて欲しいな。これから誓約書を書いたら、寮に戻るから、お乳はそこであげよう。」
「はい!お乳が出ないお母さんの為に、赤ちゃんが飲める一角ヤギの乳がありますから、それを用意しますね!赤ちゃんのミルク瓶も必要ですね!諸々、ご用意しておきます。」
ささっと準備の為にタカラが立ち去って。竜樹達は監督に一声かけて工事用の事務所へ入った。
チリは、お馴染みのガラガラカートを事務所に置いていたらしく、ゴソゴソその中から1枚の紙と、インク瓶と、ペンを取り出した。
「さて、どんな誓約にしますか?」
「この男の人と娘さんが、ツバメに悪く関わらないように誓約したいんだ。お金の厄介や、一切の面倒見をさせたくない。後はーーー誰と仲良くなっても、婚前交渉をする際は、避妊をしないと出来ないように。こんな所か。」
チリは、目をパチパチさせて、ツバメと男女を見る。そうして、ニヤァと笑うと。
「良いですね!恥をも知らぬ若者に、程よく自重を促しましょうか。それで、誓約を破りそうになったら、どうなる事にします?命まではとらなくても、心の臓を痛くさせたり、目が見えなくなったり、喋れなくさせたりも出来ますよ。それともやっぱり、命かけます?」
「ヒェッ!」
「お、お許しください!関わりませんから、一切!」
誓約を拒否する時点で、将来うっかり関わる気がしてるんだなぁ、と思えるではないか。
「これは誓約しとかないとですね。」
チリが言えば。
「だな。お前ら、観念しろよ。竜樹がやるって言ったら、大抵はやるんだよ。そういう立場がギフトの御方様なんだ。竜樹がいくらお人好しだからって、誰にでも良い顔するのが、ギフトの御方様じゃねぇんだよ。」
マルサが退路を断つ。
「まぁ、命まではとらなくていいよ。ただ関わる気を無くすような事であれば。嘘偽りなく改心して、本当にツバメに会いたくなったら、会うだけは出来るように、とも思うけど。これから君達がどんな人生送るかわからないしね。」
人って、経験した事で、変わる事もあるからね。例えば今後結婚して、本当に子供が欲しくなっても子供ができないとかね。
「必ず今後妊娠出産できる、なんて、保証はないんだからね。」
竜樹が言えば、男女は、シンとして、それでもツバメを育てるとは言わなかった。
◎ツバメは竜樹が父となり育てる事。
◎男「ルナール」と、女「エリァル」は、ツバメから今現在より将来に渡って、金銭及び金銭的価値のあるいかなる物の受け取りを行わない事。
◎ルナールとエリァルは、今現在から将来に渡って、仕事上でも、生活上でも、間接的にも、ツバメに関わる事をしない事。
◎ルナールとエリァルは、今現在から将来に渡って、ツバメにいかなる損害も与えない事。
◎ルナールとエリァルは、上記の項目に違反しない限り、ツバメと竜樹が許可した一度だけ、竜樹同席の上、ツバメに会う事が出来る事。その会合までのやりとりは王宮内竜樹宛の郵便で行う。
◎ルナールとエリァルは、今後一切、誰を相手にした時でも、避妊しなければ婚前交渉ができない事。
◎上記に違反しようとした場合、ルナールとエリァルには、身体中に激しく痛みを生じる事とする。その痛みの解除は、上記項目の遵守をもって解除となる。
「こんな所ですかね。」
サラサラと誓約書にチリが書いた項目を、大人たちみんなで確認をすると、うんうんと頷き合った。
ちなみに偽名を述べようとした男、ルナールと、女、エリァルだが、何でも持ってるチリが、トンデモアイテム嘘発見器、白状石を持っていたので、キリキリと本名を白状させられた。今も、騎士達に押さえられながら。
竜樹とツバメ、ルナールにエリァルが、サイン(ツバメは指紋押印)した後、指先に針を刺し血を一滴ずつ垂らして紙にぎゅっと押す。チリが呪文を唱えて紙に誓約魔法をかけると。
インクで書いた文字が、ふわっと紙から浮き上がり、4人をとりまき、心臓の中にシュルシュルと入っていった。
残るのはひらひら、白い紙1枚ばかり。
「誓約は成された。各々粛々と誓約を守るよう。」
チリの厳かな宣言に、フニャリとルナールとエリァルはその場にしゃがみ込んで、脱力した。
竜樹は、ここで別れたら本当にあと一回しか、ツバメには会えないよ、と言おうと思ったが、ルナールとエリァルは、ツバメの事を振り向きもせずに、騎士達がどいて開けた、入り口までの道を、ふらふらそそくさと帰って行った。
「ツバメ、いいこよ。ししょうがお父さんだのね。」
「そうだよ。竜樹父さんだ。みんなはお兄ちゃんだぞ。」
ハハハ、と竜樹は笑い。
「この国での養子縁組は、手続きどうなってるのかな。早速やっとかないとね。」
と、ひとまず寮に帰る事とした。
「俺は、いつかこんな事があるんじゃねぇかな、とは思ってたよ。」
マルサが、ふーとため息をつき。
「新聞売りのこいつら、普通の平民の子よりも、事によっちゃあ、待遇が良いんだもんよ。生活が苦しい家なんて、いっそ竜樹に子供を預けたい、なんての、割といると思うぜ。」
「羨ましいね、って俺らも良く言われるよ。」
ジェムが頬をポリ、と掻いて。
「でも、健康に暮らして、大人になって、ちゃんと生活していけるようにと思ったら、そうなっちゃったんだよ。」
仕方ないだろ。
竜樹達一行は、子供に合わせた足で、ゆっくり寮まで歩きつつ。
「まぁ最初があいつらみたいに責任感のない親だった、てのは予想外だが、今後もこういう事は起こると思うぜ。何たってギフトの御方様の後ろ盾だろ。みんな今は遠慮してるけども。」
むーん。
「両親や片親が働いてる子の、幼稚園とか必要かなぁ。お母さんシェルターとか。あとは、新聞配達にも子供を雇って、ご飯食べさせて、遊ばせて、午後勉強させるか。」
今のところ新聞配達は大人がやっているのだが、朝が早いので、合う人と合わない人がいて、今は入れ替わりも激しい。それに、続々と契約する家が増えているのだ。
「配達は、地方にも広がるといいよね。後は何とか金策か。うーん。」
竜樹が考え始めると、マルサは。
「そこで新聞売りのガキ達の待遇を落とすんじゃなくて、周りを上げようとするとこが、なんか竜樹らしいというか。」
ふはっ、と笑った。
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