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17.他愛のない話
しおりを挟む「……別に、いいだろ。頑張らなくても。死ぬわけじゃねえんだし」
「え?」
肩の力が抜けるような、乾いた声だった。
「勇者だからって、絶対的に強くある必要なんてない。誰にも戦えって命令する権利もないし、戦わないからって、失望される筋合いもねえだろ」
リアンは目を瞬く。
思いもよらない返し方だったからだ。
「……でも、仲間だったのに」
「仲間でもなんでも、期待して勝手に失望してくる奴のために、お前の人生をすり減らすなんて馬鹿げてる」
ゼルファスは少しだけ顔をそらして、続けた。
「やりたきゃ、そいつがやれ」
リアンの胸がじんわりと熱くなる。
慰めの言葉じゃない。
誰かを否定するわけでもない。
ただゼルファスという人間が、そのままの言葉で寄り添ってくれた。
「……ゼルファスは、さ。やっぱりたまに優しいよね」
「たまにって言うな」
「だって普段は怖いもん」
「は? どこが」
「全部」
「……ほんっと失礼なやつだな」
そんなゼルファスの反応が可笑しくて、リアンは頬を緩めた。
さっきまで胸の奥にあった苦しさが、少しずつ薄れていく。
「ありがと。……ねえ、ゼルファス」
「あ?」
「俺に出来ることがあったら、いつでも言ってね」
ゼルファスはため息をつきながら、マグをひと口飲んだ。
「……目ぇ閉じろ」
「え?」
「寝ろって言ってんの。どうせ起きてたら、またウジウジするだろ。そうなるくらいなら、いっそ休め。寝ろ」
相変わらず言い方は乱暴なのに、その声は優しかった。
本当はもう、大丈夫なんだけど。
聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いてから、リアンは顔を上げた。
「えー、どうしようかなー?」
「リ~ア~ン~?」
「うそだって。大丈夫、寝るよ。……もう、ウジウジもしない」
リアンは素直に布団へ潜り込む。
ゼルファスは灯りを落とし、出口に向かった。そしてドアに手をかけた、その時。
「……ねえ、ゼルファス?」
「なんだよ」
ゼルファスの足が止まる。
「やっぱり少しだけここにいない?」
「なんだよ急に子供みたいに。あ、まさか寂しくなったとか?」
「……うん」
暗がりの中、返事はすぐには返ってこなかった。
でもドアは開かない。
「あれ? ゼルファス……?」
「……寝付くまでだぞ」
静かな答えとともに、ゼルファスがベッドに近づいて腰を下ろす。
見えないのに、ベッドの端に背をもたれたのが分かる。
それだけで、リアンの胸の奥がじわりと満たされていく。
「ありがと……」
「別に。風邪ぶり返されたら面倒なんだよ」
ゼルファスの声は相変わらず素っ気ない。
なのにその距離はとても優しい。
リアンは目を閉じる。
ゼルファスの気配がそばにあるだけで、今夜だけは弱い自分でもいいと、そんな風に思えた。
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