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22.パンを買うだけの回
しおりを挟む四季先輩は、相変わらず落ち着いた笑みを浮かべていた。
この状況を前にして、なんでそんなに呼吸が一定なんだろう。
こっちはもう心臓が戦場入りしてるのに。
「四季先輩、ここ……危ないですよ? 本当に入るんですか?」
「うん。俺、ここのあんぱん好きだからさ」
え、それだけの理由で!?
いくら好きだからって、何もこんな戦場に立ち向かわなくても。
私は辺りを見回したこんな時、弟のみーくんなら、その身を案じて真っ先に止めるはず……。
「……あれ? いない?」
「一宮さん、あそこあそこ」
私の反応を察した七海君が柱を指差す。
みーくんが遠く柱の影で待っていた。
無表情を装っているが、チラチラとこちらを気にしている。かわいいな。
「こっちに来ればいいのに。俺、呼んでくるね!」
「七海君ありがとう」
軽い足取りの彼を見送り、四季先輩の方を見ると、いかにも突入直前の先輩と目が合った。
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
「だけど、あの波に入ったら――」
止める間もなく、四季先輩は一歩前へ進んでしまった。
――すると。
周囲の生徒の空気が、一瞬で変わった。
「あっ……四季先輩だ……」
「ひぇ……あの平和の使者が……」
「道を……開けろ……ッ!」
……え。
なんか、モーゼみたいな現象が起きている。
混雑でギチギチに詰まっていた生徒たちが、ざざ~~っと左右に避けていくではないか。……なんで?
「えっ、ちょっと、何これ!?」
「まるで……海割れだな……」
「いや割れてるの海じゃなくて購買の列ですよ?」
私が唖然としている横で、会長は素直に感動していた。
「まるで姫を迎えに行く王子様だな」
「二千翔君も悪ノリしないで」
そんな中、本人は涼しい顔でずんずん進んでいく。
防御力が高いとかじゃなくて、カリスマで攻略するタイプのチートキャラだこれ。
そして、割れた道の先。
――あんぱんの棚。
ここだけ不思議とぽっかり空間ができていた。
まるで聖遺物でも祀ってあるのかってくらい、誰も触れていない。
「おばちゃん」
「ああ、いつものだね。はい、どうぞ四季くん!」
購買のおばちゃんが、
まるで常連の王族にパンを献上するかのような勢いであんぱんを差し出した。
「ありがとうございます」
四季先輩は丁寧に受け取る。
買った。
この戦場で、何事もなかったかのように買った。
その瞬間、四季先輩の背後でどよめきが起きた。
「……買った……!」
「伝説の……!」
「四季先輩は今日もあんぱんを……!」
いやなんでそんな大事件みたいになってるの。
ただのパンだよ!? あんぱんだよ!??
四季先輩は私達のところに戻ってきて、ふわっと笑った。
「はい。ちゃんと確保できたよ」
「す、すごい……!」
「何この王の風格……」
みーくんだけが、無表情のまま静かに言った。
「……兄様、買えたなら早くここを離れよう。僕はこれ以上目立ちたくない」
なるほど、だから離れて見てたのか。
そして、本日のスペシャルデラックスゴージャスパンは買っていなかった。
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