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21.女装か否かの境界線は慎重に

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 美少女が王子様に。
 そんな漫画や小説でもあまり起こらない特殊性癖のトンデモ変貌。さすがに一言説明は欲しい。

「貴方はクロム様、なんですよね?」

 不安だったので名前を呼んで確かめてみる。別人の可能性だってあるかもしれない。そうだとしたら潔く謝ろう。

「そうだね」
「ごめんなさい、間違っていたら……え?」
 
 しっとりとした風が流れる中で、目の前の青年はあっさりとそれでいて丁寧に首を縦に振った。綺麗な髪がさらりと揺れる。まさか即答で肯定されるとは思ってなかった。

「うん。俺は正真正銘、さっきまで君と一緒にいたクロム・エルレリットだ」
「あ……」

 時間が止まったような間が生まれた。
 やはり彼はあの聖女とイコールで間違いなかったのだ。

「隠していてごめん」
「い、いえ」

 別に責める気は無い。だって私はその事実を知らなかった事で不利益を被ったわけでは無いのだから。
 でも、気になることはあった。

「じゃ、じゃあ今までの姿は女装していたってことですか?」

 私は尋ねた。

「それはご趣味ですか? そういう類の呪いですか? それとも……」

 好奇心半分、現状把握半分。
 私は駆け引きもなく、思ったこと言葉を口にしていた。

「これは私が見ている夢ですか?」
「ふひゃひゃっ」

 隅の方でデレイと呼ばれていた男が薄気味悪い笑い声をあげた。生憎だが私には面白いことなど何も無い。

「……」

 少女だった時とは違い、背が高くなった彼の姿を私は不安な気持ちで見上げた。彼がもし女装好きの変態だったら、私は被害は被ってないものの、危険な相手と関わってしまったことになる。
 けれど私は、そうこう思い悩んでいるうちに、さっきの自分の発言が変だったことに気が付いた。

「……違うか。そんなはずはない」

 意識的に指を顎に当てる。まるで探偵にでもなったような気持ちで私は呟いた。

「背恰好が変わっているんだから、これは女装じゃないんだ……」

 少女から青年へ。身長だけなら厚底の靴を履けばそれなりの高さにはなるだろう。しかし体つきなどに関しては誤魔化しようがない。
 今の彼は、少女だった時に比べ、明らかに体格が違う。声も、髪の長さも。女装ではない。

「当たり前だろう」

 そうハッキリと男が答えた。

「クロム様のそれは女装ではない」
「あ、ご、ごめんなさい」
「ったく」

 長いローブを羽織った男は、不満そうに赤い瞳でこちらを睨みつけた。

「いいか、よく聞け。クロム様はな、そのお体に聖女である妹様の魂を有している特別な方なんだよ」
「は? え?」

 女装だと言われた方がまだ理解しやすかった。
 どうしよう、話に全然ついていけない。


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