愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜

榊どら

文字の大きさ
26 / 119

SIDE1-2 レイモンド・リコッタ

しおりを挟む
 レイモンドは成長するごとに、自分を知った。

 勉強も、運動も、人の半分の努力で人より上手くこなせること。
 容姿に恵まれていること。
 家は裕福な伯爵家で、欲しいものはなんでも手に入ること。

 それに比べてアデレードは侯爵家の令嬢ということ以外は凡庸だった。だというのに、


(なんで俺ばっかり)


 という考えがレイモンドを支配した。

 レイモンドは随分早くから恋愛感情としてアデレードを好きだったけれど、のほほんと鈍いアデレードは、チョコレートケーキが好きなのと同じくらいの熱量でレイモンドを好きだという状態が長く続いていた。

 アデレードの「好き」は自分のそれと比べて安っぽい。だから、レイモンドの怒りは段々蓄積していった。

 学園に入学してからは、殊更にそんな気持ちが膨れ上がった。

 単純明快にいえば「この俺様がお前如きを好きになってやったんだから、お前はその倍俺を好きになって俺に尽くせ」という傲慢な思いが湧いた。

 だが、レイモンドに言い寄ってくる令嬢は沢山いたけれど、アデレードが慌てたり焼きもちを焼く様子はなかった。

 自分はアデレードが他の人間と仲良くしていると不快でならないのに、

(なぜだ?)

 とレイモンドは強く苛立った。

 アデレードは自分が他の令嬢を好きになることはないと高を括っている。自惚れている。

 同時に、レイモンドは自分の気持ちを見透かされていることが、恥ずかしかったし、悔しかった。

 実際には、アデレードはただ誠実にレイモンドを好きでいて、自分が他の男の子に靡かないから、レイモンドもそうだと呑気に思っていただけだった。

 しかし、二人の気持ちは大きく剥離してしまっていた。

 だから、レイモンドはわざと他の女の子を優先してみせた。

 流石に露骨にそんな態度をとればアデレードは傷ついた顔をした。

 レイモンドはそれで気持ちが晴れるのを感じた。

 自分ばかりアデレードを好きなことが納得できない鬱屈を、アデレードを傷つけることで埋めた。

 ちゃんと自分と同じ分だけ自分を好きになってくれないアデレードが悪い。自分の愛情は重く強く、アデレードの愛情は軽く弱い。

 アデレードはちゃんとレイモンドを好きだったのに、レイモンドはそれを認めなかった。

 その後も、試すような行為は段々エスカレートしていった。

 ただ、レイモンドの中に「結婚したらやめよう」という思いが漠然とあった。

 レイモンド自身の意識にも上がっていないことだったが「お嫁さんにならない」とアデレードが泣きじゃくったことに、そもそもの原因があったから。

 自分が傷ついた分と同じだけアデレードを傷つけたい。そしたら対等になれる。そして、結婚したら全てを精算して新しく始められる、とレイモンドは取り憑かれたように妄信していた。

 だが、メイジー・フランツが現れたことで、レイモンドの描いた未来の歯車は狂った。
しおりを挟む
感想 396

あなたにおすすめの小説

八年間の恋を捨てて結婚します

abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。 無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。 そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。 彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。 八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。 なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。 正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。 「今度はそうやって気を引くつもりか!?」

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

私のことは愛さなくても結構です

ありがとうございました。さようなら
恋愛
サブリナは、聖騎士ジークムントからの婚約の打診の手紙をもらって有頂天になった。 一緒になって喜ぶ父親の姿を見た瞬間に前世の記憶が蘇った。 彼女は、自分が本の世界の中に生まれ変わったことに気がついた。 サブリナは、ジークムントと愛のない結婚をした後に、彼の愛する聖女アルネを嫉妬心の末に殺害しようとする。 いわゆる悪女だった。 サブリナは、ジークムントに首を切り落とされて、彼女の家族は全員死刑となった。 全ての記憶を思い出した後、サブリナは熱を出して寝込んでしまった。 そして、サブリナの妹クラリスが代打としてジークムントの婚約者になってしまう。 主役は、いわゆる悪役の妹です

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

処理中です...