愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜

榊どら

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SIDE1-2 レイモンド・リコッタ

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 レイモンドは成長するごとに、自分を知った。

 勉強も、運動も、人の半分の努力で人より上手くこなせること。
 容姿に恵まれていること。
 家は裕福な伯爵家で、欲しいものはなんでも手に入ること。

 それに比べてアデレードは侯爵家の令嬢ということ以外は凡庸だった。だというのに、


(なんで俺ばっかり)


 という考えがレイモンドを支配した。

 レイモンドは随分早くから恋愛感情としてアデレードを好きだったけれど、のほほんと鈍いアデレードは、チョコレートケーキが好きなのと同じくらいの熱量でレイモンドを好きだという状態が長く続いていた。

 アデレードの「好き」は自分のそれと比べて安っぽい。だから、レイモンドの怒りは段々蓄積していった。

 学園に入学してからは、殊更にそんな気持ちが膨れ上がった。

 単純明快にいえば「この俺様がお前如きを好きになってやったんだから、お前はその倍俺を好きになって俺に尽くせ」という傲慢な思いが湧いた。

 だが、レイモンドに言い寄ってくる令嬢は沢山いたけれど、アデレードが慌てたり焼きもちを焼く様子はなかった。

 自分はアデレードが他の人間と仲良くしていると不快でならないのに、

(なぜだ?)

 とレイモンドは強く苛立った。

 アデレードは自分が他の令嬢を好きになることはないと高を括っている。自惚れている。

 同時に、レイモンドは自分の気持ちを見透かされていることが、恥ずかしかったし、悔しかった。

 実際には、アデレードはただ誠実にレイモンドを好きでいて、自分が他の男の子に靡かないから、レイモンドもそうだと呑気に思っていただけだった。

 しかし、二人の気持ちは大きく剥離してしまっていた。

 だから、レイモンドはわざと他の女の子を優先してみせた。

 流石に露骨にそんな態度をとればアデレードは傷ついた顔をした。

 レイモンドはそれで気持ちが晴れるのを感じた。

 自分ばかりアデレードを好きなことが納得できない鬱屈を、アデレードを傷つけることで埋めた。

 ちゃんと自分と同じ分だけ自分を好きになってくれないアデレードが悪い。自分の愛情は重く強く、アデレードの愛情は軽く弱い。

 アデレードはちゃんとレイモンドを好きだったのに、レイモンドはそれを認めなかった。

 その後も、試すような行為は段々エスカレートしていった。

 ただ、レイモンドの中に「結婚したらやめよう」という思いが漠然とあった。

 レイモンド自身の意識にも上がっていないことだったが「お嫁さんにならない」とアデレードが泣きじゃくったことに、そもそもの原因があったから。

 自分が傷ついた分と同じだけアデレードを傷つけたい。そしたら対等になれる。そして、結婚したら全てを精算して新しく始められる、とレイモンドは取り憑かれたように妄信していた。

 だが、メイジー・フランツが現れたことで、レイモンドの描いた未来の歯車は狂った。
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