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第32話

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 強くなる為に自分には何が足りないのだろうか?
 やはり答えは戦いの中にしかない。 そんな訳で縁のできたふわわに相談する事にした。
 彼女に伸び悩んでいるので実力を伸ばす為のとっかかりが欲しいと話すと――

 「こうしゅばっと行って、ザクっと斬れば近接は行ける行ける!」
 「……そ、そうか」

 感覚派の彼女はとにかく身振り手振りとオノマトペで説明したがる傾向にあり、ヨシナリにはさっぱり理解できなかった。 言葉で理解できないなら実地で学ぶべきだと考え、模擬戦を頼むと彼女は二つ返事で了承。
 そして今に至るのだが――

 ヨシナリの機体『ホロスコープ』の首が飛び、胴体が横に切断され上半身と下半身が分断された。
 
 ――クソ、マジで勝てねぇ……。

 少しでも接近戦の技術を盗もうと挑んだのだが、一方的に切り刻まれて終わる。
 そもそもの反応速度が違いすぎるのだ。 同じ武器で戦ったので、武器の差を言い訳にする事さえできない。
 終わると観戦していたマルメルに意見を求めるのだが「お前が成す術もなく斬り刻まれた事しか分からん」とあまり参考にならない意見しか出てこなかった。

 ちなみに当人は「ヨシナリ君は攻撃する時、ぐぐってなるからこうザクザクって行けるからそこを気を付ければ良くなるよ!」とさっぱり分からない感想を口にしている。
 次にマルメルが俺もやると挑んだのだが、あっさりとなます切りにされていた。
 ヨシナリとしてはこちらの方が参考になったのが何とも言えないが、人の戦いを見る事は有意義ではある。

 こちらは近接戦ではなく、互いに武器使用自由での模擬戦だ。
 マルメルが器用に距離を取りながら弾丸をばら撒いているが、ふわわは器用に障害物を利用して距離を詰める。 フィールドは市街地なのでビルを上手く利用していた。

 「クッソ、動きどうなってんだよ」

 センサーで大雑把な位置は分かっているので銃口を向ける先は正しい。
 だが、上下があるので突撃銃の弾丸はビルを貫通するだけでふわわを捉える事ができずに空を切る。
 小刻みに音が聞こえ、マルメルはふわわがビルを蹴って登っていると気付いて銃口を真上に向けたが、内部で何かが崩れる音が響き、反射的にそちらに銃口を向けたが遅い。

 ビルを突き破ってふわわの機体が飛び出して来た。 撃とうにも近すぎたので、間に合わず一撃目で突撃銃が銃身の半ばを断ち切られ、二撃目で首が飛んでセンサー類が死んだ。
 ようやく腰の短機関銃が火を噴くが見えてないので当たったのかの判断すらできない。 その頃にはふわわの機体はマルメルの背後に回り、背中にダガーが突き立てられた。

 マルメルは背後からコックピットを貫かれ、ビクリと大きく痙攣して沈黙。
 撃破扱いとなり、戦闘が終了した。 ヨシナリは今の戦闘を見て、なるほどと唸る。
 ふわわの動きは非常に合理的だった。 ビルを遮蔽物にして、相手の視界から消える。

 それでもマルメルの機体のセンサーは彼女の位置を大雑把だが把握していたので、ビル越しに突撃銃で撃ち抜こうと攻撃。 対するふわわはビルを蹴って登る。
 マルメルは手応えがなかった事と音で彼女が上から奇襲を仕掛けると判断して飛び出した所を潰そうと銃口を持ち上げた。 相手の武器がダガーしかないとはっきりしているので、間合いに入れさえしなければ負けはしないといった考えもあっての事だろう。

 ヨシナリもその判断は正しいと判断し、自分だったらどうするだろうか?と考える。
 結果が出ている上での意見になってしまうが、ビルに張り付いていたのは失敗だっただろう。
 ふわわはビルを飛び越えずに壁を破壊して内部へ。 支柱の一部を破壊して床を抜き易いようにし、自重で床を破壊しながら落下。 マルメルの傍まで降りてそのまま奇襲した。

 早い段階で気付いたマルメルも流石だったが、ふわわ相手には遅かったようだ。
 もう後数歩の間合いまで接近したので、勝負は決まったようなものだった。
 接近した時の立ち回りも上手い。 腰にマウントされた短機関銃の命中精度が良くない事を理解していたのか、突撃銃だけを破壊し、次いでセンサー類の集中している頭部を切断して破壊。

 マルメルは一か八かで短機関銃を喰らわせようとしたが、見えない上に狙う武器ではないので掠るぐらいはしたようだが、まともに当たらずあっさりと背後を取られて終了。
 仕留める時はしっかりとコックピットに突き立てる点も殺意が高い。 

 ――うーん。 見事だ。

 一通り見てヨシナリから出て来たのはそんな感想だ。 
 中~近距離ではまともにやって勝てる気がしない。 マルメルの意識の散らし方といい、凄まじく緻密な動きと組み立てだ。 これを感覚的にやっているのだから洒落にならない。

 ただ、勝つだけなら手段がない訳ではないので、本気で潰したいなら一工夫が必要だろう。
 倒し方は薄っすらとだが見えたのだが、彼女と模擬戦を行っているのは自身の技量向上の為のトレーニング兼、連携の組み立ての参考にする為だ。

 彼女はガチガチの近接特化。 
 反面、飛び道具はさっぱりなので使ってもさっぱり当たらないと自己申告した。
 試しに突撃銃を持たせてみたが、的に掠りもしなかった点からそれは間違いないだろう。

 苦手な事を克服する事を苦にしないタイプであるなら練習するように促しても良いが、これはゲームなので楽しむ事が最も重要なのだ。 その為、望まない事を強要する事はしたくない。
 だから、ふわわに対しては長所を伸ばす方向でアドバイスすると良い印象を与えられるだろうとぼんやりと思った。

 何故、アドバイスする事を前提で考えているのかと言うと、彼女のお陰で周回効率が大きく向上し、そろそろ色々とアップグレードしようかと考えているからだ。 
 その後、ランクの高いミッションに挑んで更に稼ごうかと企んでいる。 

 付け加えるならマルメルもふわわもこのまま行ったら絶対に強くなると思っているので、ご機嫌を取って自分と組む事が得だと認識させたいという思惑もあった。
 前回のイベントで一つ学んだ事がある。 ああいった大規模戦で生き残りたいなら頼りになる仲間と連携して生存力を高めるのだ。 

 ――次は絶対に最後まで生き残ってやる。

 イベントの進行状況から恐らく、同じイベントがまた復刻される可能性が高い。
 実際、このゲームについて語り合う場ではほぼ確実に全く同じイベント来るだろうといった意見が多かった。 ヨシナリとしては望むところだったので意地でも参加したい、防衛報酬を手に入れたいと固く誓う。 

 次は絶対に最後まで楽しみ抜いてやる。
 表にこそ出さないが、彼は非常に執念深かった。
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