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第60話

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 やり難い。
 それがこの戦闘が始まってすぐに出て来たヨシナリの感想だった。
 ふわわが先行して敵を引っかき回し、マルメルがフォローしつつヨシナリが狙撃で援護。

 この星座盤というユニオンの必勝パターンともいえる戦い方だったが、流石に他所で晒した手に引っかかる程、上位ユニオンは甘くなかったようだ。
 ふわわの強襲は逆に奇襲を喰らう形になり、マルメルが着いた頃には下がらざるを得なくなっていた。

 ならばと狙撃での援護に入ろうとしていたのだが――
 咄嗟にヨシナリは機体を横にスライドさせると、一瞬前までいた位置に着弾。
 飛んできた方を見るとスナイパーと思われる機体がビルの陰に身を隠すのが僅かに見えた。

 上手い。 無理に仕留める事を考えずにヨシナリを釘付けにする事だけを狙った動きだ。
 お陰で何もできなくされている。 それは相手も同様のはずだ。 完全に抑え込まれている状況はヨシナリからすればあまり面白くない。 どうにか仕留めてやろうと考えていたが、敵の動きは的確で撃ち返そうと狙う前に射線からいなくなっている。 射撃精度もそうだが、何よりポジショニングが上手い。

 僅かな焦りと苛立ちが生まれる。 ヨシナリは経験上、この手の駆け引きは冷静さを失った奴から負けると考えているので深呼吸を繰り返して感情の炎を鎮火。 必要なのは冷静さだ。
 ユニオン専用の通信回線を開く。 

 「二人とも調子はどうだ? 俺は敵のスナイパーに抑え込まれてて身動きが取れない」

 ヨシナリが声をかけると返事は即座に返ってきた。

 「こっちは初手で失敗しちゃったから地下に誘い込もうと思ってたんだけど、乗ってこないから結局地上を走り回る事になっちゃってる」
 「敵さん、思ったよりも冷静だな。 何より、俺達の事を欠片も舐めてないのが厄介だ」

 所詮は三人の弱小ユニオン。 そんな先入観で勝手に格下と判断するユニオンと何度も対戦した事もあって敵から驕りを感じない点は素直に厄介だとマルメルは考えているようだ。
 その点に関してはヨシナリも同意で、寧ろ油断してくれると考えていた自分達にこそ驕りがあったと反省するべきだろう。

 「どうする? 無理にでも地下に降りて追っかけてくるのを待つか?」
 「いや、待ち伏せてるのは確実に読まれているだろうから最悪ビルを――マルメル! そこから離れろ!」

 言いながらヨシナリはビルの陰から飛び出して敵機がいるであろう場所に数発撃ち込む。
 意識を逸らす為の銃撃だったが、効果はなく敵の狙撃はマルメルのいた場所へと放たれた。
 
 「おわ、あ、クソ。 肩に貰っちまった」
 「すまん。 俺の所為だ。 敵のスナイパーはお前から見て西側に陣取っているからなるべく、西側から死角になる位置に移動しろ。 損傷はどうだ?」
 「何とか無事だが肩のシールドがやられた。 見事にぶっ壊されちまったな。  エネルギー系のライフルだったら肩まで貫通して最悪使い物にならなくなってただろうし実弾でラッキーだったよ」
 「敵の狙撃が厄介なんだったらウチが片付けるよ。 今ので位置が分かったし行ってくるね。 二人は援護よろしく~」
 「ちょ!? ふわわさん! 待――あぁ、行っちまった。 どうするよ?」
 「どちらにせよ何らかの形で打開する必要がある。 あの人頼みになるのは情けないが任せてみよう」

 マルメルの制止も虚しくふわわは放たれた矢のように狙撃地点を看破して敵のスナイパーの位置に当たりを付けたようだ。 ヨシナリはこの状況に少しだけ嫌な物を感じていた。

 もしかするとこれは逆に釣りだされたのではないかと。 
 だが、この膠着状態を脱するにはどちらにせよ何らかの形で危険を冒す必要がある。
 ならばふわわの感覚を信じて彼女が目的を達するサポートに徹するべきだ。 リスクは大きいが敵のスナイパーを片付けられた場合のメリットは大きい。 賭けるに値する博打だ。

 ――だが――

 なんだか嫌な予感がする。 ヨシナリは大丈夫だろうかと少しだけ不安になった。
 
 
 状況はあまり良くない。
 それはふわわも良く理解していた。 これまでと違い、戦いの主導権が取れない。
 常に後手に回らされている感覚。 言いようのない不快感と窮屈さ。
 
 これが追い込まれるという事かと少しだけ楽しくなっていた。 
 今までの攻防で敵のスペックは凡そではあるが掴めてきている。

 まずはツガル。 最初に仕掛けた相手だ。
 大楯と突撃銃というトルーパーの装備としてはオーソドックスな組み合わせだが、これは狙ってやった結果だとふわわは考えていた。 彼女の中ではこの組み合わせの装備を使っている者はスタイルを確立できていないので無難な選択肢を選んだ結果という認識だ。

 だが、ツガルというプレイヤーに関してはどのポジションにも入れるように敢えてバランスの良い装備を選んでいるような印象を受ける。 実際、ふわわが近づけば突撃銃で牽制、マルメルが他へ行こうとすれば前に出て殴り合うように正面から弾幕を張ってきた。

 彼はこの戦場における便利屋だ。 常に戦場に足りない部分を補う動き。
 マルメルに近い立ち位置だが、より味方のバランスを整える事に特化した印象を受ける。
 こういうタイプがいると前はかなり安心できるので、士気も上がり易い。
 
 次にフカヤ。 
 ステルス素材ではなく完全に風景に溶け込む光学迷彩機能を搭載した機体を操って死角からの一撃を狙う暗殺者。 ただ、気配の消し方は上手いが、攻撃に入る段階で気配のような物が漏れるのでなんとなくで探知できてしまう。 ふわわは彼に関してはそこまで脅威と感じていないが、マルメルやヨシナリを狙われると困るので厄介である事には変わりなかった。

 最後にセンドウというスナイパー。
 このプレイヤーに関しては姿を見せていないので様々な面ではっきりしない。
 特に狙撃に関してはヨシナリよりも腕は上だと思っていた。 そして何より、自らの居場所を悟らせないポジショニングがひたすらに厄介だ。 ふわわの中ではこのセンドウというプレイヤーが最も脅威度が高く、可能であれば真っ先に処理したいと考えていた。

 そんな理由もあって居場所がはっきりしたと同時に突っ込んでいったのだ。
 見失うとまた隙を見せるまで意識を割き続けなければならなくなるので居るだけで邪魔な存在だった。
 ふわわの動きから狙いを早々に看破され、ツガルの目立つ機体が突撃銃を連射しながらビルの陰から飛び出してくる。
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