星と運命に導かれし者達~ステータスオープン~

kawa.kei

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第1話 召喚、異世界へ

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 古藤ことう 朱里あかりは自分は世界で一番不幸な人間だと思っていた。
 最初の不幸は母が死んだ事だ。 モノレールのレールが落ちるといった事故で多数の死者が出た事件と言っても過言ではないそれは小難しい専門用語で装飾されていたが、要は地面が想定よりも柔らかくて土台が大きく傾いた事で起こったらしい。

 次に父親が交通事故で死んだ。 
 見通しの良い三車線、どうやったらこんな場所で事故になるんだよと言いたくなるほどの広い道路だった。 交差点で飲酒運転した上に居眠り運転を行ったドライバーの逆走によって正面衝突。

 父親は即死だったが、相手は足の骨折だけで済んだのが更に納得いかなかった。
 一応はモノレールを運営していた会社や市、父を殺した運転手から結構な金額を毟り取ってやったが、そんな事をしても両親が帰ってくる訳がない。 通帳に並んだゼロを見ても虚しいだけだった。

 しばらくの間、何もする気力がわかなかったが、いい加減に何かした方がいいとそろそろ大学に復学するかと考えていた。
 朱里は目を開く。 自室のベッドの上だ。 ついさっきまで眠っていたのだが、身を起こす気にはなれずに枕元のスマートフォンを手に取って時間を確認。 16:40と表示されている。

 割と遅い時間だ。 夕食の準備をしなければならないが、やる気が全く起こらない。
 締め切ったカーテンの隙間から微かに夕日が入って来ているのが見える。
 虚しかった。 こういった場合、友達が居れば気持ちも上向くと思うのだが、その友人とはここ最近、連絡が取れない。 そういえばと妹が神隠しにあったとかで、現場を調べに行くとか言っていたような気がするが、何もやる気がしなかったのでちゃんと聞いていなかったのだ。

 天井をぼんやりと眺める。 

 ――あぁ、何もする気が起きない。

 朱里は両親が大好きだった。 一緒に居てくれるだけで良かったのにどうしてこんなにも理不尽に奪われなければならないのだろうか? 二人が居てくれるだけで自分はどれだけでも頑張れるのに。
 どうしてこんな事になったんだろうか? 

 「……寂しいよ……」

 朱里は小さく呟いて目を閉じた。 夕食を用意するのも面倒だ。
 寝る。 そうする事によってこの嫌で嫌でたまらない現実から少しでも逃避できると信じて。
 意識が沈む直前に何かが光ったような気がしたが気にもならなかった。


 ――貴方に良き運命が訪れん事を。

 
 目覚める直前、誰かと何かを交わしたような気がしたが、きっと気のせいだろう。
 最初に朱里が感じたのは固い床の感触だった。 鈍い頭でもはっきりとわかる違和感だったが、気力が萎えに萎え切っている朱里は無視しても良かったが、床の冷たさがそれを許さない。

 不快だなと思いながらゆっくりと目を開けると視界一杯に高い天井が広がっている。

 「な、何?」

 流石に見覚えのない光景に朱里はその場で跳ね起きた。
 高い天井に等間隔で並ぶ白く太い柱。 足元を見ると魔法陣のようなものが輝いている。
 ぐるりと見回すと朱里と似たような困惑の表情を浮かべている者達が数名。

 そして魔法陣の外にはローブに身を包んだいかにもな魔法使いと傍らには中世風の全身鎧を身に付けた者達。 意味が分からなかった。 
 ぼんやりと拉致でもされたのだろうかと濁った頭で考えたが、寝起きだった所為で上手く頭が回らない。 ついでにこんな場で率先して何かを発言する度胸もなかったので黙っていると周りが騒ぎ出した。

 「おい! ここは何処だ! 俺を家に帰せ!」「え? 何? 何? 拉致? これって拉致よね?」
 「うほ、異世界転移来たぁぁ!」「うっ、うっ、何なんですかぁこれぇ……おぇ」
 
 喚き散らす者、困惑にきょろきょろと首を振る者、何故か喜びを露わにする者。
 反応は様々だが、明らかにこの状況を呑み込めていない。
 朱里はようやく働き始めた頭で状況を正確に認識し始めたが、早々に自分にできる事はないと諦めた。

 じたばたしても仕方がない。 自分は何者かの意思でここに連れてこられた。
 これは動かしようがない事実。 そして朱里には抵抗する手段がない。
 つまり何をしても無駄。 なら精々、この場をセッティングした者達の機嫌を損ねないように大人しくしていよう。 そんな気持ちで朱里は沈黙を選んだ。

 少しの間は何も起こらなかった。 クレームを入れている者達に対して、ローブを纏った者達も全身鎧も全くの無視を貫き、強引に出ようとした者は足元の魔法陣から出ようとすると光の壁に阻まれて出る事が叶わない。 ひそひそと何かを話している気配はあったのでもしかしたら責任者でも呼びに行ってるのかもしれなかった。 そんな事を考えていると不意に視線を感じたので振り返ると一人の男が朱里をじっと見つめている。

 歳は十五、六ぐらいだろう。 恐らく高校生。
 服は何故か焼け焦げていて原型を留めていない。 下は辛うじて服としての機能を維持していたが、上半身はほぼ裸だった。 お陰で良く鍛えられた肉体だという事が分かる。

 ――ってか何? 何でこっちをじっと見てるんだろう? 

 自意識過剰で気にし過ぎかなとも思ったが、男――どちらかというと少年か――はじっと朱里を見つめていた。 いつまで経っても目を逸らさないので流石に我慢できずに立ち上がる。

 「あ、あの、私が何か?」
 
 思い切ってそう尋ねると少年はうーんと首を捻って朱里に近寄って来る。
 そしていきなり鼻を鳴らして匂いを嗅ぎだした。
 
 「ちょっ!? いきなり何なの!?」
 
 身の危険を感じた朱里は思わず下がろうとするが少年は両肩を掴んで更に匂いを嗅ぐ。
 どうにか逃れようとするがとんでもない力で体が固定されて動けない。
 少年は朱里に構わず更に匂いを嗅ぐと最後には彼女の胸に顔を埋めてふがふがと言い出した。

 「ぎゃあああああ!? 何!? なんなのアンタ!?」

 これには溜まらず悲鳴を上げた朱里は暴れるが全く動けない。
 それにより周囲も異変に気付いたようだ。 数名が何をやってるんだと止めに入る。
 一先ずは助かったと思いつつ、朱里はそういえば最後にお風呂に入ったのいつだったっけとどうでもいい事を考えた。

 「おい! 何をやっているんだ? 彼女、嫌がっているだろ?」
 「放せよ痴漢野郎」
 
 数名の男性が少年を朱里から引き剝がそうとしたが――

 「な、なんだこいつ。 ピクリとも動かねぇ」
 「離れろっておい!」

 三人が全力で引っ張っているが大木か巨岩であるかの如く動かない。
 やがて満足したのか少年が顔を上げ、朱里と視線が絡む。
 少年はぽつりと小さく呟いた。

 「女神様の匂いがする」と。
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