猫のお知らせ屋

もち雪

文字の大きさ
19 / 37
夏休み

台風の日

しおりを挟む
 今日は、もうすぐ台風が来るらしい。雨も風もまだまだだけど、どんどん強くなるらしい。

 だから、今日の奉納の舞の稽古は、休み。まぁ……朝は、時々強い雨にになったりしたけど、そんなに強くなかった。でも、朝、起きたあずき先輩が――。

「これは、無理」と言ってふたたび寝てしまったからだ。

「お母さん、あずき先輩ねちゃったんだけど、僕、一人じゃやれないんだけど」と玉ねぎを切っているお母さんに遠くから言う。何て言うか、玉ねぎ近いと人間でも目が痛くなるよね。……なんかいや。

「そうなの? あっ、そう言えば台風来ているわね。お稽古のお休みの事は、おとうさんに伝えておくから……稲穂いなほは、どうする? カリカリ食べる? また寝る?」
 お母さんは、包丁の手を止め僕に振り返る。

「うーん、鞄の中のおにぎりを食べて少し『消』えるの漢字の練習しょうかな……あれあるとみずほちゃんの学校に、お母さんと一緒にいけるんだよね……」

 僕は、帽子を持ってもみもみする。みずほちゃんは、いやがるかもだけど行きたい。

「お勉強頑張るのは、えらいけど……学校は、みずほがいいって言わないかもよ?」

「わかってる。でも、いいよって言ってくれるかも? 2回に1回とか……」

「それじゃ……お母さんとも一度遊びに行きましょう。図書館へ行って絵本を借りるの。素敵でしょう」

 お母さんが、僕の目の前であひるさん座りでそう話してくれた。

「行く! 絵本たくさん読むよ。大好きお母さん」

 あずき先輩にいっぱい怒られたので、とびつかないで、お母さんの袖をちょこんとつまんだ。お母さんが、笑ってくれると僕もうれしい。

「私のお母さんなんですけど……」

 みずほちゃんが、階段の所から降りてこっちにやって来る。

「みずほちゃんの猫なんですけど……」

 僕はみずほちゃんのまねをした。

「あれ? あずきは?」

「寝てる、猫は寝る生き物だんだよ。みずほちゃん」

 僕は、腰に手を当てあずき先輩のまねもしてみた。

「それはいつもあずきが、言ってるけど……天気が悪いとすごく寝るよね、あずきは」

「人間でも、気圧が合わないとそうなる人がいるけど、あずきはそう言う体質なのかも? 今日はゆっくり寝かせあげるといいわ」

 お母さんがそう言ったので、あずき先輩をそのまま寝かせておいた。と言うか、台風が来るからお母さんも、みずほちゃんも家にいてくれた。僕はあずき先輩のいる猫用のタワーへ行くたび、みずほちゃんに手を掴まれ机に連れ戻された。

 ☆★☆★☆

 もうお昼近く、僕は、きれいに書けた『消』のカードを持ち、テレビの前に立つ。

「いきます……」

 僕は、カードを頭の所で両手に持ち、目をつぶる。

「えい!」カードを、右手に持ちおもいっきり上へと上げる。
(消えろ!)

 カードは、消えた。お母さんとみずほちゃんは、拍手してくれた。

「「すごい、稲穂いなほ消えたねぇ」」

 ふたりは、同じ事言っている。ぷぷぷっ 僕は、みずほちゃんとお母さんにの手をさわると、僕の事がみえるようになったみたい 。

 ふたりして「「すごいね、稲穂いなほ」」って言ってくれたから、今日は、あずき先輩が寝ていてもちょっとしか寂しくなくなかった。『消』って漢字も書けるようなったからこのカードは、ちゃんととっておこう……。

 僕は自分の手を見た。

「カード使ったら無くなっちゃた」って、ちょっとだけ泣いた。

「無くなっちゃうものなの? 」

「うん」

「それじゃ……仕方ないかもしれないわね」

 その時、人間の姿で、あずき先輩が起きて来た。

「稲穂は、何でまたべそかいてるんだ」

「カード使ったら無くなったの……」

「無くなったら、また書けばいいだろう?」

「それは、違うの! 記念にとって置きたかったの!」

「ほら、稲穂、このカードを見ろ」

『早』と、書かれたカードを僕に見せて、あずき先輩は言った。

「このカードは、少し動きが早くなるぞぉ」

「うそっ! あずき先輩、すごい……頂戴!頂戴!」

 むにゃむにゃ寝ててもあずき先輩は、いろいろな漢字を使えて凄くて、びっくりした台風の日だった。


         おわり
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~

☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた! 麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった! 「…面白い。明日もこれを作れ」 それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

処理中です...