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7章 DT包囲網!?
178話 暗躍する影らしいです
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春の名残も消え、新緑彩る夏の季節がやってきた頃、雄一は唸りながら腕を組んで首を傾げていた。
雄一がいる場所はナイファ国の城のある一室である。
別に城にいるから緊張してるとか、厄介な事件が発生してるという訳でもない。
いや、見る角度次第では雄一にとっては、かなり厄介な出来事かもしれない。
目の前にいる爽やかな笑顔を浮かべる少年を見つめた後、もう一度、黙考した雄一は意を決して口を開く。
「悪い、もう1度、説明してくれるか、ゼクス?」
雄一の目の前でニコニコとした笑みを浮かべる少年はゼクスであった。
2度目の説明だというのに少しも嫌そうな顔をするどころか、更に笑みを深めるゼクスは「分かりました、ユウイチ父さん」と喜んで説明する。
「こちらの女性、パラメキ国の隣国のペーシア王国、第3王女、ハミュを嫁にする事になりました」
容認し難い内容を必死に脳に刻もうとするが脳が拒否するらしく、雄一のコメカミに汗が滲む。
嬉しそうで頬に赤い丸の幻視が見えそうなこの顔を雄一は良く知っている。
そう、テツである。
テツもティファーニア絡みになるとよく、ああいう顔をするところから、幸せ一杯なんだろうと思う。
ゼクスが手を差し向ける相手を見つめると年頃は出会った頃のホーラぐらいに見えるからゼクスと同じ12歳か1つ下ぐらいであろう。
金髪の髪を腰まで伸ばし、どこか眠そうな瞳をした少女で、お花畑に座らせてたら絵になりそうな美少女である。
ただ、ほっといたら、いつまでも座らせた場所にいそうな呑気そうな気配がプンプンさせる。
その少女、ハミュは小さく、あっ、と声を上げたと思うとゆっくりとお辞儀して挨拶をしてくる。
「私はぁ、ペーシア王国、第4王女……」
「ハミュ様、第3王女でございます」
ハミュの隣に着いている女騎士が訂正してくる。
少なくとも、雄一が見た事のない少女である。
年頃は今のホーラと同じぐらいのようで、長い栗色の髪を編み込むようにして頭の後ろで纏めている。
目付きは少々キツイが美人顔の少女である。
おそらく、ハミュに着いてペーシア王国からやってきた女騎士だろうと雄一は判断する。
訂正されたハミュは、「あらあら」とは言ってるが、どう見ても慌ててるようには見えない。
「それはびっくりです……でも、仕方がないです。兄弟、姉妹も多いのですから」
「いえ、陛下のご息女は3人しかおられません」
女騎士に指摘されて「あらあら、まあまあ」と口にするが相変わらず慌ててるようには一切見えない。
ふわぁ、とした笑みを浮かべるハミュは雄一に視線を戻す。
「つまり、そういう事でゼクラバース様の妻になる予定の婚約者、ハミュと申します」
ペコリと頭を下げてくるハミュだが、つまり、とかはしょり過ぎだろ、と思わされるが、まあ、いいかと思わされるのは、この子の人徳なのだろう。
でも、悪い子ではなさそうだから、ゼクスにとっても心休まる相手だろうと判断する。
雄一は気軽に手を上げて、挨拶をする。
「まあ、色々突っ込みどころはありそうだが、まあいい。俺はダンガに住む冒険者の雄一だ。時折、城にやってくるから、よろしく頼む」
「無礼者! ハミュ様にそんな挨拶する者がいるか! 先程もゼクラバース様に対する態度も酷い!」
突然、怒鳴られて面食らう雄一。
普段からこの態度でいたし、城の者達からも微笑ましく見られていたから、ついつい忘れていたが、確かに王族にする態度ではなかった。
頬を掻く雄一は、「すまない」と女騎士に詫びる。
「すまないだと? たかが冒険者の分際でっ!」
「待ってくれないか? 君が職務に忠実なのは分かる。だが、何故、僕が君が言う、たかが冒険者に『ユウイチ父さん』と呼ぶかを考えてくれないか、シャーロット?」
まさか、ゼクスから横やりが入るとは思ってなかった女騎士、シャーロットは雄一に続いて面食らわされる。
しどろもどろになりながら、ゼクスに返事を返すシャーロット。
「そ、それは、ミレーヌ女王陛下と婚姻を結ぶかもしれないというお話があるからでしょうか? スゥ王女とという話もあられるようですが……」
そう答えてくるシャーロットにゼクスは首を横に振ってみせる。
「違うよ。僕がユウイチ父さんと呼ぶようになったのは、お母様と会う前、お母様もそういう事をまったく想定してなかった頃で、当時はスゥもユウパパと言って慕っていたよ」
混乱するシャーロットは追い詰められるように汗を掻き始める。
それを見て、ゼクスが慕ってくれてる事は嬉しいが、シャーロットが追い詰められる状況は違う気がした雄一が口を挟む。
「ゼクス、それぐらいにしといてやれ。この子も悪気があった訳じゃな。お前も職務に忠実と言ってただろ?」
雄一にそう言われたゼクスも少し熱くなってた事を自覚したようで困ったような笑顔を見せる。
シャーロットに向き直った雄一も少し困った顔をして話しかける。
「すまないな? 生まれも育ちも卑しいもんで、そういう礼儀は良く分からないんだ。お前が主とするハミュ王女にはもうちょっと頑張ってみるが、ゼクスの事は見て見ぬふりを頼む」
「いえいえぇ、私もゼクラバース様と同じようにして頂きたいです」
主のハミュにまでそう言われたシャーロットは肩身が狭そうにする。
縮こまるシャーロットの肩に手を置いて、
「お前が悪い訳じゃない、公の場では頑張るから、ここでは見て見ぬふりを頼む」
と伝えると雄一はゼクスに向き合う。
「しかし、幸せそうだな、テファの傍にいる時のテツを思い出すんだが?」
「ええ、とっても幸せですよ? 後はいかにして妾をねじ込もうとする相手と戦うかですね」
通常モードのゼクスの顔から、テツスマイルに切り替わる。
それにイラッとした雄一がゼクスの鼻を抓む。
「おいおい、俺と共に苦楽を共にすると思ってたのに、まさかの裏切りか?」
「ユウイチ父さん、世の中、裏切りと出会いの繰り返しと申しますし?」
雄一に鼻を抓まれて鼻声になりながらも、嬉しげに言ってくる。
「馬鹿野郎、別れと出会いだろうが……んっ? 殺気っ!」
扉の方に目を向けた雄一が目を細める。
仕方がないとばかりに舌打ちすると雄一はゼクスを両手で持ち上げる。
「今回はこれで許しておいてやる!」
開けられた窓の外の中庭にある噴水目掛けてゼクスを放り投げる。
あああっ! と、どこか楽しげな声を上げて飛ばされるゼクスとそれを見守るハミュは「まあまあ」と呟いて頬を当てる。
「ゼクラバース殿下っ!」
目を剥きだすシャーロットを横目に雄一は窓の淵に足をかけて手を上げる。
「では、またな?」
そういうと空に飛び上がり、水龍を生み出すとダンガを目指して出て行った。
ずぶ濡れになったゼクスが中庭から窓の淵を越えて戻ってくる。
「今のは面白かった。後、何度かして貰いたかったのに残念です」
「そんなに楽しかったのですか?」
ハミュに聞かれたゼクスは、飛ばされた後、噴水に落ちる前に水魔法でクッションが作られていて、そこに落ちた時の気持ち良さを熱弁する。
それを聞いたハミュは羨ましそうにゼクスを見つめる。
「それは是非ぃ、私もしたかったです」
「次、来た時にユウイチ父さんに頼んでみようね」
嬉しそうに頷き合う2人であったが、まだゼクスを放り投げた雄一の行動から立ち直ってないシャーロットが「なっ、なっ」と呟いていると背後の扉が勢い良く開く。
「ユウイチ様、お待たせしました!」
現れたのはゼクスの母、ミレーヌであった。
突然やってきた相手と扉の音でびっくりし過ぎて軽い呼吸困難に陥るシャーロットがいるがミレーヌの瞳には映ってない。
辺りをキョロキョロしながら誰か、いや、雄一を探しているようだ。
「ユウイチ父さんなら、お母様の気配に気付いて帰られましたよ?」
へっ? と間抜けな声を洩らす母は、これからどこの晩餐会に行くのか問いたくなるような絢爛な格好をしていたので痛々しさが増していた。
そんなミレーヌを見て、ハミュは「お母様、お綺麗です」とニコニコしているが問題はそこじゃない。
ゼクスは苦悩する。
最近のミレーヌは射止めるではなく、仕留めるに移行しているように思うのである。
年齢の焦りもあるだろうが、こうも上手く逃れ続けると気合いの入り方が違うのであろう。
だから、雄一は殺気を感じていた。
ゼクスに言わせれば、はっきりと決断しない雄一が悪い話である。
既に腰が落ち着く見通しが立ったゼクスだから言えるセリフだと分かった上で考える辺り、結構なワルである。
しょんぼりと肩を落として戻るミレーヌを見送りながら、未だに立ち直ってないシャーロットを見つめて、良い考えを思い付く。
「ねえ、ハミュ。悪いんだけど、シャーロットをしばらく貸してくれないかな? 長い間、ハミュの下から離れる事になると思うけど?」
ゼクスの言葉が届いたようで、シャーロットは更に混乱に拍車がかかる。
ハミュは、迷いも見せずに笑みを浮かべて頷く。
それに慌てたのはシャーロットだが、気にした素振りを見せないゼクスが命令を下す。
「シャーロット、君に任務を与える」
混乱していても、体に沁みついた対応が自然に出て、跪くと「ハッ!」と返事を返す。
「君にはダンガに行って、ユウイチ父さんの下に行って貰いたい」
それを聞いたシャーロットは驚き過ぎて顔を上げてゼクスを凝視する。
ゼクスはそれに気付いてないかのように振る舞い続ける。
「今さっき見たようにお母様の件、ついでにいうならスゥの件もある。そろそろ、ユウイチ父さんには覚悟を決めて貰いたい。というより、挟まれるのも、そろそろ終わりにしたい」
後半に本音が漏れるゼクス。
「そこで、シャーロット、君にはユウイチ父さんの意識改革をお願いしたい。ユウイチ父さんを観察し、良く理解して導いて欲しい。おそらくチャンスは1度、2度目はないと覚悟をしてほしい」
生唾を飲むシャーロットは身を堅くする。
その様子に頷いたゼクスが背を向ける。
「後、ついでにこまめにスゥが僕に送ってくる手紙。お母様を裏切って自分に着け、というのを阻止もしてくれると大変助かる。本当に時折、ちゃんとした連絡があるから一応見ないといけないから困ってる」
意外と本当にゼクスは大変であったようである。
「はっ! 御下命、承りました!」
「では、準備が済み次第、すぐに出発してください」
更に頭を下げたシャーロットは立ち上がると踵を返すとキビキビした動きで退出していく。
命令だと思うと色々な事を後廻しに考えられるようだが、おそらく、頭の棚が1つというタイプと思われる。
シャーロットを見送ったゼクスは、即興ではあったが、これは名案だと思う。
言った通りに事が進めば、本当に助かる。
だが……と思い更けているとドアをノックされる。
「入れ」
ゼクスが入室を許すと入ってきたのは自分の世話係だったステテコであった。
「どうやら、パラメキ国が動いた模様ですじゃ、坊っちゃん」
「そうですか、さっきの行動は良いタイミングだったようですね。後、そろそろ坊っちゃんは止めてくれないか?」
苦笑いするゼクスにステテコも苦笑いを返すが了承の言葉を返さない。
それに対して、仕方がないな、と諦めを滲ますゼクスはステテコに指示を出す。
「もう伝わってるかもしれませんが、その事をエイビス様にも伝えておいてください」
それには了承を伝え来たステテコにゼクスは、苦笑しながら出ていくのを見送る。
「楽しい事になりそうですよ」
そういうとゼクスはハミュと笑みを交わし合った。
同日、エイビスは、ダンガの冒険者ギルドへと早馬を走らせたそうである。
▼
「うふふっ、長かった……予定の倍の時間がかかるとは思いませんでした。でも私は4年我慢して頑張りましたわ!」
「無駄かな……とは思いますが、考え直してくれませんか、女王?」
若い男の騎士が伺うように言うが、陶酔したようにある方向、ダンガがある方向を見つめたまま無視される。
「だいぶ国は安定しましたが、女王陛下が必要な時がある事を御理解の上、その時は戻られるというお約束はお忘れないようお願いします」
諦めの色が濃い表情をする老人、パラメキ国、宰相である。
「ええ、ええ、必ず帰って参りますよ」
それを聞いていた若い騎士は、「嘘臭いなぁ」と聞こえるように呟くが、またもや、無視される。
嬉しそうにする赤い髪をした少女は黒いローブを纏う。
「さあ、ロット。馬車を用意しなさい。すぐに出発ですよ!」
やっと諦めたらしい若い騎士、ロットは、「御意」と頷くと馬車を用意する為にこの場を離れる。
ダンガの方向を見つめる少女は頬を紅潮させて呟く。
「今、貴方のポプリがそちらに向かいます。待っててくださいねっ!」
4年の歳月を費やして、ホーラが羨むプロポーションを手に入れたポプリが高笑いを上げた。
雄一がいる場所はナイファ国の城のある一室である。
別に城にいるから緊張してるとか、厄介な事件が発生してるという訳でもない。
いや、見る角度次第では雄一にとっては、かなり厄介な出来事かもしれない。
目の前にいる爽やかな笑顔を浮かべる少年を見つめた後、もう一度、黙考した雄一は意を決して口を開く。
「悪い、もう1度、説明してくれるか、ゼクス?」
雄一の目の前でニコニコとした笑みを浮かべる少年はゼクスであった。
2度目の説明だというのに少しも嫌そうな顔をするどころか、更に笑みを深めるゼクスは「分かりました、ユウイチ父さん」と喜んで説明する。
「こちらの女性、パラメキ国の隣国のペーシア王国、第3王女、ハミュを嫁にする事になりました」
容認し難い内容を必死に脳に刻もうとするが脳が拒否するらしく、雄一のコメカミに汗が滲む。
嬉しそうで頬に赤い丸の幻視が見えそうなこの顔を雄一は良く知っている。
そう、テツである。
テツもティファーニア絡みになるとよく、ああいう顔をするところから、幸せ一杯なんだろうと思う。
ゼクスが手を差し向ける相手を見つめると年頃は出会った頃のホーラぐらいに見えるからゼクスと同じ12歳か1つ下ぐらいであろう。
金髪の髪を腰まで伸ばし、どこか眠そうな瞳をした少女で、お花畑に座らせてたら絵になりそうな美少女である。
ただ、ほっといたら、いつまでも座らせた場所にいそうな呑気そうな気配がプンプンさせる。
その少女、ハミュは小さく、あっ、と声を上げたと思うとゆっくりとお辞儀して挨拶をしてくる。
「私はぁ、ペーシア王国、第4王女……」
「ハミュ様、第3王女でございます」
ハミュの隣に着いている女騎士が訂正してくる。
少なくとも、雄一が見た事のない少女である。
年頃は今のホーラと同じぐらいのようで、長い栗色の髪を編み込むようにして頭の後ろで纏めている。
目付きは少々キツイが美人顔の少女である。
おそらく、ハミュに着いてペーシア王国からやってきた女騎士だろうと雄一は判断する。
訂正されたハミュは、「あらあら」とは言ってるが、どう見ても慌ててるようには見えない。
「それはびっくりです……でも、仕方がないです。兄弟、姉妹も多いのですから」
「いえ、陛下のご息女は3人しかおられません」
女騎士に指摘されて「あらあら、まあまあ」と口にするが相変わらず慌ててるようには一切見えない。
ふわぁ、とした笑みを浮かべるハミュは雄一に視線を戻す。
「つまり、そういう事でゼクラバース様の妻になる予定の婚約者、ハミュと申します」
ペコリと頭を下げてくるハミュだが、つまり、とかはしょり過ぎだろ、と思わされるが、まあ、いいかと思わされるのは、この子の人徳なのだろう。
でも、悪い子ではなさそうだから、ゼクスにとっても心休まる相手だろうと判断する。
雄一は気軽に手を上げて、挨拶をする。
「まあ、色々突っ込みどころはありそうだが、まあいい。俺はダンガに住む冒険者の雄一だ。時折、城にやってくるから、よろしく頼む」
「無礼者! ハミュ様にそんな挨拶する者がいるか! 先程もゼクラバース様に対する態度も酷い!」
突然、怒鳴られて面食らう雄一。
普段からこの態度でいたし、城の者達からも微笑ましく見られていたから、ついつい忘れていたが、確かに王族にする態度ではなかった。
頬を掻く雄一は、「すまない」と女騎士に詫びる。
「すまないだと? たかが冒険者の分際でっ!」
「待ってくれないか? 君が職務に忠実なのは分かる。だが、何故、僕が君が言う、たかが冒険者に『ユウイチ父さん』と呼ぶかを考えてくれないか、シャーロット?」
まさか、ゼクスから横やりが入るとは思ってなかった女騎士、シャーロットは雄一に続いて面食らわされる。
しどろもどろになりながら、ゼクスに返事を返すシャーロット。
「そ、それは、ミレーヌ女王陛下と婚姻を結ぶかもしれないというお話があるからでしょうか? スゥ王女とという話もあられるようですが……」
そう答えてくるシャーロットにゼクスは首を横に振ってみせる。
「違うよ。僕がユウイチ父さんと呼ぶようになったのは、お母様と会う前、お母様もそういう事をまったく想定してなかった頃で、当時はスゥもユウパパと言って慕っていたよ」
混乱するシャーロットは追い詰められるように汗を掻き始める。
それを見て、ゼクスが慕ってくれてる事は嬉しいが、シャーロットが追い詰められる状況は違う気がした雄一が口を挟む。
「ゼクス、それぐらいにしといてやれ。この子も悪気があった訳じゃな。お前も職務に忠実と言ってただろ?」
雄一にそう言われたゼクスも少し熱くなってた事を自覚したようで困ったような笑顔を見せる。
シャーロットに向き直った雄一も少し困った顔をして話しかける。
「すまないな? 生まれも育ちも卑しいもんで、そういう礼儀は良く分からないんだ。お前が主とするハミュ王女にはもうちょっと頑張ってみるが、ゼクスの事は見て見ぬふりを頼む」
「いえいえぇ、私もゼクラバース様と同じようにして頂きたいです」
主のハミュにまでそう言われたシャーロットは肩身が狭そうにする。
縮こまるシャーロットの肩に手を置いて、
「お前が悪い訳じゃない、公の場では頑張るから、ここでは見て見ぬふりを頼む」
と伝えると雄一はゼクスに向き合う。
「しかし、幸せそうだな、テファの傍にいる時のテツを思い出すんだが?」
「ええ、とっても幸せですよ? 後はいかにして妾をねじ込もうとする相手と戦うかですね」
通常モードのゼクスの顔から、テツスマイルに切り替わる。
それにイラッとした雄一がゼクスの鼻を抓む。
「おいおい、俺と共に苦楽を共にすると思ってたのに、まさかの裏切りか?」
「ユウイチ父さん、世の中、裏切りと出会いの繰り返しと申しますし?」
雄一に鼻を抓まれて鼻声になりながらも、嬉しげに言ってくる。
「馬鹿野郎、別れと出会いだろうが……んっ? 殺気っ!」
扉の方に目を向けた雄一が目を細める。
仕方がないとばかりに舌打ちすると雄一はゼクスを両手で持ち上げる。
「今回はこれで許しておいてやる!」
開けられた窓の外の中庭にある噴水目掛けてゼクスを放り投げる。
あああっ! と、どこか楽しげな声を上げて飛ばされるゼクスとそれを見守るハミュは「まあまあ」と呟いて頬を当てる。
「ゼクラバース殿下っ!」
目を剥きだすシャーロットを横目に雄一は窓の淵に足をかけて手を上げる。
「では、またな?」
そういうと空に飛び上がり、水龍を生み出すとダンガを目指して出て行った。
ずぶ濡れになったゼクスが中庭から窓の淵を越えて戻ってくる。
「今のは面白かった。後、何度かして貰いたかったのに残念です」
「そんなに楽しかったのですか?」
ハミュに聞かれたゼクスは、飛ばされた後、噴水に落ちる前に水魔法でクッションが作られていて、そこに落ちた時の気持ち良さを熱弁する。
それを聞いたハミュは羨ましそうにゼクスを見つめる。
「それは是非ぃ、私もしたかったです」
「次、来た時にユウイチ父さんに頼んでみようね」
嬉しそうに頷き合う2人であったが、まだゼクスを放り投げた雄一の行動から立ち直ってないシャーロットが「なっ、なっ」と呟いていると背後の扉が勢い良く開く。
「ユウイチ様、お待たせしました!」
現れたのはゼクスの母、ミレーヌであった。
突然やってきた相手と扉の音でびっくりし過ぎて軽い呼吸困難に陥るシャーロットがいるがミレーヌの瞳には映ってない。
辺りをキョロキョロしながら誰か、いや、雄一を探しているようだ。
「ユウイチ父さんなら、お母様の気配に気付いて帰られましたよ?」
へっ? と間抜けな声を洩らす母は、これからどこの晩餐会に行くのか問いたくなるような絢爛な格好をしていたので痛々しさが増していた。
そんなミレーヌを見て、ハミュは「お母様、お綺麗です」とニコニコしているが問題はそこじゃない。
ゼクスは苦悩する。
最近のミレーヌは射止めるではなく、仕留めるに移行しているように思うのである。
年齢の焦りもあるだろうが、こうも上手く逃れ続けると気合いの入り方が違うのであろう。
だから、雄一は殺気を感じていた。
ゼクスに言わせれば、はっきりと決断しない雄一が悪い話である。
既に腰が落ち着く見通しが立ったゼクスだから言えるセリフだと分かった上で考える辺り、結構なワルである。
しょんぼりと肩を落として戻るミレーヌを見送りながら、未だに立ち直ってないシャーロットを見つめて、良い考えを思い付く。
「ねえ、ハミュ。悪いんだけど、シャーロットをしばらく貸してくれないかな? 長い間、ハミュの下から離れる事になると思うけど?」
ゼクスの言葉が届いたようで、シャーロットは更に混乱に拍車がかかる。
ハミュは、迷いも見せずに笑みを浮かべて頷く。
それに慌てたのはシャーロットだが、気にした素振りを見せないゼクスが命令を下す。
「シャーロット、君に任務を与える」
混乱していても、体に沁みついた対応が自然に出て、跪くと「ハッ!」と返事を返す。
「君にはダンガに行って、ユウイチ父さんの下に行って貰いたい」
それを聞いたシャーロットは驚き過ぎて顔を上げてゼクスを凝視する。
ゼクスはそれに気付いてないかのように振る舞い続ける。
「今さっき見たようにお母様の件、ついでにいうならスゥの件もある。そろそろ、ユウイチ父さんには覚悟を決めて貰いたい。というより、挟まれるのも、そろそろ終わりにしたい」
後半に本音が漏れるゼクス。
「そこで、シャーロット、君にはユウイチ父さんの意識改革をお願いしたい。ユウイチ父さんを観察し、良く理解して導いて欲しい。おそらくチャンスは1度、2度目はないと覚悟をしてほしい」
生唾を飲むシャーロットは身を堅くする。
その様子に頷いたゼクスが背を向ける。
「後、ついでにこまめにスゥが僕に送ってくる手紙。お母様を裏切って自分に着け、というのを阻止もしてくれると大変助かる。本当に時折、ちゃんとした連絡があるから一応見ないといけないから困ってる」
意外と本当にゼクスは大変であったようである。
「はっ! 御下命、承りました!」
「では、準備が済み次第、すぐに出発してください」
更に頭を下げたシャーロットは立ち上がると踵を返すとキビキビした動きで退出していく。
命令だと思うと色々な事を後廻しに考えられるようだが、おそらく、頭の棚が1つというタイプと思われる。
シャーロットを見送ったゼクスは、即興ではあったが、これは名案だと思う。
言った通りに事が進めば、本当に助かる。
だが……と思い更けているとドアをノックされる。
「入れ」
ゼクスが入室を許すと入ってきたのは自分の世話係だったステテコであった。
「どうやら、パラメキ国が動いた模様ですじゃ、坊っちゃん」
「そうですか、さっきの行動は良いタイミングだったようですね。後、そろそろ坊っちゃんは止めてくれないか?」
苦笑いするゼクスにステテコも苦笑いを返すが了承の言葉を返さない。
それに対して、仕方がないな、と諦めを滲ますゼクスはステテコに指示を出す。
「もう伝わってるかもしれませんが、その事をエイビス様にも伝えておいてください」
それには了承を伝え来たステテコにゼクスは、苦笑しながら出ていくのを見送る。
「楽しい事になりそうですよ」
そういうとゼクスはハミュと笑みを交わし合った。
同日、エイビスは、ダンガの冒険者ギルドへと早馬を走らせたそうである。
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「うふふっ、長かった……予定の倍の時間がかかるとは思いませんでした。でも私は4年我慢して頑張りましたわ!」
「無駄かな……とは思いますが、考え直してくれませんか、女王?」
若い男の騎士が伺うように言うが、陶酔したようにある方向、ダンガがある方向を見つめたまま無視される。
「だいぶ国は安定しましたが、女王陛下が必要な時がある事を御理解の上、その時は戻られるというお約束はお忘れないようお願いします」
諦めの色が濃い表情をする老人、パラメキ国、宰相である。
「ええ、ええ、必ず帰って参りますよ」
それを聞いていた若い騎士は、「嘘臭いなぁ」と聞こえるように呟くが、またもや、無視される。
嬉しそうにする赤い髪をした少女は黒いローブを纏う。
「さあ、ロット。馬車を用意しなさい。すぐに出発ですよ!」
やっと諦めたらしい若い騎士、ロットは、「御意」と頷くと馬車を用意する為にこの場を離れる。
ダンガの方向を見つめる少女は頬を紅潮させて呟く。
「今、貴方のポプリがそちらに向かいます。待っててくださいねっ!」
4年の歳月を費やして、ホーラが羨むプロポーションを手に入れたポプリが高笑いを上げた。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
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三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
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