駄女神の玩具箱ーどうして、お前はそんなに駄目なんだ?-

バイブルさん

文字の大きさ
13 / 31
ここからが玩具箱の本番

春の陣 裏

しおりを挟む
「馬鹿野郎、武器を持つとは何事だ! 俺達は戦場に行くんだぞ!」
「す、すいません、ユウイチさん!」

 謝ってくるテツに雄一は大きな唐草模様の布を手渡す。

 受け取ったテツに頷いてみせる雄一も同じ物を手に持つ。

「さあ、俺達の戦場に行こうっ!」

 決死の覚悟を滲ませた雄一とおっかなびっくりしているテツは玄関を出ていった。

 その姿を食堂の影から見ていた6つの瞳があった。

「なあ、アイツとテツ兄、どこ行くんだろ? 秘境に採取依頼? 素手で討伐?」
「それが理由ならユウさんはあんな顔しない。もっと余裕の顔をしてる。でもテツ兄さんは似たような勘違いしてる」

 覗きこんでいたのは、北川家のちっちゃい3人で、レイアの疑問にアリアが答え、まったく話の流れを理解できてないのに、腕を組んでる格好、雄一のモノマネをしているミュウが訳知り顔で「がぅぅ!」と頷く。

 あれほど必死な顔をするのを雄一が珍しいから少し気になるレイアは、アリアに聞く。

「なら、何をしにいくんだ?」
「分からない。とにかくユウさんは必死」

 首を横に振るアリアから、自信ありげにしていたミュウに視線を向けると答える機会がくると思ってなかったらしく、レイアの視線から逃げようとする。隠れる場所が見つからず、とりあえず、そっとアリアの影に隠れる。

 ジト目したレイアに廻り込まれたミュウはテンパりながら助けを求めるようにキョロキョロしていると何かを発見して表情を明るくする。

「ホーラ、教えて」

 生活魔法入門を片手に食堂に入ってきたホーラを見つけたミュウは助けを求める。

「んっ? どうかしたさ?」
「ユーイとテツが何をしに行ったか、知らない?」

 ミュウが縋るように聞くとホーラは「んん?」と視線を天井に向けて考え込むと掌を叩く。

 そして、辺りをキョロキョロするとテーブルの上にある紙を手にするとミュウに手渡す。


『ダンガ商店街、春のバーゲン開催!! 5割引きから。ダンガにある商店、露店問わず、開店してる店は全て対象。奮ってご参加してください!』


 と、書かれたチラシを手渡され、3人は覗きこむ。

 アリアとレイアはなんとか読めたようで納得するが、レイアは、「バカじゃないの」と呆れたように口にする。

 チラシを渡されたミュウは顔にビッシリと汗を掻く。

「だんが……はるの……きから、だんがにある……わず……がぅぅ……」

 半分も読めなかったミュウの肩に優しくも逃亡を許さない意思を込めたホーラの手が置かれる。

 その手を恐れるように体を震わせて、見上げた先のホーラを見つめようとするが目が泳ぎ、上手くいかない。

「ミュウ、文字の勉強が足らないようさ。早速、頑張るさ?」

 その言葉に踵を返して逃げようとするが、両肩に手を置かれて、絶妙の力加減でその手を振り払えず、涙ながら目の前にいるアリアとレイアに手を伸ばして助けを求めるが目を反らされる。

 見捨てられたと顔を驚愕に染め、瞳から滝のように涙を流すミュウにホーラは優しげに語る。

「アタイも鬼じゃないさ。これを読み終わったら、遊んできていい」

 ホーラに差し出された本を見たミュウは首を激しく振って、「がぅぅ、ムリ、ホーラ、鬼」と必死に逃げだそうとするがホーラの手から逃げれない。

 困ったような顔をするホーラであるが、左手に持っている本、どこから出した?と聞きたくなるミュウの腕より分厚い本を持っていた。

 ホーラとしては本当に温情をかけているつもりだが、雄一のシゴキを受ける事で、その辺りの匙加減がティースプーンからお玉にクラスチェンジしている事に気付いていなかった。

 膠着状態に陥っているとお風呂掃除をしてたらしいポプリがお風呂のほうからやってくる。

「やっと掃除が終わりましたわ。面倒ですけど、汚いお風呂は嫌ですから……あれ? ホーラ、今日はあの変態の所に行くって言ってませんでしたっけ?」

 首をコキコキと鳴らしながらやってきたポプリは首を傾げながらホーラにそう言ってくる。

「ああっ、もうそんな時間! それと師匠は女に対しては無害って何度も言ってるさ」

 ポプリは、初めてミチルダと会った時、あのパンイチの格好に心がシャットダウンしてしまい気絶してしまった事があるので、変態呼ばわりを止めない。

 ホーラとしても教えを請う立場でなければ、擁護する側には廻らなかっただろうな、とは思うあたり、酷かったりする。

「じゃ、ミュウ、お勉強は夕飯の後でするさ」

 一瞬、解放されたと思ったらしいミュウであったが、時間がずれ込んだだけと知り、絶望する。

 ミュウに、「また後で」と手を振っていくホーラを微妙な表情で見送った後、何かを振り切るようにするとアリア達に向き合う。

「がぅ、イッパイ、遊ぶ!!」

 握り拳を作って天に翳して叫ぶ迫力に飲まれた2人がウンウンと頷かされる。

 今を全力で楽しみ、後に廻された大変な事はその時に考えるという、ある残念な2人の生き様がミュウの中にも根付き、芽吹いた瞬間であった。



 庭に出た3人は、何で遊ぶ?という議題で白熱していた。

「魔法の練習。できるようになって、ユウさんをびっくりさせる」

 ホーラが置いていった生活魔法入門を片手に負けないと目力を込めて2人を見る。

 レイアも負けるか、と言わんばかりに2人を牽制しながら自分の意見を言う。

「いいや、今日は野イチゴ狩りに行って、おやつにする!」

 こないだ確認した感じだと、丁度、今頃が食べ頃のはずとレイアは身ぶりを激しくして訴える。

 ミュウはそれに、ガゥ、と頷くが、瞳に使命感を宿らせて宣言する。

「野イチゴ、悪くない。でも、肉もいいけど、お魚も!!」

 要約すると、お肉もいいけど、今日の夕飯の気分は肉より魚ということらしい。
 雄一の事だから、魚を川で獲ってきたら夕飯の材料にきっと使うというミュウの算段であった。

 各自の意見が出て、お互い引く気がないというのを確認した3人はお互いを牽制しあった後、頷く。

「アタシは、アリアとミュウと争いたくなかったよ……」
「んっ、でも仕方がない、避けて通れない道もある」
「がぅ、強いモノが全てを得る。それが自然の掟」

 3人の戦いの幕が切って落とされた。


「うぉぉ! 負けたっ!!」

 頭を抱えて、引っ繰り返るレイアを2人は見向きもしない。敗北者に目を向けている暇など2人にはないのであるから。

 アリアは土を盛っていき、整えるとミュウが棒をその頂きに突き刺す。

 睨みあうとミュウが盛られた土を豪快に奪う。

 そして、沈黙を守り、目の前の棒の行方を見つめるが反応らしい反応はなくアリアが舌打ちする。
 アリアは慎重に土を削り、危なげなくクリアする。

 そう、3人は棒倒しで勝敗を着けていた。

 ミュウは野生のカン頼りでガンガン攻め、アリアは慎重に、レイアは、気が短いので早々に敗退した。

 再び、恐れを知らないようなミュウの削り方をするが、棒は倒れず、アリアのターンになる。
 額に汗を滲ませながら注意深く観察して、指でゆっくりと削るようにするが一周廻ろうとしたところで棒が倒れて、アリアは悔しそうに顔を歪める。

「がぅぅ、ミュウの勝ちぃ!」
「ほうぅ、何やら楽しそうな事をやっとるな、わっちも混ぜておくれ」

 声をかけられた3人は声がした方向に目を向けると銀髪をかんざしや櫛で束ねて、黒色の丈の短い着物を花魁風に纏い、ぽっくり下駄を履いた、キツネの獣人の幼女がいた。

「もう勝負ついた。ミュウの勝ち。これから川遊び」
「なんじゃ、わっちに負けるのが怖いか? 尻尾がない犬よ」

 キツネの獣人の幼女はミュウを挑発する。その挑発にあっさり乗って、「尻尾ある。ここっ!」とお尻を向けて、短パンから飛び出ている可愛らしい尻尾を指差す。

「それはすまない、余りに小さ過ぎて、わっちは見逃しとった」

 キツネの獣人の幼女は自分の尻尾を自慢するように前に出して手櫛で整える。

 それに目を据わらせたミュウは、土山を盛り、棒を突き刺すとキツネの獣人の幼女を見上げる。

「マキマキ頭をコテンパンにして、ミュウ、勝つ」

 口をへの字にするのを見て、コロコロと楽しげに笑うキツネの獣人の幼女はミュウの対面に行き、ミュウは見知らぬ幼女と戦い始めた。


「そんな、ミュウの負け……」

 始まって、まさかの2手目でミュウは棒を倒してしまう。

「尻尾が短い奴はこの程度ということかの~」

 クスクスと笑うキツネの獣人の幼女を睨みつけるミュウは飛びかかる。

 それを予想してたかのようにミュウを避けるだけでなく、擦れ違いざまにミュウの足を引っ掛ける。

 こけるミュウを見て口を手で隠しながら笑う。

「先程の遊びで勝てんから、次は鬼ごっこということかの。わっちは受けて立つのじゃ」

 キツネの獣人の幼女は、アリアとレイアにもかかってこいと挑発する。

 アリアとレイアは頷き合うとミュウと合流して、追いかけ始める。

 そして、夕暮れ時まで、カラン、コロンという音を軽快に響き渡った。



 夕暮れ時になると玄関で誰かが倒れる音に気付いた4人は、そちらのほうに意識を向ける。

「いかんのじゃ、もうそんな時間になっておったか。それでは、また会おう」

 そう言うとキツネの獣人の幼女は、建物の影に走っていく。それを追いかけた3人であるが建物の影を覗き込むが誰もいなくて首を傾げる。

 キツネの獣人の幼女も気になるが玄関の物音も気になった3人は行くと、倒れている雄一と膝を抱えるテツの姿があった。

 レイアは、テツを呼び掛け、ミュウは、雄一を突っつくが反応がないのを確認する。

 レイアとミュウがアリアを見つめると、首を振ってみせて決断する。

「私達の手に負えない。シホーヌとアクアを捜そう」

 その言葉に頷き合うと3人は2人を捜す為に玄関から離れていきながら、レイアは呟く。

「そういえば、あの銀髪どこにいったんだろう?」
「分からない、でも、次はミュウが勝つ!」

 再会の約束はしていないが、新しくできた友達と次があると信じて、ミュウは再戦を胸に刻んだ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

処理中です...