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黒尽くめは言った。言う事きかないと祓っちゃうぞ、と

はち!

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ぼんやりと見つめたまま思う。俺はもう、巫の許可なしでは玄関から出る事さえ叶わない化物になったんだなと。
母ちゃんと父ちゃんにどう謝ろう。
嫌だからって、食べないのはなしだよ、か……。そうだよな。食べなきゃ生きられない。でも、噛まれるまでは俺だって人間だったんだ。そんな簡単に割り切れたら、苦労しないよ。
どうしたらいいんだろうな。いや、分かってる。食べればいいんだ。こんなに答えは簡単だ。でも、感情がそんな簡単に付いて行ってくれない。
死刑囚の肉だって言ってたっけ。例え犯罪を犯してようが、人間には変わりない。
どう、整理すればいいんだろ。俺は空腹を感じてる。でも食べたくない。でも、どうしようもなく人の肉を食べたくて堪らない。
眠ってる間の出来事とはいえ、俺は人の血と肉の味をもう既に覚えてしまってる。これを感情だけで我慢したら、取り返しのつかない事になるんだろうな……。

「零ちゃん、何泣きそうな顔してんの?あ、分かった。お腹空いてんじゃない?」

声は出さずに、俯いてただ頷く。

「で、葛藤してんでしょ?食べなきゃいけないのは分かってるけど、人の肉だもんね。零ちゃんの気持ちを完全に理解するのは難しいけど、ちょっとは分かるつもり。私だって人の肉を食えだなんて言われたら、そりゃ嫌だもん」

「…………」

「こんな事で紛らわせるとは思えないけど、私が料理してあげよっか?生肉をそのまま食べるより、気持ち的には楽なんじゃない?」

「……料理出来んの?」

「出来るよー!見た目で判断しないでよね!巫も料理してもいいって言ってたし!するったらするの!」

唇を尖らせながら冷蔵庫を開けやがった。うわっ…生肉のブロックが結構みっちり詰まってるし……。赤い液体が入ったパックはきっと、血液パックだろうな…。そのまま飲めるように、市販されてるパウチの形をしてる。
てか、匂いがまずい。罪悪感とか吹き飛ばすくらい、食欲を刺激してくる。

「なんかねー、人間の食事は食べれるんだって。ただ栄養にならないだけで。要は娯楽だね」

「そっか、それで料理って言ったんだな……悪い、冷蔵庫閉めて。我慢出来なくなる…」
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