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黒尽くめは言った。言う事きかないと祓っちゃうぞ、と

きゅう!

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「これ、飲んで」

奏がすっと差し出してきた物を見る。真っ赤な液体の入ったパック。それを見るだけで血が騒ぐのを感じる。
食人鬼の血が喰べる事に対して途轍もなく貪欲なのを感じる。

「巫がね、空腹を感じる素振りを見せたら、とりあえず落ち着かせる為に血を飲ませろって。だから飲んで。あ、あれだったら私が口移しで飲ませてあげよっか?」

「絶対ねぇわ。舌噛み千切られる気しかしねぇわ」

「しっつれいな!てゆーか、なんでそんなおっかないイメージなのよ!ええい、さっさと飲めこのチキン野郎!」

反論する前にパックの飲み口を口に突っ込まれた。おいおい、いきなり突っ込むのはなしだろ!

「………………嫌だけど、美味いわ」

「そりゃー仕方ないっしょ。受け入れるしかないよ。まぁ、受け入れられるまで付き合ってあげるわよ私も」

料理に取り掛かる奏。血液パックを再び口に運ぶ。広がる甘美な血の味。
考えてしまう。血液パックだからこれは古い血。生きた血ならどれだけ甘美なんだろうと。
嗚呼、俺はこれから自分自身と戦わなくちゃならないんだな。例え食欲、謂わば本能を制御出来るようになったところで、本能が消えた訳じゃないんだ。
今みたいな考えは常に付き纏う。本当にこんな強烈な本能を、制御出来るようになれるのかな俺は……。

「なぁに辛気臭い顔してんの。考えたって仕方ないでしょーよ。出来ないかじゃなくて、やるしか道はないんだから」

どんな早業で完成させたのか、ローストビーフが出てきた。ソースまでかけてある。あれ?ローストビーフってそんな早く出来たっけ?

「それもそうだな。てか、ビッチな霊からまともな言葉が出てくるとは思わなかったわ」

「ビッチはやめれ」

「てか、うま!マジかよ、ビッチなくせに料理マジうま!」

「ビッチはやめれと言ってるのが分からんのか糞ガキ!」
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