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魔法回路と代償
七
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赤き月の輝きが森に降り注ぐ中、ニヤニヤと嫌らしく笑う男が一人、眠るルーゲルに近づく。
【……地獄の侯爵とあろう者が、なんの用だ?】
頑なに口を閉ざしていた黒き狼が口を開き、男を睨みつける。
【マルコシアス、ですか。私は貴方ほどの魔獣が人間に懐く方が、不思議ですがねぇ?】
男は狼の威嚇を物ともせず、ただ微笑む。肩まで伸びた赤紫の髪。エメラルドグリーンに輝く瞳。非の打ち所がない整った顔立ち。全てが美しい。
【貴方こそなんの目的があって、その少年に近づくのです?彼の方の邪魔となるのならば、遠慮なく消させていただきますが?】
男は持っていた扇を広げ、狼に向ける。狼は立ち上がり、呻りながら牙を剥く。
その静寂を、驚きを隠さない切羽詰まった声が破った。
【な…お前、メフィストフェレス……!?】
【おや、ハイズではないですか。久方ぶりですねぇ。少年を心配して来たのですか?駄目じゃないですか。こんな狼を寄せつけるなど】
あくまで嫌らしい笑みを崩さぬまま、ハイズに笑いかける。
【あいつと私の利害は一致してる。だからルーゲルの傍にいさせてるんだ。敵じゃない。私にとっては、だけどな】
【そうですか。貴方がそう言うのなら、見逃すとしましょう】
ぱちんっと音をさせ、扇を閉じる。殺気は未だに消えてはいないが。
【それより、なぜお前がここにいる?ルーゲルをどうするつもりだ?】
ハイズは敵意を剥き出しにし、メフィストフェレスを睨む。
【ふふ、そんな怖い顔で睨まないでくださいよ。貴方と私の仲じゃないですか。貴方の堕天を、私が手伝ってあげたと言うのに】
【……それとこれとは別だ。質問に答えろ】
【ふふふ。ハンドミンの血の重要性は、知っているでしょう?天の血に連なる者に産ませた、悪の種。人の中で育まれた、悪の血。しかし、天の血とひとつとなることは叶いませんでした】
そして愛おしげにメフィストフェレスは、ルーゲルを見つめる。
【しかし、決して相入れぬリアゲートとハンドミンの血がこの子の中で一つとなったどころか、自ら種を芽吹かせてくれました。遠い昔の悲願が、やっと叶ったのですよ?ふふ。彼の方も、喜んでくれるでしょう。貴方も喜んでくださいよ。貴方が堕天した理由を忘れたのですか?ハンドミンの血を守るためでしょう?】
【…………】
【まぁいいでしょう。この子はいずれ、悪の血に従わざるを得なくなるのですから。悪の血に背くことは出来ないのです。必ず、私達の手を取る日が来ますよ。その時、貴方はどうするのか見物ですね】
風が吹く。その風に溶け込むように、メフィストフェレスの姿は消えた。
狼は静かに佇み、ハイズはただ、悔しげに唇を噛みしめる。
【……地獄の侯爵とあろう者が、なんの用だ?】
頑なに口を閉ざしていた黒き狼が口を開き、男を睨みつける。
【マルコシアス、ですか。私は貴方ほどの魔獣が人間に懐く方が、不思議ですがねぇ?】
男は狼の威嚇を物ともせず、ただ微笑む。肩まで伸びた赤紫の髪。エメラルドグリーンに輝く瞳。非の打ち所がない整った顔立ち。全てが美しい。
【貴方こそなんの目的があって、その少年に近づくのです?彼の方の邪魔となるのならば、遠慮なく消させていただきますが?】
男は持っていた扇を広げ、狼に向ける。狼は立ち上がり、呻りながら牙を剥く。
その静寂を、驚きを隠さない切羽詰まった声が破った。
【な…お前、メフィストフェレス……!?】
【おや、ハイズではないですか。久方ぶりですねぇ。少年を心配して来たのですか?駄目じゃないですか。こんな狼を寄せつけるなど】
あくまで嫌らしい笑みを崩さぬまま、ハイズに笑いかける。
【あいつと私の利害は一致してる。だからルーゲルの傍にいさせてるんだ。敵じゃない。私にとっては、だけどな】
【そうですか。貴方がそう言うのなら、見逃すとしましょう】
ぱちんっと音をさせ、扇を閉じる。殺気は未だに消えてはいないが。
【それより、なぜお前がここにいる?ルーゲルをどうするつもりだ?】
ハイズは敵意を剥き出しにし、メフィストフェレスを睨む。
【ふふ、そんな怖い顔で睨まないでくださいよ。貴方と私の仲じゃないですか。貴方の堕天を、私が手伝ってあげたと言うのに】
【……それとこれとは別だ。質問に答えろ】
【ふふふ。ハンドミンの血の重要性は、知っているでしょう?天の血に連なる者に産ませた、悪の種。人の中で育まれた、悪の血。しかし、天の血とひとつとなることは叶いませんでした】
そして愛おしげにメフィストフェレスは、ルーゲルを見つめる。
【しかし、決して相入れぬリアゲートとハンドミンの血がこの子の中で一つとなったどころか、自ら種を芽吹かせてくれました。遠い昔の悲願が、やっと叶ったのですよ?ふふ。彼の方も、喜んでくれるでしょう。貴方も喜んでくださいよ。貴方が堕天した理由を忘れたのですか?ハンドミンの血を守るためでしょう?】
【…………】
【まぁいいでしょう。この子はいずれ、悪の血に従わざるを得なくなるのですから。悪の血に背くことは出来ないのです。必ず、私達の手を取る日が来ますよ。その時、貴方はどうするのか見物ですね】
風が吹く。その風に溶け込むように、メフィストフェレスの姿は消えた。
狼は静かに佇み、ハイズはただ、悔しげに唇を噛みしめる。
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