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1章 秋山とソレガシ
『ソレガシ』
しおりを挟む「――……おいおい、マジですか…」
目の前に広がるあり得ない光景に、青年――秋山理一は思わず頭を抱えそうになった。
ほんの数秒前、オレはゲームをしていた筈だった。
なのに今、この状況は……
真っ先に目に入ったのは、赤と白のタイトな服にふわっとした緩い赤のスカート、それに合わせるかのような長く赤い剣を腰に携えた金髪の女性が、リンゴに齧り付きながら歩いている様子だった。
「……何と言うか……うん。」
赤いな、ものすごく赤い。
などと感想を披露している最中、視線を感じたのか、件の赤井さん(仮)が視線を向けてきた。
ヤバッ!
慌てて、赤いさん(仮)から視線を外して、誤魔化すように取り敢えず右から左に順繰りと辺りを見渡す。
例の赤い人は、幸い気にしていない様で人ごみの中に消えていった。――何か言ってた気がするけど、まあいいか。
そんなことよりも……これはいったいどうしたもんか。
洋服屋……小さな屋台……買い物客……往来する人々……エルフ――
「現実……だよな……?」
明晰夢ではなさそうだ。どういう訳か、夢じゃないという自覚がある。
だとすれば、可能性として……異世界……とか? いや、ないない。…ない……よな?
状況整理をしようと思考を巡らせていると――不意に、背後から誰かに肩をたたかれた。
助けがきたのか!!
期待を胸に振り向くと……其処には立派な白鬚を蓄えたガタイのいい獣人のおっさんが仁王立ちしていた。
なんだ、獣人のおっさんか……って、なんでネコのおっさ――
「――おい、なに道の真ん中で突っ立っとるんじゃ、邪魔じゃろ!」
その、ドスの利いた野太い声に思わず身体が硬直してしまったが、それは一瞬。
時間にしてコンマ数秒の後、「あ、すいません」と反射的に謝って道を譲る――この反射速度は偏に、日本の事なかれ平和教育の賜物だろう。
オレの対応の速さに満足したのか、白髭のジジイは「うむ、よいぞ」と、機嫌よく(?)右手をヒラヒラと振りながら去って…………は行かずに、何故かオレの顔をジロジロと嘗め回すように(主観)見ていた――
え…なに、怖いんだけど……まさかソッチ系の人? まずいな、逃げなければ――
「…ワシの耳に何かついとるのか?」
「――え?」
耳?……あぁ、そう言う事か。
どうやら無意識のうちにおっさんの猫耳を見ていたらしい。
そりゃ見るだろう、おっさんのネコ耳なんてキモいも――
「――じゃから!! ワシの耳になんか付いとるのと聞いておるんじゃ!!!」
「ッ!! はいッ! ちゅり、てません!!」
「どっちなんじゃ!!!」
「付いてません!!」
怒鳴られて反射的に答えたが、思わず噛んでしまった。
いきなりの大声に心臓がバクバクで今にも止まりそうだった。
そんな秋山の事などはお構いなしに、納得したのか軽く頷いて
「そうか、ならいいんじゃ。」
それだけ言うと、今度こそおっさんは何処かに去って行った。(耳を触りながら)
「……何なんだ…あのおっさんは……?」
今しがた起きた出来事に混乱を深める秋山。この数分の出来事は、彼が理解できる範疇を大幅に超えていた。
頭が可笑しくなりそうだ。よし、ここで一息。
――NPC対話確認、チュートリアルを開始します。
「うォゥ!! 今度は何だ!!」
突然の声にビックリして叫んでしまった。周りの目が一斉にこっちに向いたがそれどころではない。
また何か起きるのか! 警戒しながら待った――が、何も起こらない。
何なんだよホント……ってか、あれ? いま、チュートリアルって言ってなかったか?
――メニューを開いてください。
「ッ!!!!」
今度は、何とか声を上げずにいることが出来た。『声』はどちらかと言うと『音』として脳に響いている感覚だった。無機質な機械音とでも言うべきだろうか。
落ち着けオレ……多分、お助けナビか何かだ。異世界の定番だろ。
ここは素直に声に従っておくべきだ、と判断した。
「……で、どうやって開けばいいんだ?」
そこからである。
――Q&A承認。右手を前方にメニューを発声。
右手を前に…『メニュー』……おォぉ。ホントに出てきた。
「えっ、これって……」
――プレイヤー認証完了。プレイヤー名『ソレガシ』
だよね!? これゼノストの画面と同じだし。
ちなみに、『ソレガシ』と言うのは秋山のゲーム内でのキャラネームだ。原型は『某』なのだが、何故この名前なのかの由来は、本人も憶えていないらしい。
――ステータス引継ぎ完了。Q&Aヘルプ参照。チュートリアル終了。…プツッ
……え? いやいや!
「まてまて! ナビとかそういうのないの?!……おいっ!!」
異世界ならナビは定番じゃないのか!? 名前何にしようかとか考えてたんだぞ!!
だが、虚しくも秋山の声に答える『音』が響くことは、もう無かった。
――サヨナラ、オレの人生……
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