to be Continued  ~ここはゲームか異世界か~

秋乃ヒダマリ

文字の大きさ
5 / 15
1章 秋山とソレガシ

『宿屋ホンテン』

しおりを挟む



「ほぉー、外観はそのまんまだな」

 やって参りました“宿屋ホンテン”



 レンガで作られた茶色を基調とした外壁、木製の両開きの扉とその上に掛けられた横文字の看板。中は一階が受付と食堂で、二階から上が部屋のようだ。
 ゲームの時と変わらず、古いが綺麗な宿屋といった感じか。


 宿屋は、さっき居た場所から意外と近くだったらしく、歩いて五分程度で着いてしまった。
 歩きながらこの世界の街並みを見ていたが、やはりと言うべきか、ゲームの中の“アルタの街”の風景とソックリだった。(なぜだか物凄く、懐かしく感じたが)


 そんなこんなで、あっさりと目的の“宿屋ホンテン”に着いたわけだが――


 ……どうしよう……誰もいないんだが。


 チラッと見る限り、端の方で酒らしき物を飲んでいる二人組が居るだけだった。
 もしかしたら、アレが店員なのかもしれない。どうやらこちらには気づいていないようなので、取り敢えず(仕方なく) 声を掛けてみる事にした。


「すみません……あのー」

「あ? なんだ、酒ならやらんぞ」

 いらんわ!!

「いや、お酒じゃなくて…泊まりたいんですけど、部屋って空いてますか?」

「知らん、店のもんに聞け」

「あ、はい」

 店員じゃなかったパターンですか……ある意味ほっとしたけど……

 それはそれで困った事になってしまった、秋山としては一刻も早く宿に入って情報を集めておきたかったのだが、店員が居ないのであればどうする事も出来ない。
 店の入り口まで戻りながら、秋山は途方に暮れる思いだった。


「――あら、お客様ですか?」

「女神さまですか?!」

 そんな時、入り口から現れた救世主の、その綺麗な声と待ち望んでいた言葉を聞いて、反射的にそう返してしまった。

「フフ、お上手なのね!」

 二十代後半だろうか。焦げ茶色の神……もとい、髪に白い肌、これぞ美人な女性といった感じの人だ。
シンプルなエプロン姿で手には買い物の袋らしきものを持っていて、一目でこの宿の人だと分かる。


 この人もNPCなんだろうか? とてもそうには見えないけど……。

 最初の獣人のおっさんといいこの人といい、NPCっぽさを感じない。


「それで……お客さんよね? 朝食付きで銅貨五枚になるけれど構わないかしら?」

「はい、それでお願いします」

「はーい、ちょっと待っててねー」
 そう言って美人さんは帳簿を取りに行った。


 銅貨五枚……一泊、五千Gか。安いな。

「お待たせ! ここに名前を書いてもらえるかしら?」


 名前――少し迷ったが……アキヤマとだけ書いた。

「ふ~ん、アキヤマ……変わった名前ね? それに見たことない服装だし……アキヤマ君は旅の人なのかしら?」

「まあ、そんなとこです」


 見たことない服装と言うのは――秋山は今、『ソレガシ』と言う自分のゲームキャラになっている。
勿論、見た目もキャラの時の姿なっていて、青髪に青のパーカーに七分丈の黒のパンツといった格好で、おまけに割とイケメンな仕様だった。
 おおよそ地球にいた頃の原型はなくなっている。着ているものは装備ではなく外見用アバターだが。

 そんな俺の服装が、この世界では奇抜で珍しいのかもしれない。
 このゲームのアイテムなのに不思議なもんだ。



 とまあ、曖昧に答えたオレに、まだ何かを聞きたそうにしていたようだったが、それを制するように二十日分の宿代――金貨一枚を支払って、そそくさと部屋に行くことにした。(時間もったいないし)

 かくして、テンプレ的な何かが起きる事は無く、無事に宿に辿り着くことが出来た秋山であった。





 ちなみに部屋はthe宿屋といった感じだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...