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伊豆綺談
伊豆の島々は様々に
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和泉松浦党の大船「竜牙」が修理する間、女性の乗り組み員を確保することを検討していて、紀平治が、南に女護島があると聞くので、行ってみてはどうかとの話となった。伊豆大島の為朝館で、郎党達を集め、関船を一艘借受、手下や舵取りを集めて、出発の準備をしていた。当時の航海技術では、目的地に一気に進むと言うのは、自分の位置を確認する上でも難しい状況でございました。女護島があるという辺りは、伊豆諸島の中でもかなり南になるらしく、途中にも利島や新島といった島がありました。
為朝は、伊豆大島の関船を召し上げて、女護島へと向かう一行となりました。関船は、戦仕立てで櫓で漕ぐことが前提で造られた、一本檣の帆掛け船でありました。伊豆大島の梃子が、三十廷の櫓に取りつきて、伊豆大島を出発します。
為朝に紀平治。長次達の愛宕衆六名。玲に、志奈が鷺衆の侍女二人と、兎耳をした塩飽衆を十人連れていった。妙は為朝の白縫姫が産んだ嫡子一姫の祐と、為頼と一緒に留守番となった。
鷺衆の志奈が、為朝に地図を渡した。
「為朝様。この三日で、鷺衆が周囲を見て来たのがこれだよ」
志奈が、何枚かの革紙を取り出した。一尺四方ほどの革紙に、伊豆の島々や伊豆半島が描かれていた。
ある程度は実測した資料も集められていて、大体の位置が判るような地図として描かれていた。
「これは、凄いな志奈。松浦党が海に生きれるわけだ」
九州で、暴れた時に、松浦の連中とやりあうには面倒だった。地形や場所を探るのが上手かったし、夜討ちや朝駆けといったことも平気でやる連中は面倒この上ない相手だったのを思い出していた。
「えへっ、あたいら鷺衆には、空があるからね」
一枚には、伊豆大島の図が描かれていた。海岸の様子、山や道の配置なんかが描かれていた。もう一枚には、伊豆半島を含めた本州の海岸と牧の郷、下田、伊東、熱海といった場所、伊豆大島までの距離が大雑把に描かれていた。
三枚目は、伊豆大島と周辺の島、神津島、三宅島、御蔵島について描かれていた。
「為朝や、この図は、そなたへの信頼じゃぞ」
玲が告げると、為朝は、
「わかっているよ、玲。おれは、もう護りたい奴しか護らん」
「為朝様」
「俺は、九州から付いて来てくれた、紀平治。玲や志奈、妙達のために戦うと決めた」
「あぅ、嬉しぃよぉ」
志奈は、泣き崩れた。
「為朝様」
紀平治は、泣き出した。
「あまり、無理するではないぞ、為朝」
玲もまた、瞳に涙をためながら、うるうるしていた。
泣き崩れた志奈が、おずおずと、一枚の革紙を取り出した。
「あっ、でも為朝様。周辺の島は、まだよくわからないよ。還りは、海岸沿いに西へ進むつもりだったから」
別の一枚には、伊豆大島、利島、新島、神津島、三宅島、御蔵島が描かれていた。
「いや。それは、仕方ないさ、これだと、一番、南にあるのが、御蔵島か」
「うん」
「そういえば、竜牙の修理は、後、どのくらいかかるかな」
「五日後には、白漆喰も固まると思う」
「なら、御蔵島までは、一気に行こう。そこで、話を集め南の島を探してもらおう」
「はいさ」
鷺衆が描きし図面は、飛行機に乗って描いた絵図面となりますので、当時としては、一定の精度で描かれていました。
天満宮の天文衆によって、大江高楼を基準とした、天測図が作成されており、露天神社に奉納されておりました。西は、瀬戸内から博多、肥後松浦に五島列島や対馬あたりのまでの海図と、東は伊豆大島から鬼が島まで、南は琉球から台湾までが記載されていました。かなり丹念に測量されて作っていたようで、現在の地図とほとんど差の無い海図となっていました。
伊豆大島から、上手く風を捕まえられたので、梃子に聞きながら、新島を右手に関船を南へと下げていくと、三宅島を過ぎて、御蔵島へとたどり着いた。ここで、水や食料を積み込もうと、梃子が島人と交渉を始めていた。そんな感じをしていて、長次達が、
「ここが女護島か」
「いや、あそこに男がおるぞ」
どうも、向かう先が女護島ということを聞いて、気もそぞろとなっているようであった。
「おんやぁ、あんたら、女護島に行きなさるか」
取れた魚を入れた籠を頭に載せて、船に近づいてきた。良い魚が入っていたので、籠を稲一束で買い取ったら、嬉しそうに話をし始めた。
「あぁ、女ばかりの島があるなら、男なら一度は、行ってみたいと思うであろう」
「時々、そんただこと言う者がおるがの、大概は、大蛇様に食われなされるだ」
「大蛇がでるのか、それは面白いが大きいのか」
「遠くからしか見たことは無いが、その船よりは大きいと思うぞ」
後に関船と呼ばれる和船は、30メートル程である、松浦の大船ほどではないが、なかなかの大きさではある。
「それは、大きいな。戦ってみたいな」
「これこれ、ここらの島守様じゃ、手を出してはならんぞ」
「島守様ということは、ここらの島を護っているのか」
「伊豆の島々を護るのが、女護島の大蛇様じゃ時折、海で見かけるしな、女衆を背に乗せてここらの海で遊んでおるよ」
「ほぉ、女護島は、ここから南にあるんやな」
「そうじゃが、本当に行きなさるか」
「あぁ、用事もあるからな。安心しろ、島守を斃すようなことはせん」
「わかったが、ほんとじゃの」
「ほんとじゃ、安心せぇぃ」
魚を売りに来た、おばさんとしばらく話をしていた。
世界には、様々に女人ばかりの国についての伝承があります。かのギリシャ神話には、アマゾネスという国の女王という言葉がありますが、これを日本語とした時に、女護国としたのは、この女護島の伝承に基づくものと言われております。現実とは、厳しいものと知りつつも、あやしく淫らな雰囲気が漂うのは、馬鹿な男の憧れと言うものでございましょうか、胸くすぐるものにございます。
まぁ、史実からすると、完全な女ばかりの国というわけではなく、女系の強い国という意味になるようです。
為朝は、伊豆大島の関船を召し上げて、女護島へと向かう一行となりました。関船は、戦仕立てで櫓で漕ぐことが前提で造られた、一本檣の帆掛け船でありました。伊豆大島の梃子が、三十廷の櫓に取りつきて、伊豆大島を出発します。
為朝に紀平治。長次達の愛宕衆六名。玲に、志奈が鷺衆の侍女二人と、兎耳をした塩飽衆を十人連れていった。妙は為朝の白縫姫が産んだ嫡子一姫の祐と、為頼と一緒に留守番となった。
鷺衆の志奈が、為朝に地図を渡した。
「為朝様。この三日で、鷺衆が周囲を見て来たのがこれだよ」
志奈が、何枚かの革紙を取り出した。一尺四方ほどの革紙に、伊豆の島々や伊豆半島が描かれていた。
ある程度は実測した資料も集められていて、大体の位置が判るような地図として描かれていた。
「これは、凄いな志奈。松浦党が海に生きれるわけだ」
九州で、暴れた時に、松浦の連中とやりあうには面倒だった。地形や場所を探るのが上手かったし、夜討ちや朝駆けといったことも平気でやる連中は面倒この上ない相手だったのを思い出していた。
「えへっ、あたいら鷺衆には、空があるからね」
一枚には、伊豆大島の図が描かれていた。海岸の様子、山や道の配置なんかが描かれていた。もう一枚には、伊豆半島を含めた本州の海岸と牧の郷、下田、伊東、熱海といった場所、伊豆大島までの距離が大雑把に描かれていた。
三枚目は、伊豆大島と周辺の島、神津島、三宅島、御蔵島について描かれていた。
「為朝や、この図は、そなたへの信頼じゃぞ」
玲が告げると、為朝は、
「わかっているよ、玲。おれは、もう護りたい奴しか護らん」
「為朝様」
「俺は、九州から付いて来てくれた、紀平治。玲や志奈、妙達のために戦うと決めた」
「あぅ、嬉しぃよぉ」
志奈は、泣き崩れた。
「為朝様」
紀平治は、泣き出した。
「あまり、無理するではないぞ、為朝」
玲もまた、瞳に涙をためながら、うるうるしていた。
泣き崩れた志奈が、おずおずと、一枚の革紙を取り出した。
「あっ、でも為朝様。周辺の島は、まだよくわからないよ。還りは、海岸沿いに西へ進むつもりだったから」
別の一枚には、伊豆大島、利島、新島、神津島、三宅島、御蔵島が描かれていた。
「いや。それは、仕方ないさ、これだと、一番、南にあるのが、御蔵島か」
「うん」
「そういえば、竜牙の修理は、後、どのくらいかかるかな」
「五日後には、白漆喰も固まると思う」
「なら、御蔵島までは、一気に行こう。そこで、話を集め南の島を探してもらおう」
「はいさ」
鷺衆が描きし図面は、飛行機に乗って描いた絵図面となりますので、当時としては、一定の精度で描かれていました。
天満宮の天文衆によって、大江高楼を基準とした、天測図が作成されており、露天神社に奉納されておりました。西は、瀬戸内から博多、肥後松浦に五島列島や対馬あたりのまでの海図と、東は伊豆大島から鬼が島まで、南は琉球から台湾までが記載されていました。かなり丹念に測量されて作っていたようで、現在の地図とほとんど差の無い海図となっていました。
伊豆大島から、上手く風を捕まえられたので、梃子に聞きながら、新島を右手に関船を南へと下げていくと、三宅島を過ぎて、御蔵島へとたどり着いた。ここで、水や食料を積み込もうと、梃子が島人と交渉を始めていた。そんな感じをしていて、長次達が、
「ここが女護島か」
「いや、あそこに男がおるぞ」
どうも、向かう先が女護島ということを聞いて、気もそぞろとなっているようであった。
「おんやぁ、あんたら、女護島に行きなさるか」
取れた魚を入れた籠を頭に載せて、船に近づいてきた。良い魚が入っていたので、籠を稲一束で買い取ったら、嬉しそうに話をし始めた。
「あぁ、女ばかりの島があるなら、男なら一度は、行ってみたいと思うであろう」
「時々、そんただこと言う者がおるがの、大概は、大蛇様に食われなされるだ」
「大蛇がでるのか、それは面白いが大きいのか」
「遠くからしか見たことは無いが、その船よりは大きいと思うぞ」
後に関船と呼ばれる和船は、30メートル程である、松浦の大船ほどではないが、なかなかの大きさではある。
「それは、大きいな。戦ってみたいな」
「これこれ、ここらの島守様じゃ、手を出してはならんぞ」
「島守様ということは、ここらの島を護っているのか」
「伊豆の島々を護るのが、女護島の大蛇様じゃ時折、海で見かけるしな、女衆を背に乗せてここらの海で遊んでおるよ」
「ほぉ、女護島は、ここから南にあるんやな」
「そうじゃが、本当に行きなさるか」
「あぁ、用事もあるからな。安心しろ、島守を斃すようなことはせん」
「わかったが、ほんとじゃの」
「ほんとじゃ、安心せぇぃ」
魚を売りに来た、おばさんとしばらく話をしていた。
世界には、様々に女人ばかりの国についての伝承があります。かのギリシャ神話には、アマゾネスという国の女王という言葉がありますが、これを日本語とした時に、女護国としたのは、この女護島の伝承に基づくものと言われております。現実とは、厳しいものと知りつつも、あやしく淫らな雰囲気が漂うのは、馬鹿な男の憧れと言うものでございましょうか、胸くすぐるものにございます。
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